新品種候補               (作成 平成13年1月24日)
課題の分類
新品種候補名  てんさい「Kawe-J8131」
試験場所名  道立十勝農試、北見農試、中央農試、上川農試、根釧農試、北海道農試
北海道てん菜協会(日本甜菜製糖㈱、北海道糖業㈱、ホクレン農業協同組合連合会)

1.来歴および試験経過
 「Kawe-J8131」は、ドイツのKWS種子株式会社が平成8年に育成した二倍体単胚の一代雑種である。平成9年に日本甜菜製糖株式会社が輸入し、平成10年から12年に北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場並びに北海道農業試験場において輸入品種検定試験、てん菜協会において品種連絡試験、北見農業試験場においてそう根病抵抗性品種検定試験を行った。平成11年から12年に十勝農試、中央農試、根釧農試において各種特性検定試験、全道各地において現地検定試験を行った。

2.長所及び短所
長所 1)そう根病抵抗性が「リゾール」並の“強”で、そう根病発生圃場における根重、糖量は「リゾール」より優れる。
   2)健全圃場における根重、糖量は「めぐみ」より優れ、不純物価が「めぐみ」より低く、品質が良好である。
   3)耐湿性が「リゾール」、「めぐみ」より強い“中”である。
短所 1)根腐病抵抗性が「めぐみ」よりやや弱い“弱”である。
   2)根中糖分が「めぐみ」より低い。

3.特性及び奨励品種として採用する理由
 1)「Kawe-J8131」は、葉姿は「リゾール」の“やや直立”に対し“直立”で、葉長は“やや短”で「リゾール」よりやや短く、葉数は“多”で「リゾール」よりやや多い。葉形は「リゾール」の“やや皮針形”に対し“皮針形”、葉面縮は“中”、葉身の大きさは“やや小”である。クラウンの大きさは“小”、根形は「リゾール」の“円錐”に対し“短円錐”、根周は“やや大”で「リゾール」よりやや大きい。露肩は“やや少”、分岐根は“少”である。

 2)健全圃場では「リゾール」、「めぐみ」と比較して根重はかなり多く、根中糖分は低く、糖量はかなり多い。根腐症状の発生は「リゾール」より少ない(表1)。不純物価は「リゾール」、「めぐみ」より低い(表3)。また、そう根病発生圃場では「リゾール」と比較して根重はかなり多く、根中糖分は同等で、糖量はかなり多い(表2)。

 そう根病抵抗性は「リゾール」並の“強”である(表2)。
 抽苔耐性は「モノホマレ」、「リゾール」、「めぐみ」並の“強”である(表3)。
 褐斑病抵抗性は「リゾール」よりやや強く、「モノホマレ」、「めぐみ」より強い“やや強”である(表3)。
 耐湿性は「モノホマレ」、「めぐみ」よりやや強く、「リゾール」より強い“中”である(表3)。
 根腐病抵抗性は「モノホマレ」、「めぐみ」よりやや弱い“弱”である(表4)。
 黒根病の発生は「めぐみ」よりやや少なく、「リゾール」より少ない(表4)。

 現地試験の結果、根重が「モノホマレ」より多く、根中糖分が「モノホマレ」よりやや低く、糖量では「モノホマレ」より多い(表4)。

 3)以上のことから、「Kawe-J8131」は、そう根病抵抗性が「リゾール」並の“強”であるが、そう根病発生圃場における根重、糖量は「リゾール」より優れ、健全圃場における根重、糖量も一般品種の「めぐみ」より優れる。また、耐湿性が「リゾール」より強く、黒根病の発生が「リゾール」より少ないので、根腐症状の発生が「リゾール」より少ない。
 これらのことから、「Kawe-J8131」「をリゾール」のすべてと一般品種の一部に替えてそう根病発生地帯に普及することにより、てんさいの安定生産に寄与できる。

表1 健全圃場における成績(農試及びてん菜協会、平成10〜12年)
系統名
・品種名
褐斑病
発病程度
根腐症
状株率
抽苔
株率
根重
(t/10a)
根中糖分
( % )
糖 量
(kg/10a)
「モノホマレ」比
根重 糖分 糖量
Kawe-J8131
モノホマレ
リゾール
め ぐ み
0.2
0.4
0.1
0.5
0.5
0.7
5.8
1.2
0.0
0.0
0.0
0.1
7.76
6.86
6.15
7.02
15.88
16.16
16.25
16.32
1,229
1,106
997
1,143
113
100
90
102
98
100
101
101
111
100
90
103

