成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:黒毛和種種雄牛「深晴波(ふかはるなみ)号」     
          (北海道優良基幹種雄牛育成事業)
予算区分:国補事業
研究期間:平成4〜12年度
担当科:道立畜産試験場 家畜生産部育種科
                  畜産工学部受精卵移植科
協力分担:

1.はじめに 北海道における黒毛和種の飼養頭数は着実に増加を続けており、わが国の黒毛和種生産基地となることが期待されている。しかし、本道の黒毛和種の産肉能力は府県と比較して低水準にあるとされていることから、改良推進のための道産優良種雄牛の作出が急務となっている。本事業では、一般的な種雄牛検定法に受精卵移植技術を利用した全兄弟検定を組み込んだシステムを用い、肉質・肉量ともに優れた産肉能力を持つ「深晴波(ふかはるなみ)号」を作出した。 
2.作出の経過
1)候補牛生産のための遺伝資源導入 種雄牛の候補牛を生産するため、4系統の供卵牛および種雄牛(精液)を道外から導入した。4系統は、増体・繁殖能力が優れている気高系、増体・繁殖能力が高く肉質も優れている藤良系、増体・枝肉重量は劣るが肉質が極めて良い田尻系・茂金系とした。
2)候補牛の生産と検定システム 上記4系統を用いて計画交配を実施して1組合せ当たり22個、6組で計132個の受精卵を作成する。「育種協力農家」の受卵牛132頭に移植し、受胎率を約50%として雄子牛をそれぞれの組で5頭(全兄弟)ずつ計30頭生産する。全兄弟グループの中から発育等に優れた候補牛を1頭ずつ(計6頭)選定し直接検定を行う。同時に候補牛以外の全兄弟牛は去勢して全兄弟検定を行う。直接検定および全兄弟検定の成績により直接検定牛6頭の中から2頭を選抜する。この2頭の候補牛の精液を用いて生産された去勢子牛それぞれ10頭を供試牛として間接検定を行い、最終的な優良種雄牛としての評価を行う(図1)。この検定サイクルは5年を要するが平成5年度から毎年このサイクルを開始することにより平成11年度以降は毎年2頭の候補牛の間接検定が終了する予定となっている。

3)優良種雄牛の選抜  平成11・12年度に実施した計4頭の間接検定の結果、「深晴波」は脂肪交雑と皮下脂肪厚が特に優れている他、出荷体重、枝肉重量も良好であり、肉質の良い大きな枝肉を生産できる質量兼備のバランスのとれた能力を持つことが明らかになった。そこで、「深晴波」を普及奨励すべき優良種雄牛として選抜した。
3.能力の概要
1)血統: 「深晴波」は父系系統表記では気高系の「賢深」を父に、藤良系の「ほうせい」を母とする交配から作出された(図2)。
                             
2)発育性: 「深晴波」の日増体量は直接検定で1.11kg/day、全兄弟検定で0.92kg/day、間接検定で0.94kg/dayであり、全国平均と同程度の水準である(表1、2、3)。
3)産肉性: 「深晴波」の枝肉重量は全兄弟検定で350kg、間接検定で367kgと全国平均より大きい。また、皮下脂肪厚は全兄弟検定で1.4cm、間接検定で1.3cmと非常に薄く、精肉歩留の良い枝肉生産が期待できる。ロース芯面積、ばらの厚さは全国平均と同程度の水準である。脂肪交雑は全兄弟検定で2.8、間接検定で2.9と全国平均を大きく上回る水準であり、肉質改良への貢献が期待される(表2、3)。
4)遺伝病: 「深晴波」は「バンド3欠損症」、「第13因子欠損症」、「クローディン16欠損症」の遺伝子を保有していない。

 4.普及対象
 「深晴波」は主に道内繁殖雌牛の更新に用いる。父の系統が晴美系を除くほとんどの繁殖雌牛に対して交配可能であるが、特に枝肉重量の小さい田尻系・茂金系の繁殖雌牛への交配に適する。なお、平成12年度北海道農業試験会議終了後、道および肉牛関係団体で構成する「北海道肉用牛戦略会議」において「北海道推奨種雄牛」として指定を受けた後、普及組織や行政を通じての普及の他、生産団体、和牛改良組織等を通じても積極的な普及を図る予定である。