成績概要書        (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:省力型放牧草地としてのケンタッキーブルーグラス・シロクローバ混播草地の適性評価     
          (予算課題名:北海道における持続型放牧草地の植生管理技術の開発)
予算区分:経常・畜産対応研究(自給飼料基盤)
研究期間:平成9〜12(〜15)年度
担当科:北海道農試 草地部草地管理・地力研究室
担当者:三枝俊哉・手島茂樹・小川恭男・高橋俊
協力分担:

1.目的
北海道においても農村の労働力不足が深刻化し,余剰農地の耕作放棄が懸念されている。これを防止するためには,離農跡地を取り込んだ大規模草地における省力的放牧利用の有効性を示すことが重要である。省力的な放牧方法として定置放牧を想定すると、この放牧方法に耐え、北海道全域で栽培可能な草種としてケンタッキーブルーグラス(以下、KB)が考えられる。寒地におけるKBは優良草地に侵入する雑草として駆除の対象とされてきたが、上記のような国土保全的土地利用に対しては、その生態的な安定性が大きな長所になり得る。KBに指摘される栄養価と嗜好性の低さに対しては、シロクローバ(WC)との混播や短草利用が対策として期待される。そこで、寒地ではこれまで研究事例の少なかったKB・WC混播草地を対象に、定置放牧によって短草利用した場合の植生の安定性や牧草および家畜の生産性について評価する。

2.方法
   1). 供試土壌:褐色火山性土(北海道農試場内)
   2). 供試草地:KB「トロイ」・WC「ソーニヤ」混播草地(1996年造成) 2牧区(1牧区0.625ha)
       (参考) チモシー「ホクシュウ」・KB「トロイ」混播草地(1999年造成)  2牧区(1牧区0.625ha)
   3). 供試牛: ホルスタイン去勢牛(6ヶ月齢,200kg)
   4)施肥量:1998-1999年 標準施肥N-P2O5-K2O 72-96-132kg/ha 4月下旬、6月下旬、8月下旬均等分施
       2000年 減肥  N-P2O5-K2O 24-32-44kg/ha 4月下旬全量施肥
   5) 放牧方法:定置放牧、輪換放牧(対照、10牧区で毎日輪換)
   6) 放牧頭数:現存量に応じて調節 試験開始時6頭/牧区、夏以降2-3頭/牧区

3.結果の概要
1) KB(品種名:トロイ)30kg/ha、WC(品種名:ソーニヤ)1kg/haを8月に播種して両草種の混播草地を造成した結果、KBの茎数密度は造成当年から10000本/m2前後で安定的に推移し、地下茎および根は造成翌年の利用初年目から2年目にかけて急激に発達したのちに安定化した(図1)。
2) 利用2年目から、草丈10-20cmの短草利用による定置放牧を行った。このときのKB草地の季節生産性は、チモシーなどの長草型草種と比較してきわめて平準であり(図2)、省力的な放牧利用に有益な特徴を示した。
3)KBとWCは季節的な盛衰を繰り返しながら、マメ科率(乾物重構成割合)10〜40%の範囲で良好に混生した(図3)。植生変化に関するこれらの特性は永続的な草地の放牧利用に有益である。
4)KB・WC混播草地において放牧草の主体を占めるKBのTDN含有率は5月に67%で最大となり、8月に63%まで低下し、9月にやや向上したが10月に再び低下した(図4)。一方、放牧草全体のTDN含有率は66〜69%の範囲にあり、季節変動は小さかった(表1、図4)。このことは、WCの混生によって放牧草全体のTDN含有率が大きく改善され、季節変動も軽減されたことを示している(図4)。
5)KB・WC混播草地は定置放牧条件でも集約的な短期輪換放牧に遜色ない生産性を示した(表1)。その水準はチモシーの輪換放牧条件におよばないものの、放牧日数168日間、延べ放牧頭数を体重500kg換算で559頭・日/haとした場合、ヘクタール当たり増体量858kg/ha、日増体量0.86kgと良好なものであった(表1)。1998年における低い増体の一因は6月の過放牧にあると思われた。本放牧条件で増体を高水準に維持するには放牧頭数の季節的な調節が重要と考えられた。
6)北海道施肥標準に準じた施肥量で管理された1998-1999年における放牧草の施肥成分含量は経時的に増大した(図5)。また、それらを採食した放牧牛の血液中の尿素態窒素濃度は明らかに上昇し、摂取した窒素の無駄や雌牛では繁殖障害の危険性が指摘される水準(20mg/dL以上)に至った(図6)。
7) 施肥量を1/3に低減した結果、施肥成分の放牧草地への蓄積や血液性状への悪影響は軽減された(図5,6)。  以上の結果、ケンタッキーブルーグラス・シロクローバ混播草地の有する植生の安定性、牧草および家畜生産性の能力が明らかとなり、省力的放牧に適した特徴を明示できた。さらに、短草利用・昼夜放牧条件における施肥量過剰の問題点を指摘し、減肥による改善の可能性を示唆した。

 

4.成果の活用面と留意点
ケンタッキーブルーグラス放牧草地を対象とした草地管理研究の参考になる。

5.残された問題とその対応
昼夜定置放牧・短草利用時の適正施肥技術、頭数を調節しない飼養技術の開発とそのときの生産水準の解明
畜産対応研究(自給飼料基盤)の後期課題(平成13-15年)で取り組む