成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:凍結初乳の連続給与と人工哺育による肉専用牛の下痢症対策     
          (子牛下痢症の予防ワクチンの開発)
予算区分:道費
研究期間:平成7〜11年度
担当科:道立畜産試験場 畜産工学部感染予防科
                  家畜生産部育種科 協力分担:なし

1. 目的
 子牛の下痢症は発育不良や死亡による経済的損失が大きいため、肉牛農家にとって予防対策の確立は重要課題である。下痢症の基本的な予防対策としては、疾病に対する子牛の抵抗力の増強、飼養環境の改善によるウイルスや細菌など感染源の減少や子牛へのストレスの軽減などが挙げられる。本課題では、感染性下痢の主要な原因である牛ロタウイルスの肉牛農場における動態と初乳抗体の牛ロタウイルス病に対する防御効果を明らかにし、子牛の下痢発生率の高い黒毛和種繁殖農場において、凍結初乳の連続給与と人工哺育による下痢症予防試験を行った。
 
2. 方法
1) 肉専用種牛農場における牛ロタウイルスの動態
 肉専用種農場の育成牛8頭、成雌牛15頭の糞便441検体、牛舎パドック溜まり水4検体および牛舎管理者の長靴拭い液3検体から牛ロタウイルスの分離を試みた。    
2) 初乳抗体の牛ロタウイルス病に対する防御効果
 牛ロタウイルス病子牛30頭および下痢を認めなかった正常子牛23頭の血清中のロタウイルスに対する中和抗体価を測定し、ウイルス中和抗体価と下痢発症日齢、下痢持続日数、下痢スコア、ウイルスの排泄日数との関連を検討した。
3) 凍結初乳の連続給与と人工哺育による黒毛和種子牛の下痢症対策
 子牛の下痢症が多発する黒毛和種牛の繁殖農家において、下痢症予防のために凍結初乳を子牛に生後14日間連続給与した。また、子牛を生後6時間で母牛から分離し子牛用ペンで人工哺育を行った。生後1ヵ月間は1頭ずつ個別管理し、厳寒期には防寒対策として、電球をつけ毛布の防寒服を着用させた。 
 
3. 結果の概要
1)  牛ロタウイルスは下痢子牛だけでなく、臨床的に正常な育成牛や成牛からも排泄され、牛舎パドック溜まり水や長靴も感染源になりうることが明らかになり(表1,2)、飼養環境の整備が重要であることが示された。
2)  ロタウイルス病子牛の血清中ウイルス中和抗体価は正常子牛と比較して低値であった(表3)。ウイルス中和抗体価と下痢発症日齢、下痢持続日数、下痢スコアおよびウイルス排泄日数に相関が認められ、初乳抗体はロタウイルス病の防御や症状の軽減に働くことが示唆された。
3)  子牛の下痢症が多発する黒毛和種繁殖農場では、自然哺乳時の下痢症発生率が約50%であったが(図1)、人工哺育開始後は下痢発生率が約4%となり(図2)、凍結初乳の連続給与と親牛からの隔離・人工哺育により、下痢症の発生率を低下することができた。
 

4.成果の活用面と留意点
1) 子牛の下痢症が多発する農場では、凍結初乳の連続給与と親牛からの隔離・人工哺育は子牛の損耗率低下に有効な対策となる。
2) 凍結初乳の利用にあたっては、ヨーネ病および牛白血病に罹患していない牛の初乳であること、初産牛や低比重(1.036未満)の初乳は避けるよう注意する。

5.残された問題とその対応
1) 肉牛農家での初乳の確保と給与法の検討。
2) 自然哺乳で子牛を飼養する農場における下痢症対策の検討。