研究課題名 にんじんの乾腐病(Fusarium solani)の発生生態 (ニンジン乾腐病の発生生態解明と総合防除法の開発) 予算区分:道費 担当科:道南農業試験場 研究部 病虫科 研究期間:平成11〜12年 協力分担関係: |
1.目的
ニンジン乾腐病の発生生態を解明し、被害軽減方法を明らかにする。
2.方法
1)農家アンケート調査(七飯町の40戸、160筆のにんじん圃場)
2)乾腐病の発生状況、病原菌種(現地圃場で抜取り、共選場の廃棄にんじん)
3)F. solaniによる乾腐病の発病要因(土壌水分、地温、生育ステージ、収穫時期)
4)現地圃場の発病状況、降雨との関係(函館市、七飯町)
5)農薬潅注、カルシウム葉面散布、ペーパーポットによる防除試験
6)F. solaniによる乾腐病に対する抵抗性品種探索
3.結果の概要
1)アンケート調査:約75%の圃場で発生し、にんじん栽培歴が長い圃場で発生頻度が高い。高水分・滞水傾向の土壌、および高温年に多発するという回答が多かった。
2)発生状況:①31圃場の平均発病株率は33%で、土壌中の病原菌密度と発病株率にはゆるい正の相関があった。共選場で廃棄されたにんじんのうち、乾腐病発病率は40〜80%、割れた個体では60〜80%と高かった。②3圃場から抜取った個体の乾腐病から分離した結果、約80%がF. solaniで F. avenaceumは分離されなかった。この両者には強い病原性が認められた。共選場の乾腐症状からは、約90%がF.solaniが分離され、ついでF.oxysporum、F.avenaceumの順であった。
3)発病要因:①にんじん根面、または土壌に病原菌を接種すると、土壌が高水分条件下では乾腐病が激しく発病し、低水分では抑制された。②圃場容水量にした場合、接種5日後の調査では、15℃・20℃では発病が少なく、25℃以上で激しかった。③生育中のにんじんを定期的に汚染土に埋め込んだところ、播種49日めの個体は発病せず、61日目でわずかに、74日目以降で激しく発病した。④汚染土に播種したにんじんを、灌水によって一時的に水分飽和状態にした。その時期が播種後50日目頃では発病は少なく、60日目以降の灌水では多くなった。灌水後、25日以内の調査では発病は見られなかった。
4)現地の発病状況:①播種60日以前に発病は始まらず、それ以降のまとまった雨の時期から20〜30日後に発病が見られた。②平成10年、12年の共選場における廃棄率は、まとまった降雨の30日後に上昇していた。廃棄の主因は乾腐病によるものと考えた。
5)防除試験:マンゼブ剤の300リットル/10a潅注は20〜40ほどの防除価であったが実用性はない。カルシウム剤葉面散布によって感染耐性の付与はできなかった。紙筒移植によって感染を回避できたが、根部の変形によって商品とはならず、低収でもあった。
6)品種比較:「向陽2号」より発病が少ない品種として「あすべに5寸」「SK4-312」「SK3-97」があった。実用性の評価には大面積の反復試験を要する。
まとめ:ニンジン乾腐病の発生には、にんじんの生育ステージ、土壌水分、および地温、収穫時期が関わっている。播種後60日目以降〜収穫20日前までのまとまった降雨により、土壌の水分飽和状態が続くような圃場では、ニンジン乾腐病は多発する。
以上の結果から、発病軽減策として次のことを行うことが望ましい。
1)土地の排水性の改善を行い、排水を悪化させる管理作業(多水分時の作業等)をさける。
2)乾腐病は初発後、増加の一途をたどるため、収穫適期になり次第早めに収穫する。
4.具体的数字
表1 アンケート「どんな場所に発生が多いか?」
ほ場全体 | 湿気る場所 | 乾燥する場所 | その他 | |
回答数 | 32 | 55 | 4 | 0 |
表2 アンケート「どんな年に発生が多いか?」
高温年 | 低温年 | 多雨年 | 少雨年 | |
回答数 | 23 | 3 | 70 | 0 |
表3 JA亀田共選場で採取した乾腐病ニンジンの菌種割合
分離菌株数 | 分離率 | 検定菌株数 | 病原菌率 | |
F.solani | 384 | 87.3% | 87 | 100.0% |
F.oxysporum | 45 | 10.2% | 26 | 57.7% |
F.avenaceum | 11 | 2.5% | 6 | 100.0% |
図1 土壌水分と乾腐病の発病(播種後99日目ニンジンを各水分の土壌中で接種)
図2 ニンジンの生育ステージと発病(生育したニンジンを多水分土壌中で接種)
表4 ニンジンの生育ステージと多潅水による発病の関係(播種後105日目に抜き取り調査)
処 理 | 発病度 | 病株率 |
50〜53日目多潅水 | 1.0 | 3.0% |
60〜63日目多潅水 | 10.0 | 17.5% |
70〜73日目多潅水 | 8.8 | 15.0% |
80〜83日目多潅水 | 12.3 | 19.3% |
90〜93日目多潅水 | 0.0 | 0.0% |
100〜103日目多潅水 | 0.0 | 0.0% |
通常潅水 | 0.8 | 2.4% |
図3 JA亀田におけるニンジンの廃棄率と降水量の関係
5.成果の活用面と留意点
この成績はニンジン乾腐病の発生を軽減するための資料として活用する。
6.残された問題とその対応
1)乾腐病の発生を回避する栽培法の確立
2)現地ほ場における品種比較試験
3)F.avenaceumによる乾腐病の発生生態の解明