成績概要書(作成 平成12年1月17日)

課題の分類
研究課題名:寒冷地における家畜糞、尿、雨水等の簡易分離技術
  (寒冷地における家畜ふん、尿、雨水等の簡易分離技術の開発)
予算区分:受託(国費)
担当:根釧農試 研究部 酪農施設科  高橋圭二、木村義彰
研究期間:平成10〜11年度
協力分担:草地試 放牧利用部 施設工学研究室

1.目的
 開放型の簡易スラリー貯留施設(ラグーン等)での雨や雪の混入によるスラリー処理量の増加、スカム発生による攪拌作業の増加を防止するため、簡易なラグーンの被覆方法を検討しその効果を明らかにする。また、フリーストール牛舎搬出糞尿の堆肥化処理を支援するため、牛舎通路での糞と尿の分離構造を検討しその効果を明らかにする。

2.方法
1)簡易貯留施設におけるスラリーと雨・雪の簡易分離試験
根釧農試内のスラリー貯留用ラグーン(25m×25m×2m)において、貯留スラリーの上に雨水分離シートとして防水シート(クロステント、28.8m×28.8m)を設置し(図1)、1998年6月〜1999年11月の間、降雨や降雪の分離状況、降水の貯留状況、スラリー投入に伴うシートの状況、シートの破損状況、および設置費用を調査した。
2)フリーストール牛舎における尿分離機構と尿分離効果
根釧農試乾乳牛舎において、通路中央部にオーパイプを設置した尿分離機構を設置し(図2)、搾乳牛9頭を収容して尿分離の効果を検討した。

3.結果の概要
1)雨水分離シートは、ラグーンを空にしてスラリー投入・搬出用ホースを固定し、ラグーン全体を覆う形で広げて設置した。シート周囲はコンクリートブロック等で固定し、速やかにシートの上に水道水を投入してあおり止めとした(写真1)。
2)雨水分離シートを設置したラグーンでのスラリーの投入、搬出に問題はなかった。また、1年半の試験期間の間、降雨と降雪(降水量計約2160mm)による滞留水をスラリーと完全に分離でき、これを排水することでスラリーが溢れることはなかった。日射等による劣化により、雨水分離シート周辺部の一部に破損がみられたが、スラリーと接する部分の破損はなかった(写真2)。
3)雨水分離シート上の滞留水は、カリウム濃度が降水の平均的濃度よりも高かったが、雨水分離シートのスラリーと接する部分に破損はなく滞留水の透明度も高いので、そのまま排水しても問題がないと考えられた。
4)面積25m×25mのラグーンでの雨水分離シートの設置資材費用は176,820円で、面積あたりの単価は約283円/m2であった。
5)尿分離機構を設置した通路上の糞は人力で搬出し、約196kg/日が回収できた。糞中の水分は平均85.0%でそのままでは十分な発酵は期待できない水分であった(表1)。しかし、尿分離機構のないフリーストール牛舎通路上で回収した糞尿中の水分88.4%と比較すると、水分調節資材量をほぼ半減できることから、尿分離機構は堆肥化支援技術として有効であると考えられた。
6)回収された分離液は、尿と比較すると水分が95%と低かったが、その肥料成分組成から判断して尿に近いものと考えられ、尿分離機構により良好に尿が排除されたと考えられた。

 


図1 遮水シート敷設型ラグーン用の雨水分離シートの設置状況

 

 


図2 牛舎内尿分離機構の概略

 


写真1:雨水分離シート設置直後(1998.6.30)

 


写真2:試験終了直前のシート状態(1999.11.4)

 

表1 牛舎内尿分離機構設置時の糞、分離液の回収量および水分(1999)

採取月日

糞量(kg)

分離液量(kg)

糞水分()

分離液水分()

1013

170

1014

176

6.1

85.27

94.53

1015

193

6.8

85.19

95.36

1016

207

12.1

84.52

96.09

1017

200

13.7

84.80

95.68

1018

232

14.7

85.35

94.91

平均

196

10.7

85.03

95.31

フリーストール床糞尿の水分(%)*

88.43

*1999.10.18に根釧農試総合試験牛舎フリーストール牛舎の牛床間通路の床にて回収。

 

4.成果の活用面と留意点
①雨水分離シートを設置した場合のスラリーの投入方法は、冬期間、滞留水が凍結するため、ポンプあるいはスラリースプレッダ等による圧送とする。②投入搬出用ホースの固定は耐腐食性の高い構造とする。③雨水分離シート上の滞留水は、水深20cm程度を目安として適宜排水するが、必要に応じて水質検査を実施する。しかし、雨水分離シートに破損があり滞留水の透明度が低い場合は、スラリーと混合して圃場へ散布し、雨水分離シートを交換する。④厳冬期におけるフリーストール牛舎尿分離機構の状況は未検討である。⑤通路の勾配を考慮した除糞方法を採用する。

5.残された問題とその対応
①雨水分離シートの耐久性の検討 ②スラリーストア等への応用 ③滞留水の簡易水質判定法