成績概要書                   (作成平成13年1月)
研究課題名:ばれいしょ品種「スタークイーン」のジャガイモYモザイクウイルス
          (PVY-T)感染の指標となる病徴
予算区分:受託
担当科:北見農試 生産研究部病虫科
      中央農試 クリーン農業部病虫科
研究期間:平11-12年度
協力・分担関係

1.目的
 ばれいしょ品種「スタークイーン」(根育31号)のジャガイモYモザイクウイルス(PVY-T)感染の指標となる病徴を明らかにし、原採種ほ場におけるYモザイク病の防除対策に資する。

2.方法
 1)ほ場において、PVY2系統(T:えそ系統, O:普通系統)のばれいしょ2品種(スタークイーン、男爵薯)への汁液接種と接種後出現する当代病徴の観察
 2)前年度の発病株から収穫した罹病いもをほ場に植え、萌芽以降出現する次代病徴の観察
 3)次代病徴(黄色斑紋及びモザイク)による肉眼判定とエライザ(ELISA)検定の比較

3.結果の概要
1)接種による当代病徴
 (1)「スタークイーン」のPVY(T,O)感染株は接種葉にえそ斑点を生じ、上葉の病徴は不明瞭であった。
 (2)「男爵薯」のPVY(T,O)感染株は接種葉にえそ斑点を生じ、上葉の病徴の多くが不明瞭であったが、稀にえそを生じる株も見られた。
 以上のように「スタークイーン」のPVY(T,O)感染株の当代病徴は、接種葉にえそ斑点を生じたが、上葉の病徴は不明瞭で判然としなかった。「スタークイーン」の当代感染株の判別は「男爵薯」同様に容易ではないと考えられた。

2)保毒いも由来の次代病徴
 <「スタークイーン」について>
 (1)単独のれん葉症状(PVY疑似症状)は、開花期以前の健全株にも比較的多く出現し、開花期以降目立たなくなった。よって、本症状はウイルスの感染と無関係であり、PVY-T感染株判別の指標とはならないと考えられた(表1)。
 (2)PVY-T感染による次代病徴は、れん葉症状以外では主として黄色斑紋及びモザイク症状であり、ばれいしょ着蕾期頃から出現し、開花3週間頃まで次第に明瞭になり,その後軽微になった。病徴が不明瞭で判然としなかった株は「男爵薯」に比較して少なかった(表1)。
 <「男爵薯」について>
 (1)「男爵薯」の健全株には、「スタークイーン」のようにPVY疑似症状は認められなかった。
 (2)PVY(T,O)感染による次代病徴は黄色斑紋、モザイク、れん葉、えそ症状の単独または混合したもので、いずれも「スタークイーン」より軽微であり、病徴が不明瞭で判然としなっかた株も多く見られた。
 以上より、「スタークイーン」の場合、開花期以前には「男爵薯」には現れないPVY疑似症状(単独のれん葉症状)が現れるが、本症状はPVY-Tの感染とは無関係である。PVY-T感染株を判別する際、指標となる病徴は黄色斑紋及びモザイク症状である。

3)保毒いも由来の次代病徴による肉眼判定とエライザ(ELISA)検定の比較
 (1)PVY-Tに感染した保毒いもを用いて、病徴(黄色斑紋及びモザイク症状)による肉眼判定とエライザ検定の比較を行った結果、供試125株中123株(98.4%)で両者の判定が一致した(表2)。
 以上より、本病徴(黄色斑紋及びモザイク症状)により極めて高い精度で「スタークイーン」のPVY-T感染株を識別できることが明らかになった。

表1 「スタークイーン」のPVY-T感染による次代病徴調査
病原
ウイルス
由来 調査3)
月日
調査2)
株数
病 徴 出 現 割 合 (%)1)
YMo+M+Cr YMo+Cr M+Cr M Cr 不明瞭
PVY-T 北見農
試分離
6/26
7/14
23
23
56.5
87.0
8.7
4.3
4.3
0
0
0
26.1
0
4.3
8.7
中央農
試分離
6/26
7/14
2
2
0
0
0
0
100.0
0
0
100.0
0
0
0
0
健全 6/26
7/14
44
44
0
0
0
0
0
0
0
0
38.6
0
61.4
100.0

1)<病徴>YMo:黄色斑紋, M:モザイク, Cr:れん葉
2)<調査株>エライザ検定(7/14)によりPVY感染または健全が確認された株
3)<調査月日>開花期(6/26)、開花18日後(7/14)

表2 PVY-Tに感染した「スタークイーン」の次代病徴による判定とエライザ検定の比較
調査株数 病徴判定 エライザ検定
陽性 陰性
125 陽性 37(1) 37 0
陰性 88 2 86
*( )はPVX単独感染によるモザイク症状

4.成果の活用面と留意点
 1)本成績は「スタークイーン」の原採種ほ場におけるジャガイモYモザイク病の防除対策に活用する。
 2)病徴観察は日照の強い晴天時を避け、曇天時に行うとより見やすくなる。
 3)本成績の活用にあたり、エライザ(ELISA)法又はRIPA法(平成10年度北海道農業試験会議普及奨励)を補助的に用いることにより、一層肉眼判定の精度が向上する。

5.残された問題点とその対応
 1)PVY-O保毒いもに由来する次代病徴の確認
 2)PVY感染による塊茎伝染率