成績概要書                     (作成 平成13年 1月)
課題の分類  北海道  生産環境  土壌肥料
研究課題名:エダマメ(大豆)に対するアゾスピリラム菌の接種効果の解明
       (エダマメに対するアゾスピリラム菌と根粒菌の同時接種効果の解析および接種法改善)
予算区分:受 託
担 当 科:中央農試 クリ−ン農業部 土壌生態科
       花・野菜技術センタ− 研究部 園芸環境科
研究期間:平成11年〜12年度
協力・分担関係:十勝農協連 農産化学研究所

1.目 的
 エダマメに対するアゾスピリラム菌の接種効果を実証し、整理する。さらにアゾスピリラム菌と根粒菌の混合接種の有効性について検討する。

2.方 法
試験1)アゾスピリラム菌と根粒菌の接種法の違いがエダマメの生育に及ぼす影響(ポット試験、平成12年)
 供試土壌:殺菌した中央農試ほ場土壌(客土畑、淡色黒ボク土)。
 供試菌:Azospirillum sp.(Azo-18)、Bradyrhizobium japonicum(J1065)いずれも十勝農協連が分離。
 処 理:接種方法3(ノ−キュライド加工、含菌ピ−トモス種子粉衣標準量、含菌ピ−トモス種子粉衣10倍量)×菌接種4(無接種、根粒菌のみ、アゾスピリラム菌のみ、アゾスピリラム菌+根粒菌)、 計12処理区 各5反復。中央農試の25C温室で47日間栽培。

試験2)エダマメの発根に及ぼすアゾスピリラム菌と植物ホルモンの影響(室内実験、平成11〜12年)
 検定法:初生葉展開期の根部除去苗をアゾスピリラム菌の含菌懸だく液(21×104 cfu/mL)、インド−ル酢酸水溶液(7.5μg/mL)に2時間浸漬した後、殺菌水のみを含む石英砂培地に挿し木し20〜25Cの実験室で11日間培養。培養後、発根数と根長を調査。

試験3)アゾスピリラム菌の植物ホルモン(インド−ル酢酸)産生能(室内実験、平成11〜12年)
 検定法:L-トリプトファン(基質)を含む液体培地でアゾスピリラム菌(Azo-18)を30C、10日間培養し、産生されたインド−ル酢酸をサルコフスキ−法により発色させ、分光光度計により定量。

試験4)エダマメに対するアゾスピリラム菌と根粒菌の混合接種効果(ほ場試験、平成11〜12年)
 試験地:花・野菜技術センタ− 大豆未作付けほ場(造成台地土−軽石堆積物客土)。
 接種方法:含菌ピ−トモスによる種子粉衣(供試菌は試験1と同じ)。
 処 理:窒素施肥量2(2、6kg/10a)×菌接種4(無接種、根粒菌のみ、アゾスピリラム菌のみ、アゾスピリラム+根粒菌) 計8処理区 各2反復、12m2/反復。

試験5)エダマメに対するアゾスピリラム菌と根粒菌の混合資材(市販品)の接種効果(ほ場試験、平成10年)
 試験地:花・野菜技術センタ− 大豆未作付けほ場(造成台地土−軽石堆積物客土)。
 接種源(含菌ピ−トモス):エダマメ用の市販混合資材(アゾスピリラム菌+根粒菌)、根粒菌は試験1と同じ。
 処 理:接種方法2(土壌接種、種子粉衣)×菌接種3(無接種、根粒菌のみ、混合資材)、計6処理区 各2反復、13.2m2/反復。

共通事項  供試したエダマメ品種:「サッポロミドリ」(試験3を除く各試験)。

3.結果の概要
1)殺菌土を用いたポット接種試験(試験1)
 アゾスピリラム菌はエダマメの根粒着生数と根重の増加および窒素吸収の増大をもたらした(表1)。これらの効果は種子のノーキュライド加工よりも含菌ピートモスによる種子粉衣で有効であり、とりわけ多量種子粉衣(10倍量)で顕著であった。

2)室内実験(試験2、3)
 アゾスピリラム菌は根の分化、伸長をやや促進したが、その効果はインド−ル酢酸に比べて小さかった。しかし、アゾスピリラム菌はインド−ル酢酸産生能を有することがトリプトファン(基質)を添加した培地を用いた培養試験により認められた(表2)。このようなインド−ル酢酸産生能はエダマメの根重増加をもたらした一要因と考えられた。

3)大豆未作付けほ場における接種試験(試験4、5)
 窒素2kg/10aの標準施肥量下ではエダマメの収量に対するアゾスピリラム菌と根粒菌の混合接種は、各菌の単独接種よりも効果の高いことが示唆された(表3)。一方、窒素6kg/10a施用下では年によっては各菌の単独接種および混合接種の効果は認められなかった(表3)。
 さらに、市販のアゾスピリラム菌と根粒菌の混合資材は、エダマメの根粒着生数を増加させるとともに生育促進および収量増に対して効果が認められ、これらの効果は根粒菌単独に比べて優った(表4)。接種方法としては土壌接種が種子粉衣に比べてより効果的であった。

