成績概要書       (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名 秋まき小麦の赤かび病抵抗性検定のための手法の改良と指標品種の選定       
        (極良品質小麦の開発促進 2. 特性検定と選抜の強化
         3) 赤かび病抵抗性検定法の改良と系統選抜)
予算区分   道 費
担 当 北見農試 生産研究部 病虫科
           作物研究部 小麦科
研究期間   平成8〜12年
協力・分担関係

 
1. 試験目的
 簡便かつ高精度の赤かび病抵抗性検定法を開発するとともに、赤かび病に対する品種の抵抗性検定および個体、系統選抜を行い、抵抗性品種育成に資する。
 病原菌接種とハウス栽培による環境制御により検定精度を高める。また、異なる菌種に対する品種・系統の反応の傾向を検討する。
 
2. 試験方法
1) ビニールハウスでのMicrodochium nivale による検定
  供試品種・系統をビニールハウス(50%遮光)で栽培し、開花期から1〜3日後の夕方に大型分 生子懸濁液(5×10個/ml)を噴霧接種した。湿度保持のため夜間(午後6時〜午前6時30分) はハウスを密閉し、それ以外は開放した。接種後23〜26日めに任意の50穂について発病指数  (0〜8)を調査した。
2) ビニールハウスでのFusarium graminearum による検定
  供試品種・系統をビニールハウス(50%遮光)で栽培し、開花期から1〜3日後に大型分生子懸 濁液(5×10個/ml)を噴霧接種した。温度・湿度保持のためハウス内が25℃を越えない限り ハウスを密閉した。接種後18〜19日めに任意の50穂について発病指数(0〜8)を調査した。
2) 圃場でのF. graminearum による検定
  供試品種・系統を圃場で栽培し、開花期から1〜3日後にF. graminearumの大型分生子懸濁液 (5×10個/ml)を噴霧接種した。接種後20〜21日めに任意の50穂について発病指数(0〜8) を調査した。
 
3. 結果の概要・要約
1) M. nivaleの効果的な接種検定法を検討した結果、ビニールハウスでのM. nivaleによる検定 は年次間のふれが小さく、精度が高かった(表1)。
2) ビニールハウスでのM. nivale、F. graminearumFusarium属菌)それぞれの接種検定法によ り秋まき小麦の品種・系統の抵抗性を比較した。両菌種に対する品種・系統の抵抗性の傾向は ほぼ一致したので(表2)、ビニールハウスでは、M. nivaleによる検定で代表できる。
3) 複数年の検定結果がそろっている品種・系統について、抵抗性を評価した。M. nivaleによる 検定(表3)とFusarium属菌による検定を総合して抵抗性を評価した。「チホクコムギ」(弱)、 「ホクシン」(やや弱)、「ホロシリコムギ」(やや強)、「北見77号」(やや強)は、抵抗 性の評価が検定法・年次間でほぼ安定しており、指標品種・系統として利用できる。
4) 以上から、秋まき小麦の品種・系統の赤かび病抵抗性は、ビニールハウスでのM. nivale 接 種によって検定する。また、圃場でのF. graminearum 接種を合わせて行い参考とする。

 赤かび病の抵抗性評価のための指標品種・系統は下記の通りとする。
 やや弱やや強
やや早生「ホクシン」「北見77号」
中生「チホクコムギ」「ホロシリコムギ」

表1ビニールハウスでのM.nivaleによる検定の年次間の発病指数の関係
  平9 平10 平11 平12
平成8年 0.696** 0.769** 0.497 0.562
(n=16) (n=13) (n=11) (n=7)
平成9年   0.683** 0.491* 0.795*
(n=28) (n=20) (n=9)
平成10年   0.400* 0.730**
(n=27) (n=14)
平成11年   0.116
(n=29)
1)数字は相関係数。*は5%、**は1%で有意であることを示す。

表2全年次に共通した7品種の発病指数の関係
  平成8年 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年
F.graminearum ハウス 平成11年 0.618 0.655 0.498 0.293 0.513
平成12年 0.094 0.581 0.543 0.356 0.721
1)数字は相関係数。*は5%、**は1%で有意であることを示す。
2)共通した7品種:「チホクコムギ」、「ホクシン」、「ホロシリコムギ」、「タクネコムギ」、「さび系59」、「Troud」、「北見75号(北系1657)」

表3ビニールハウスでのM.nivaleによる検定における品種・系統の赤かび病の抵抗性評価
供試品種・系統 平成8年 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 判定
タクネコムギ 中(5.1) やや強(4.2) やや強(1.8) 中(5.0) 中(4.8)
ホクシン やや弱(5.5) 弱(6.5) 弱(4.0) 弱(6.6) やや弱(4.9)
北系1693   やや強(3.9) 中(3.4) やや弱(5.5) 中(4.7)
北見72号   中(4.5) 中(2.7) 弱(7.0) やや弱(5.0) やや弱
北見74号   やや弱(5.6) 弱(4.5) 弱(6.2) 弱(5.4)
北見75号   中(5.0) 中(2.7) 弱(6.6) 弱(5.3) やや弱
北見77号     やや強(2.1) やや弱(5.7) 中(4.7)
ホロシリコムギ やや弱(5.6) やや強(3.9) やや強(1.6) やや強(4.3) やや強(4.6) やや強
チホクコムギ 弱(6.3) 弱(6.2) 弱(4.6) 弱(6.4) 弱(5.3)
北系1642 弱(6.7) 弱(6.0) 弱(6.3) 弱(7.8)  
北系1648     やや強(1.7) やや弱(5.9) 中(4.7)
北系1683   やや強(3.9) やや弱(3.6) やや強(4.9) やや弱(5.0)
発病指数の最小一最大 3.9-7.1 1.8-6.8 0.6-6.3 3.8-7.8 3.7-7.1  
1)(  )内は発病指数を示す

4.成果の活用面と留意点
1) 本検定法を秋まき小麦の赤かび病抵抗性検定に利用する。
2) 抵抗性の判定には複数年の供試が必要である。
 
5.残された問題点
1) 抵抗性評価の年次間差
2) 抵抗性の機作