成績概要書                   (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名:秋まき小麦の赤さび病の被害許容水準と効果的薬剤防除
       総合的病害虫管理技術実証事業)
予算区分:補助
担当科:北海道病害虫防除所 予察課
担当者:
研究期間:平7年-11年
協力・分担関係:

1.目的
 小麦赤さび病に対して抵抗性が「弱」の品種が主要品種となったことや、近年高温年が続き発生が増えていることから、本病に対する警戒は高まってきている。そこで、主要品種の変化や、気象の影響によって本病の発生が変化した際にも、効果的な薬剤防除を可能にする資を得ることを目的とした。

2.方法
 1)被害解析および被害許容水準の策定
 2)要防除水準の策定および効果的防除方法の検討

3.結果の概要
 1)抵抗性「弱」の「ホクシン」においては、出穂前の薬剤防除がないと減収したため、赤かび病との同時防除のみで本病に対応することはできないと考えられた(表1)。
 2)「ホクシン」は、「ホロシリコムギ」に比べ、赤さび病の病斑周囲に形成される黄化部分およびそれによって助長される枯凋が大きく、本病によって枯れやすい品種であると考えられた。
 3)特に上位2葉の発病が収量に及ぼす影響が大きく、上位2葉の被害面積率と収量との間に高い相関が認められた。
 4)被害許容水準として、開花始の止葉の病葉率を25%、乳熟期の止葉の被害面積率5%とした(図1、2)。
 5)抵抗性「弱」の品種では、年次によって本病が急激に蔓延することがあるため、1回目の防除要否を決める要防除水準の設定が困難であった。
 6)抵抗性「弱」の品種の発病を被害許容水準以下にするには、止葉抽出〜穂孕期に1回、開花始に1回(赤かび病との同時防除)の薬剤散布が必要である。
 7)抵抗性が中以上の品種では、開花始に赤かび病との同時防除のみで対応できる。
 8)以上の薬剤防除には、表2に示す薬剤を使用する。
 9)秋季の薬剤散布は、翌春の本病の発生に対して効果がない。

  表1 平成12年 ホクシンにおける発病と収量


散 布 日 F葉
病葉率
開花始
F葉被害
面積率
乳熟期
収 量
5/25 5/29 6/1 6/12 整粒重
(kg/10a)
整粒千粒重
(g)
屑粒歩合
(%)
D D   A 11.0 2.412 608 34.4 1.39
S(以降十日ごとに三回散布) A 69.0 20.336 554* 32.8 2.69*
D     A 79.2 10.578 537* 32.1* 2.53*
  D   A 27.0 2.843 589 34.2 1.49
  D   C 22.4 5.208 598 33.7 1.59
    D A 50.0 2.888 649 34.4 1.46
    D C 53.6 14.436 556* 32.8 2.21
      A 95.0 16.638 506** 31.0** 3.41*
      C 80.0 30.570 487** 32.1* 4.74**
        82.8 55.540 370** 26.7** 10.12**

注)S:硫黄52%水和剤F400倍 D:プロピコナゾール25%2000倍 A:アゾキシストロビン20%2000倍 C:クレソキシムメチル41.5%2000倍
*:危険率5%で完全防除区と有意差あり。 **:危険率1%で完全防除区と有意差あり。

表2 小麦赤さび病の薬剤防除法
小麦品種 F葉抽出期〜穂孕期 開 花 始
抵抗性
「弱」
プロピコナゾール
アゾキシストロビン
プロピコナゾール
アゾキシストロビン
クレソキシムメチル
テブコナゾール
テブコナゾール  
抵抗性
「中」以上
  プロピコナゾール
アゾキシストロビン
クレソキシムメチル
テブコナゾール


図1 開花始の止葉の病葉率と相対千粒重との相関


図2 乳熟期の止葉の被害面積率と相対千粒重の相関

4.成果の活用面と留意点
 1)小麦品種の抵抗性に対応した赤さび病の薬剤防除法を示した。本法によって、赤さび病による被害を効率的に防ぐことができる。
 2)耐性菌の発生を招く可能性があるので、2回散布の場合には、同一系統の薬剤の連用はしない。
 3)年次によって小麦の生育速度が異なり、5月下旬以降の高温は赤さび病が多発しやすく、小麦の生育も早まるので、止葉抽出期を見逃さないように注意する。

5.残された問題とその対応
 1)その他の病害も含めて、効果的防除体系の策定。