   表1 エダマメの生育に及ぼすアゾスピリラム菌と根粒菌接種の影響(接種後47日目)
処理区 個体当たり(10個体平均) 窒素吸収量
(mg/株)
乾物重
(g/株、5株平均)
根粒数
(/株、5株平均)
茎長
(cm)
グリ−ンメ−タ−示度
接種法菌接種 葉数 初生葉 第4葉 初生葉 茎葉 合計 地上部 根部
種子粉衣無接種 21.4 5.79.131.11.948.450.34.001.5832.8
(ピ−トモス
10倍量)
アゾ+根粒21.45.324.236.33.371.174.44.081.22209.4
根粒菌21.45.514.835.92.171.073.13.871.10171.2
アゾ菌21.45.518.535.32.569.572.04.292.2894.6
 注)殺菌土を用いたポット試験(無肥料栽培)

   表2 アゾスピリラム菌によるIAA(インド−ル酢酸)の産生(室内実験)
培養日数 アゾ菌接種 無接種
IAA量(μg/mL)
アゾ菌によるIAA
産生量(μg/mL)
アゾ菌数(cfu/mL) IAA量(μg/mL)
0310.90.90
213×1063.40.92.5
820×10933.51.232.3
109×10934.30.833.5
注)アゾ菌によるIAA産生量=アゾ菌接種IAA量−無接種IAA量

   表3 異なる窒素施肥量下におけるエダマメの収量に及ぼすアゾスピリラム菌と根粒菌の混合接種の影響(大豆未作付けほ場)
処理区 開花期(H11年 7/19 収穫期(H11年 8/19)
施肥処理 菌接種 主茎長
(cm)
分枝数
(/株)
根粒数
(/株)
総重
(kg/10a)
有効莢数
(/株)
有効1莢重
(g/個)
有効莢重
(kg/10a)
同左比
窒素2kg/10a 無接種 42.4 4.7 54 2497 39.5 1.98 652 100
混 合 44.8 5.2 94 2819 49.7 2.00 828 127
根粒菌 41.1 4.5 62 2699 41.9 1.99 695 107
アゾ菌 44.5 4.7 67 2702 43.6 1.92 698 107
窒素6kg/10a 無接種 50.1 5.2 23 2935 47.4 1.98 782 100
混合 47.7 4.5 77 2892 44.1 2.07 761 97
根粒菌 47.5 5.4 76 2920 46.2 1.98 762 97
アゾ菌 45.5 4.9 39 2700 42.9 2.04 729 93

表4 エダマメの生育・収量に及ぼす市販の混合資材(アゾスピリラム菌+根粒菌)の影響(大豆未作付けほ場)
処理区 生育途中(H10年 8/5) 収穫期(H10年 8/24)
接種法 菌接種 主茎長
(cm)
分枝数
(/株)
根粒数
(/株)
総重
(kg/10a)
茎葉重
(kg/10a)
莢重
(kg/10a)
有効莢数
(/株)
有効莢重
(kg/10a)
同左比
土壌接種 無接種 37.8 5.5 1.78 2207 1023 1184 63.0 1154 103
根粒菌 41.6 6.1 2.84 2752 1428 1324 66.0 1273 114
混 合 50.2 7.4 2.89 3305 1775 1530 83.1 1510 135
種子粉衣 無接種 37.9 4.7 1.91 1893 758 1135 58.1 1121 100
根粒菌 37.7 5.3 2.01 2202 1043 1159 56.8 1138 102
混 合 41.2 5.4 2.32 2427 1172 1255 63.6 1234 110
 注1)窒素施肥量2kg/10a。

4.成果の活用面と留意点
 1)栽培試験の結果は殺菌土を用いたポット無肥料栽培および大豆未作付けほ場において得られたものである。
 2)明らかにされたアゾスピリラム菌の接種効果は、営農指導機関がアゾスピリラム菌を含有する微生物資材の有効性を評価する上で参考となる。
 3)エダマメに対するアゾスピリラム菌と根粒菌との混合接種効果は、大豆未作付けほ場で期待できる。ただし、安定した接種効果を得るためには窒素施肥量は2kg/10a程度に留める。

5.残された問題点とその対応
 1)アゾスピリラム菌の窒素供給および根粒着生促進機構の解明。
 2)大豆既作付けほ場におけるアゾスピリラム菌と根粒菌の混合接種効果の解明。
 3)接種効果の高い種子粉衣技術の開発。
 4)アゾスピリラム菌による土壌病害抑制効果の検討−根群発達促進に伴うエスケ−プ効果の検討。