成績概要書                   (作成平成13年1月)
研究課題名  ふきのフキノズイバエの生態と防除対策
         (突発病害虫診断試験・専門技術員普及高度化事業)
予算区分:道単
担当科:道南農試研究部病虫科
     十勝農試技術普及部
研究期間:平成9・10、12年
協力分担関係:

1 目的
 山菜としてのアキタブキに関して、葉柄内面を食害して商品化率を下げるフキノズイバエ(ハナアブ科)について、種類と生態を調査し、被害軽減法を検討する。

2 方法
 1)栽培地などにおける食害昆虫調査(足寄町・更別村など)
 2)野生ふきにおけるフキノズイバエ被害推移(中札内村・芽室町)
 3)フキノズイバエの種類と生活史(平成12年、渡島管内・十勝管内)
 4)栽培圃場における粒剤の施用試験(平成9・10年、足寄町・更別村・中標津町)

3 結果の概要
 1)ふき栽培上の害虫主要種は、以下の3群に分けられる。
 ア)葉柄を加害する種類としては、フキノズイバエ、ゴボウトガリヨトウ、フキヨトウ、ゾウムシの一種、ハモグリバエの一種がある。このうち、フキノズイバエの優占度がとくに高い。
 イ)葉に寄生・食害する種類は多いが、実害に至るものは無いと思われる。
 ウ)根茎を食害するものとして、フキノズイバエ、ヨモギオオシンムシガ、コウモリガなどがあるが、これらは株の活力を弱める可能性がある。

 2)被害率は50%前後が普通で、褐変した食痕は葉柄の先端よりも基部側に多い。葉柄内面には、幅・深さがさまざまの溝状食痕があり、褐色汚泥様の糞が内壁に付着する。葉柄の被害は5月上旬に始まるが、5月下旬に被害割合はほぼピークに達した。

 3)フキノズイバエの生活史:年1化と年2化の2種類があり、名称はまだ確定できない。それぞれは4、5月に成虫が羽化するため、産卵期はふきの開花〜萌芽期にあたる。野生ふきでは1化型の種類が優占していることから、栽培圃場における葉柄の被害も、大半は本種がおこしていると考えられる。
 卵はふき周辺部の枯葉下などに産みつけられ、1週間ほど後、ふ化幼虫は直接ふきの葉柄基部(地際付近)から穿入する。1・2齢幼虫の期間は2〜3週間ていどと思われる。3齢幼虫は葉柄基部に移動し、1化型では10月以降に根茎から脱出して土中で蛹化する。2化型では、第2回目成虫は8月下旬〜9月中旬ころに出現し、この2化期幼虫は地表下浅くの新根茎に穿入・食害して、10月下旬に土中で蛹化する。

 4)フキノズイバエの形態
 (卵):白色・長楕円体で、大きさは0.6×1.6mmくらい。
 (幼虫):頭殻・脚はない。尾端に、淡褐色〜赤褐色の大きな後気門が突出するのが特徴的である。体長は、1・2・3齢、それぞれ2〜6、5〜13、10〜18mm。3齢幼虫では、尾突起の先端幅は0.8〜0.9mm、スリットは短かくやや直線的で11〜16個(yesonica型、年1化)、または長曲線で4個ある(japonica型、年2化)。
 (蛹):体長10〜14×4〜6mm。尾端に1.1mm長・幅0.9mmの突出した後気門。
 (成虫):体は全体黒色で、体長は11〜14mm。翅に暗斑はない。腿節は黒いが、脛節・ふ節の一部〜全部が黄褐色。顔面は裸出、複眼微毛は雄で特に顕著である。

 5)被害軽減試験:ふきの萌芽前にカルタップ粒剤6kg/10aを地表散布することで、商品化率を10%増やし、被害葉柄のうち甚害を半数程度に減らすことができた。

 まとめ:フキノズイバエの産卵はふきの萌芽期頃になされ、まもなくふ化幼虫が葉柄に穿入する。浸透移行性薬剤は、萌芽期の根茎に吸収されていることが重要なので、その施用適期は、4月中の「土壌水分が多く、ふきの萌芽以前」と考えられる。

4 具体的数字
 表1 葉柄被害をおこす優占種
種類 発生地点数、採集個体数 発生地点率、個体数/発生地点
ズイバエ ハマキガ ヤガ ゾウムシ ズイバエ ハマキガ ヤガ ゾウムシ
地点 32 4地点 100 19 13%
個体 630 38頭 20 10頭

・5月下旬〜6月上旬に32地点調査(葉柄20本以上/地点)

地上部   開花 萌芽  葉の生育  生育盛期  衰退  花器形成
地下部                新根茎出芽  新根茎の生育伸長
種類/月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
yesonica型 A A A A   2L 3L 3L 3L 3L
japonica型 A  A  A 3L 3L P   A A  2L 3L   P

図1 ふきの生活史/フキノズイバエの生活史概略
     A:成虫(卵)、 2L・3L:2・3齢幼虫、 P:蛹

表2 被害葉柄率の推移(中札内村・芽室町)
調査日 5/13 5/24 6/3 6/12 7/ 4  
調査本数
被害率
80
97
44
108
74
97
47
51
44

調査本数
被害率

56
41
91
51
99
44
79
30

表3 種類優占度(5月下〜6月上旬調査)
調査部位 yesonica型 japonica型 調査
点数
2齢 3齢 2齢 3齢
主に葉柄内 160 75 2 0頭 19
基部+根茎 1 358 0 24 13

 表4 粒剤の地表散布などによる被害軽減効果
処理法 商品化 要カット 甚被害 合計 評価
カルタップ粒2回 80 7 14 101
カルタップ粒1回 81 7 13 101
アセフェート粒剤 70 0 30 100 ×
無 処 理 71 3 27 101 %  
カルタップ粒2回 94 2 4 100
カルタップ粒1回 94 2 4 100
不 織 布 100 0 0 100
無 処 理 83 6 11 100 %  

 (被害程度別の葉柄割合、足寄町・中標津町)


図2 3齢幼虫・蛹の後気門
   上:japonica型  下:yesonica型

5 成果の活用面と留意点
 1)ふき葉柄を食害するフキノズイバエについて、その被害軽減のために活用する。
 2)カルタップ粒剤4は未登録(登録手続き中)である。
 3)水系付近では被害割合は低いので、薬剤防除は畑地栽培のふきを対象とする。
 4)剤の性質上、地表に有機物の多い土壌では効果が劣る可能性があるので注意する。

6 今後の問題点
 1)害虫種の地域別、あるいは栽培方法別の加害優占度
 2)フキノズイバエ2種の生態的差異(成虫発生期、地域的優占度、すみわけ)
 3)フキノズイバエに対する浸透移行性薬剤の施用適期・回数
 4)成虫の産卵回避法(産卵・ふ化時期の水没、紫外線カットフィルムなど)