新品種候補 (作成 平成13年1月)
ばれいしょ「P982」
北海道立中央、上川、道南、十勝、北見農業試験場,
農林水産省北海道農業試験場北海道種馬鈴しょ協議会
1.特性一覧表
系統名 | ばれいしょ「P982」 | 組合せ | 島系560号(ホワイトフライヤー) × 島系558号(さやか) |
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特性 | 長所 | 短所 | |||||||||||
1)長期低温(6℃)貯蔵後のチップカラーが 優れる。 |
1)大いもに「トヨシロ」と同様に中心空洞が 発生することがある。 |
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2)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有す る。 |
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普及対象地域と普及見込み面積 | 北海道一円。1,500ha | ||||||||||||
調査場所 | 中央農試 | 上川農試 | 十勝農試 | 北見農試 | |||||||||
P982 | トヨ シロ (標準 ・対照) |
農林 1号 (対照) |
P982 | トヨ シロ |
農林 1号 |
P982 | トヨ シロ |
農林 1号 |
P982 | トヨ シロ |
農林 1号 |
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萌芽期 | (月.日) | 5.29 | 5.30 | 5.28 | 5.28 | 5.28 | 5.27 | 5.29 | 5.30 | 5.27 | 5.31 | 6.05 | 5.30 |
枯凋期 | (月.日) | 9.08 | 9.01 | 9.19 | 9.09 | 9.05 | 9.24 | 9.11 | 9.04 | 9.17 | 9.22 | 9.13 | 9.28 |
終花期の茎長 | (cm) | 55 | 52 | 64 | 63 | 59 | 80 | 62 | 60 | 74 | 61 | 62 | 65 |
上いも数 | (個/株) | 9.1 | 7.8 | 9.5 | 11.2 | 10.6 | 12.7 | 8.8 | 9.0 | 9.3 | 9.3 | 9.5 | 9.5 |
上いも平均一個重 | (g) | 105 | 108 | 105 | 100 | 98 | 98 | 102 | 102 | 100 | 107 | 113 | 118 |
上いも収量 | (kg/10a) | 4,249 | 3,545 | 4,418 | 4,862 | 4,513 | 5,486 | 3,921 | 4,029 | 4,114 | 4,611 | 4,855 | 5,098 |
同上「トヨシロ」比 | (%) | 120 | 100 | 125 | 108 | 100 | 122 | 97 | 100 | 102 | 95 | 100 | 105 |
中以上いも収量 | (kg/10a) | 3,834 | 3,108 | 3,943 | 4,319 | 3,975 | 4,907 | 3,625 | 3,620 | 3,784 | 4,215 | 4,466 | 4,828 |
同上「トヨシロ」比 | (%) | 123 | 100 | 127 | 109 | 100 | 123 | 100 | 100 | 105 | 94 | 100 | 108 |
でん粉価 | (%) | 14.8 | 16.2 | 15.3 | 14.5 | 14.7 | 14.4 | 15.7 | 15.9 | 15.2 | 16.3 | 16.9 | 17.6 |
花色 | 白 (花裏 に紫) |
白 | 白 | ||||||||||
塊茎の形状 | 球 | 扁球 | 扁球 | ||||||||||
皮色 | 黄白 | 黄褐 | 黄白 | ||||||||||
目の深浅 | やや浅 | 浅 | 中 | ||||||||||
肉色 | 白 | 白 | 白 | ||||||||||
ジャガイモシストセンチュウ抵抗性 | 強(H1) | 弱(h) | 弱(h) | ||||||||||
塊茎腐敗抵抗性 | 中 | やや弱 | 中 | ||||||||||
疫病圃場抵抗性 | 弱 | 中 | 中 | ||||||||||
ジャガイモYモザイク病抵抗性 | 弱 | 弱(中) | 弱(中) | ||||||||||
そうか病抵抗性 | 弱 | 弱 | 弱 | ||||||||||
中心空洞の多少 | 微 | 微 | 微 | ||||||||||
褐色心腐の多少 | 微 | 無(微) | 少 | ||||||||||
ポテトチップ品質 | 収穫時 | 良 | 良 | やや良 | |||||||||
貯蔵後 | 良 | 不良 | 不良 | ||||||||||
調査年次 | 平成10年〜12年 |
2.ばれいしょ「P982」の特記すべき特徴
ばれいしょ「P982」は、中生の加工食品用系統で、長期低温(6℃)貯蔵後のチップカラーが「トヨシロ」「農林1号」より優れる。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する。
3.北海道で奨励品種に採用しようとする理由
ばれいしょを用いた加工食品は、水煮加工と油加工に大別される。油加工食品でもっとも多く作られているのがポテトチップであり、道産ばれいしょでは中早生種の「トヨシロ」を中軸に、早生種の「ワセシロ」、中晩生種の「農林1号」などが使われている。このうち、「ワセシロ」は道産原料のトップバッターとして、収穫直後にすべてが使われるが、「トヨシロ」及び「農林1号」は収穫直後の加工のみならず、貯蔵されて本州産原料の供給が始まる5月末まで使用されている。貯蔵では、塊茎の呼吸量を押さえて原料の損耗を防ぐため、低温であることが望ましい。しかし、これらの品種は10℃以下の低温貯蔵ではチップカラーを悪化させる還元糖が蓄積するため、比較的高温で貯蔵されており、また低温で貯蔵した場合には、加工前に還元糖を減らすため、リコンディショニング(加温処理;糖の消費とでん粉の再合成)などの前処理を行う必要がある。このため、低温貯蔵で還元糖が蓄積しない品種の開発が望まれている。
「P982」は、6℃の貯蔵で、かつリコンディショニングを行わなくとも、高温貯蔵や前処理を行う従来品とほぼ同等の品質を5月まで得ることができるため、高温貯蔵による原料の損耗を最小限に防ぐことができる。また、同様の特性を持つ既存品種(「ノースチップ」「スノーデン」)と比較しても、これらの欠点であったジャガイモシストセンチュウ抵抗性や収量性が改善されている利点を持つ。
以上のことから、「P982」をポテトチップ向けの貯蔵原料用として栽培されている「農林1号」及び「トヨシロ」の一部に置き換えることにより、高品質原料の安定供給が可能となり、道産ばれいしょの振興に寄与することができる。
4.普及対象地域
北海道一円
普及見込み地域における「P982」の中以上いも収量「トヨシロ」対比(%)
5.栽培上の注意
(1)大いもに中心空洞が発生することがあるので、多肥や疎植を避ける。