成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:チモシー主体粗飼料のα−トコフェロールおよびβ−カロテン含量     
          (粗飼料成分と乳・肉品質特性の関連解明−放牧による高ビタミン牛乳生産技術の開発)
予算区分:国費受託
研究期間:平成10〜11年度
担当科:根釧農試 研究部乳質生理科
協力分担:なし

1.目 的
 α−トコフェロール(ビタミンE)とβ−カロテンは乳房炎や繁殖障害の減少を目的とする積極的補助飼料として注目され、同時にその要求量(給与推奨値)も増大する傾向にある。道東・道北地域の主要な自給飼料であるチモシー主体粗飼料について、乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度に対する調製条件や貯蔵期間の影響、さらには、現地における各種チモシー主体粗飼料 の乾物中濃度の実態を明らかにして、粗飼料品質の向上と利用のための資料とする。

2.方 法
1)粗飼料の調製条件と貯蔵期間が乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度に及ぼす影響
 刈り取り時期およびほ場での水分調整時間の影響を経過日による多項式回帰法で検討し、回帰式による調製原料草の乾物中濃度の予測を試みた。また、牧草部位別の濃度と全体含有量に占める割合、サイレージ貯蔵中の乾物中濃度の変化を検討した。 2)チモシー主体粗飼料の乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度の実態に関する調査
 根釧農試および道東・道北地域の酪農場からチモシー主体粗飼料延べ183試料を採取し、乾物中のα−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度を測定した。

3.結果の概要
1)粗飼料の調製条件と貯蔵期間が乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度に及ぼす影響
(1)乾物中のα−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度は刈り取り時期が遅れるほど減少し、経過日当たりの減少量は2番草に比較して1番草で大きかった。
(2)乾物中のα−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度は葉身部が最も高く、刈り取り生草の全体含有量に占める葉身部の割合はα−トコフェロールで68%、β−カロテンで56%を占めた。
(3)水分調整時間の経過とともに、乾物中のα−トコフェロールとβ−カロテン濃度は減少した。両成分の乾物中濃度の残存割合は、水分調整3日目まで同様に減少し1日目で61%、2日目で38%、3日目で23%であった。
(4)密封状態で保存された中・低水分サイレージの、貯蔵中のα−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度の損失は小さかった。
(5)番草別の刈り取り時期と水分調整時間から、調製原料草の乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度の目安値を予測する等高線図を作成した(図1)。

2)チモシー主体粗飼料の乾物中α−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度の実態に関する調査
(1)乾物中のα−トコフェロールとβ−カロテン濃度には高い相関があり、β−カロテンの増加にともないα−トコフェロール濃度は増加した。しかし、放牧草では他の粗飼料に比較してα−トコフェロール濃度の増加割合が低下し、α−トコフェロール濃度は頭打ちとなった。
(2)乾物中のα−トコフェロールおよびβ−カロテン濃度は生草では放牧草>2番草生草>1番草生草の順であった。調製粗飼料では高・中水分サイレージ(乾物率34%以下)>低水分サイレージ(乾物率35%以上)>乾草の順であった。
(3)総トコフェロールに占めるα−トコフェロール割合は95〜75%と高かったが、粗飼料の乾物率が高くなるほど低下した。
(4)多くの粗飼料は、日本飼養標準乳牛(1999年版)のビタミンA推奨値とNRC乳用牛飼養標準第6版(1989年改訂版)のビタミンE推奨値を満足した。しかし、ほとんどの1番草乾草と一部の2番草乾草・低水分サイレージは、これらの値を充足できなかった(表1)。



4.成果の活用面と留意点
 1)粗飼料のβ−カロテン・α−トコフェロール含量の向上、及び、乳牛の飼料給与設計に利用できる
 2)目安値に対する刈り取り時期の影響は根室地区のデータに基づいている。1番草は生育期の進行による変化量が大きいので、他の地域では生育期による補正が必要である。

5.残された問題とその対応
 1)飼料からのα−トコフェロール摂取量と血中濃度との関係解明