課題の分類 研究課題名 菜豆未熟子葉からの植物体再分化系の確立 (細胞・組織培養技術の開発) 予算区分 道費 担当科 中央農試 農産工学部 細胞育種科 研究期間 平成2〜11年度 協力・分担関係 なし |
1.目 的
菜豆の未熟子葉からの形態形成、さらには不定芽形成のための培養条件を検討し、効率的で安定的な不定芽形成条件を明らかにする。また、未熟子葉培養によって形成される不定芽からの効率的な植物体再分化条件、さらに再分化植物体からの後代種子の採種条件について検討する。
2.方 法
1)未熟子葉からの効率的な不定芽形成
供試材料は主に「丹頂金時」を用いた。主に圃場栽培の植物体より、開花後10日〜15日程度経過した未熟莢を採取し、数日間低温(約6℃)で保存した後、表面殺菌をし、未熟子葉を取り出した。さらに、分裂組織を取り除くために胚(幼根および幼芽)およびその近傍1/3程度を切り落とした残りの2/3程度の未熟子葉を外植片とした。30mlの不定芽形成培地の入った約200ml容量の培養瓶に10個の外植片を置床した。調査は、培養開始から5〜6週間後に、organogenicカルスや不定芽の形成、白化枯死等について行った。試験は、不定芽形成の向上と白化枯死抑制に及ぼす培養条件について検討した。
2)不定芽からの植物体再分化と後代種子の採種
未熟子葉培養により外植片上に形成される不定芽を切り離し、植物ホルモン無添加の不定芽継代培地(MS、30g/lショ糖、8g/l 寒天)に移植した。その後、1ヶ月毎に同組成の培地に継代し、多芽体の形成と増殖を図った。1〜2回の継代で旺盛に増殖する多芽体が形成されたとき、径5mm程度の多芽体塊にして培養瓶に5塊を置床し、1ヶ月〜1ヶ月半毎に継代を繰り返し、植物体再分化を図った。鉢上げ可能な健全植物体は、発根培地(MS、15g/lショ糖、0.1mg/l NAA、8g/l 寒天)に移植した。2〜3週間後、温室内でビニールポットあるいは素焼き鉢に鉢上げし、後代種子(R2世代)を採種した。多芽体からの健全植物体再分化条件、さらに後代(R2)種子を採種するための鉢上げ時の育苗土や管理について検討した。
3.結果の概要
1)菜豆の未熟子葉からの植物体再分化系を確立した。再分化植物体は、未熟子葉からの不定芽形成、不定芽からの多芽体形成を経て、さらに多芽体を数回継代した後に得られた(図1、2、3)。
2)置床後数日で未熟子葉が白化枯死する現象が高温年に多発した。白化枯死は莢伸長時の気温と強 い正の相関があった。
3)効率的な不定芽形成条件は、未熟莢を採取後6日間以上低温保存してから未熟子葉を摘出し、4〜6mmの大きさを用い、MSを基本とする0.05mg/lNOA、3mg/l BAP、0.5〜2mg/l ABA、30g/l ショ糖、2g/lゲルライトの不定芽形成培地の使用である。この条件では白化枯死の発生をほぼ抑制できた。
4)未熟子葉からの不定芽形成には品種・系統間差異が存在し、「丹頂金時」、「福虎豆」、「昭和金時」等の形成率は高く、「十育B22号」、「前川金時」、「紅金時」等では低いか、全く形成されなかった。不定芽からの多芽体形成率は、「福虎豆」で他品種に比べて劣る傾向であった。
5)不定芽から直接植物体が再分化する事はなく、旺盛に生育する多芽体を形成した。多芽体からの鉢上げ可能な健全植物体の再分化には、培養瓶のキャップとしてメンブレン付アルミ箔の使用が効果的であった(表1)。
6)再分化植物体を温室に鉢上げし、後代種子を採種することができた(図4)。しかしながら、鉢上げ後の活着、生育が悪い個体が多く、採種個体率は低かった(表2)。
表1 多芽体からの健全植物体再分化に及ぼすキャップの種類の影響(1995〜1997年)
キャップ1) | 多芽体 置床数2) |
健全植物体形成数3) | 健全植物体総数4) | ||
1996年 | 1997年 | 1996年 | 1997年 | ||
Al Me |
26 29 |
5(19.2) 25(86.2) |
15(57.7) 17(58.6) |
6/193(3.1) 46/226(20.3) |
37/141(26.2) 40/142(28.1) |
表2 再分化個体の鉢上げ後の活着と採種(1998年)
鉢上げ月日 | 鉢上げ個体数 | 活着個体数1) | 採種個体数2) | 採種粒数 |
4/17 5/20 6/ 8 6/12 6/18 6/26 7/ 2 7/24 7/28 7/31 |
40 34 26 11 14 40 13 32 22 39 |
34(85.0) 29(85.3) 24(92.3) 5(45.5) 12(85.7) 32(80.0) 6(46.2) 16(50.0) 18(81.8) 23(59.0) |
7(17.5) 8(23.5) 5(19.2) 3(27.3) 5(35.7) 6(15.0) 0(0) 2(6.3) 1(4.5) 2(5.1) |
11 11 7 3 6 9 2 1 2 |
合 計 | 271 | 199(73.4) | 39(14.4) | 52 |
4.成果の活用面と留意点
1)体細胞育種法による菜豆の品種改良に利用できる。
2)不定芽形成、多芽体形成および植物体形成には、品種・系統間差異が大きいので、形成率の劣る品種・系統については、さらなる培養条件の検討が必要である。
5.残された問題とその対応
1)不定芽形成から後代種子採種までの期間の短縮と採種個体率の向上
2)再分化個体の変異幅の調査と後代への変異の遺伝確認