注1)農試(十勝、北見、中央、上川農試、北農試)及びてん菜協会(日甜(帯広市)、北糖(本別町)、ホクレン(女満別町))の8カ所、3カ年平均。(中央農試は2カ年)。
 2)根腐症状株率:指数4以上。

表2 そう根病発生圃場における成績(北見農試隔離圃場、平成10〜12年)
系統名
品種名
葉部黄
化程度
褐斑病
発病程度
根 重
( t/10a)
根中糖分
(%)
糖 量
(kg/10a)
そう根病
抵抗性
Kawe-J8131
モノホマレ(標準)
リゾール (対象)
シュベルト(比較)
0.2
2.0
0.2
0.2
0.2
1.7
0.0
0.2
6.64(191)
3.48(100)
4.82(139)
6.02(173)
15.53(130)
11.98(100)
15.62(130)
16.02(134)
1029(239)
431(100)
752(174)
958(222)

やや弱

注1)そう根病発生程度は平成10,11年:多、平成12年:中である。
 2)表中の()内は「モノホマレ」に対する比。
 3)葉部黄化程度:0(正常)〜4:(全ての葉で退緑黄化)

表3 品質調査、特性検定試験(平成10〜12年)
系 統 名
または
品 種 名
品質調査(H10〜12年) 褐斑病抵抗性
(十勝農試)
発病程度
抽苔耐性
(根釧農試)
抽苔率(%)
耐湿性
(中央農試)
腐敗度
有害性非糖分
(meq/100g)
不純
物価
(%)
アミノN Na 9上 10上 判定 H11 H12 判定 H11 H12 判定
Kawe-J8131
モノホマレ
リゾール
め ぐ み 
1.78
2.28
2.60
2.27
3.78
4.33
4.85
4.52
0.44
0.65
0.34
0.70
4.16
4.96
5.36
5.05
0.77
2.26

2.44
3.99

やや強
やや弱
(中)
(弱)
0.3
0.0
 -
 -
0.2
0.0
 -
 -


(強)
(強)
76.0
91.9
96.7
 −
31.5
62.4
86.5
 −

やや弱

(やや弱)

注1)品質調査は農試及びてん菜協会の8カ所、3カ年平均(中央農試は2カ年)。
 2)不純物価(%)=(3.5×Na(%)+2.5×K(%)+10×Amino-N(%))÷根中糖分(%)×100
    Na:ナトリウム K:カリウム Amino-N:アミノ態窒素
 3)褐斑病発病程度は平成11〜12年の2カ年平均値。褐斑病抵抗性、抽苔耐性、耐湿性の()は以前の結果。

表4 根腐病抵抗性特性検定試験、黒根病調査(平成11〜12年)
系 統 名
品 種 名
根腐病発病程度
(十勝農試)
黒根病発病程度
中央農試 現地試験
H11 H12 判定 H10〜11平均 H11 H12
Kawe-J8131
モノホマレ
リゾール
め ぐ み
2.75
2.62

3.28
2.93


やや弱

(やや弱)
0.2
0.5
1.1
0.4
0.3(0.1)
0.2(0.1)
−(−)
−(0.3)
0.4(0.2)
0.3(0.1)
−(−)
−(0.2) 

注1)根腐病は病原菌を接種、黒根病は無接種。根腐病抵抗性の()は以前の結果。
 2)現地試験はH11:12カ所、H12:11カ所の平均。()内は「めぐみ」を供試した場所(H11:3カ所、H12:1カ所)の平均。

表5 現地検定試験成績全道平均(平成11〜12年,2カ年平均)
系 統 名
品 種 名
根腐症状
株率(%)
根中
(t/10a)
根中糖分
(%)
糖 量
(kg/10a)
「モノホマレ」比(%)
根 重 根中糖分 糖 量
Kawe-J8131
モノホマレ
め ぐ み
5.4(4.0)
2.5(0.5)
- (3.8)
6.55(6.87)
6.00(6.27)
- (6.24)
14.86(14.98)
15.15(15.40)
- (15.57)
973(1031)
910( 965)
- ( 975)
109(110)
100(100)
- (100)
98( 98)
100(100)
- (101)
107(107)
100(100)
- (101)

注) ( )内は参考品種「めぐみ」を供試した場所(H11:3カ所、H12:1カ所)の平均。

4.配布可能種子量
 平成13年度以降   2,500kg

5.適応地帯および普及見込面積
 北海道一円のそう根病発生地帯    平成13年度以降  2,500ha

6.栽培上の注意
 1)そう根病抵抗性が“強”であるが、汚染程度が高い圃場での栽培を避ける。
 2)根腐病抵抗性は“弱”なので、適期防除に留意する。