課題の分類 研究課題名:広幅散布による水田用乗用管理機の高能率化技術 (大区画水田用高能率管理作業技術の開発) 予算区分:地域総合 担当研究室:北海道農試 総合研究部 総研1チーム 担当者:大下泰生・渡辺治郎・湯川智行・粟崎弘利 研究期間:平成9〜12年 協力・分担関係:なし |
1.目 的
乾田播種早期湛水栽培において生育中期の追肥・防除などの管理作業は大型機械を基幹とした播種や収穫作業に比べて高能率化・省力化が遅れ、作業法の改善が望まれている。これに対応するために近年乗用管理機が導入されているが、泥炭地水田では地耐力が低く、作業機の沈下等の問題を生じている。そこで、地耐力の低い水田にも適応できる走行性の良い乗用管理機に大区画水田に対応できる高能率な広幅散布装置を取り付け、高能率で省力的な管理作業技術を開発する。
2.方 法
(1)走行装置の改良:最低地上高が高く、水田での走行性のよい4輪駆動4輪操舵式の走行部を有する水田用乗用管理機(I社JK-14)をベースに、標準タイヤに対して後輪をダブルタイヤおよび広幅タイヤに交換して沈下量、滑り率、接地圧、接地面積を比較した。
(2)広幅散布装置の開発:標準仕様の散布幅8mのブームノズル式液剤散布装置に鉄砲ノズルを取り付けた広幅散布装置を試作し、散布性能を調査した(平10〜11年)。
(3)除草剤散布作業性能調査:大区画圃場において除草剤の散布作業を行い、標準散布と広幅散布の作業能率および除草効果を比較した。調査は妹背牛町直播栽培圃場(1.1ha、平11年)および美唄市直播栽培圃場(0.9ha、平12年)で行った。
3.結果の概要
(1)標準タイヤに対して、ダブルタイヤおよび広幅タイヤは接地圧が低くなることから沈下量が少なく、滑り率も減少した。しかし、圃場内旋回による走行路の面積割合は広幅タイヤで2.8%、ダブルタイヤで6.6%と標準タイヤの1.9%に比べると増加した(表1)。ダブルタイヤは接地圧が最も低いものの稲の踏み倒しが多かった。広幅タイヤは地耐力の低い水田でも沈下することはなく、走行性と走行路面積割合を考慮すると実用性が高いと判断された。
(2)広幅散布装置(図1)の散布方式を拡散噴霧にすると散布幅は狭いものの変動係数が小さく散布むらは少なくなった。半拡散噴霧から棒状噴霧に変えるにつれて散布幅が広がり、散布むらは大きくなった(表2)。実作業では隣接する行程と掛け合わせて散布することから、掛け合わせ散布幅を変えて散布むらを比較した結果、半拡散噴霧で散布幅を17m、掛け合わせ幅を2mとして15m間隔で作業を行った場合、変動係数は42%と散布むらが比較的少なく、実用的であった(表3)。
(3)大区画圃場の散布作業時間を推測した結果、広幅散布で44.3分/ha、標準散布で53.4分/haとなり、広幅散布により作業行程数が少なく走行距離が短くなることで作業能率が向上すると予測された(表4)。また、除草剤散布後の雑草の乾物重を比較すると広幅散布と標準散布に顕著な差はなく、同等の除草効果が得られた(図2)。
表1 タイヤの種類と走行性
タイヤの種類とサイズ※1 | 沈下量 | 滑り率 | 接地圧 | 走行路面積※2 | 備 考 |
ダブルタイヤ(標準タイヤ+補助タイヤ) | 15.0㎝ | 7.4% | 0.6kgf | 6.6% | 乾田直播水田 (平8) |
標準タイヤ(直径830φ、幅80㎜) | 17.0㎝ | 10.2% | 1.1kgf | 1.9% | |
広幅タイヤ(直径880φ、幅120㎜) | 9.1㎝ | 10.9% | 1.0kgf | 2.8% | 乾田直播水田 (平12) |
標準タイヤ(直径830φ、幅80㎜) | 11.2㎝ | 12.7% | 1.4kgf | 1.9% |
図1 広幅散布装置を搭載した乗用管理機の外観
表2 鉄砲ノズルの噴霧方式と散布性能
散布方式 | 標準 | 広幅(拡散) | 広幅(半拡散) | 広幅(棒状) | ||||||
鉄砲ノズルの噴射方向※ | 上向 | 水平 | 下向 | 上向 | 水平 | 下向 | 上向 | 水平 | 下向 | |
最大散布幅(m) 変動係数(%) |
9 38.0 |
14 50.1 |
14 35.4 |
14 56.4 |
21 58.0 |
19 55.7 |
17 54.6 |
23 79.2 |
24 70.1 |
18 83.0 |
表3 掛け合わせ散布による散布性能
散布方式 | 標 準 | 広幅(拡散) | 広幅(半拡散) | 広幅(棒状) | ||||||
鉄砲ノズルの噴射方向 | 水平 | 下向 | 水平 | 水平 | 下向 | |||||
散布作業幅(m) 掛け合わせ幅(m) |
9 なし |
8 1 |
13 1 |
12 2 |
16 1 |
15 2 |
15 4 |
21 3 |
15 9 |
15 3 |
変動係数 (%) | 35.6 | 15.4 | 28.1 | 38.3 | 45.1 | 41.8 | 63.9 | 56.9 | 60.6 | 88.3 |
表4 大区画水田における作業能率(推定値)
散布方式 | 広幅散布 | 標準散布 | |
散布幅 | 15m | 10m | |
作業面積 | 1.13ha(84×135m) | 1.13ha(84×135m) | |
作業速度 | 0.6m/s | 0.6m/s | |
圃場内走行距離 | 988m | 1343m | |
作 業 時 間 |
散布 旋回 給水 合計 |
23.8分(47.5%) 5.3分(10.6%) 21.0分(41.9%) |
34.5分(57.3%) 4.8分(7.9%) 21.0分(34.8%) |
50.1分 | 60.3分 | ||
作業能率 | 44.3分/ha | 53.4分/ha |
水稲乾田直播圃場DCPA剤(スタム乳剤)散布
散布日:平12年6月18日 残存雑草調査:6月30日
図2 雑草乾物重の比較
4.成果の活用面と留意点
(1)大区画圃場における除草剤の散布作業の効率化に役立つ。
(2)留意点:強風時の広幅散布では薬剤の飛散および散布むらに留意する必要ある。
5.残された問題とその対応
広幅散布装置の適用範囲を拡大して汎用利用を図るために、麦や大豆等の防除作業に適用して効果を検討する必要がある。