成績概要書            (作成 平成13年1月)
課題の分類
研究課題名  花豆の体細胞育種のための培養系の確立
        (細胞・組織培養技術の開発)
        (バイテク技術応用による高級菜豆の早生・極大粒系統の選抜強化)
予算区分  道費
       道費(豆基)
担当科  中央農試 農産工学部 細胞育種科
              作物開発部 畑作科
研究期間  平成2〜12年度
協力・分担関係  なし

1.目 的
 花豆の体細胞変異体の作出が期待できる未熟子葉からの効率的な植物体再分化系を確立する。さらに、未熟子葉培養により得られる再分化個体の変異を調査し、大粒系統を選抜する。

2.方 法
 1)未熟子葉からの効率的な植物体再分化系の確立
 供試材料には主に「大白花」を用いた。圃場栽培の植物体より未熟莢を採取、3〜4日間6℃で低温保存後、表面殺菌し、未熟子葉を摘出した。分裂組織を取り除くために胚(幼根および幼芽)およびその近傍1/3程度を切り落とした残りの2/3程度の未熟子葉を外植片とした。30mlの不定芽形成培地の入った約200ml容量の培養瓶に10個(長径7mm以上の場合7個)の外植片を置床した。培養開始から7〜8週間後に、外植片に形成された不定芽あるいは既に伸長したシュートを外植片より切り離し、植物体再分化培地に移植した。さらに1〜2回同培地に継代し健全植物体を養成した。
 2)再分化個体からの後代種子の採種
 未熟子葉より得られた再分化植物体は、節培養によって10個体程度の植物体にクローン増殖し、系統番号を付した。各年、5月上旬〜6月中旬にかけて、温室のビニールポットに鉢上げし、6月下旬〜7月中旬に圃場に移植した。秋に各系統、反復毎に採種を行い、百粒重を調査した。
 3)再分化個体の変異調査と大粒選抜
 再分化後代系統(R以降)については、中央農試畑作部の標準耕種法に準じて栽培した。収穫後、個体毎に粒数、粒重を調査し、百粒重を算出した。百粒重を主に、熟期、粒数および粒形等を考慮して選抜した。

3.結果の概要
 1)培養変異体の作出が可能な花豆未熟子葉からの不定芽経由での植物体再分化系を確立した。
 2)最も効率的な植物体再分化は、7〜11mmの未熟子葉より調製した外植片をMSを基本とする0.05mg/lNOA、5mg/l BAP、1〜2mg/l ABA、45〜60g/l ショ糖、2g/lゲルライトを添加した不定芽形成培地への置床で得られた。この条件により、置床した外植片当たりの植物体形成率は15%程度を示した。
 3)未熟子葉培養により再分化した植物体あるいはその後代より採取した未熟子葉の培養では、不定芽形成率、植物体形成率ともに高まる場合が多かった(表1)。置床した外植片当たりの植物体形成率が30%を越える再分化系統もあった。
 4)再分化個体の温室への鉢上げ後の活着は、鉢上げ後の天候に大きく左右されることが多く、活着率は平均50%程度であった。
 5)圃場へ移植した再分化個体は、湿害の影響がないときには順調に生育し、移植系統の70〜85%から後代種子を得ることができた(表2)。
 6)再分化当代の百粒重は、広い分布幅を示し、培養変異出現の可能性が示された(図1)。また、再分化当代と次世代の百粒重に再分化系統により正の相関関係が認められ(図2)、再分化当代での大まかな粒大選抜が可能と思われた。
 7)再分化個体からの大粒選抜によって、原品種より明らかに百粒重の重い系統が選抜育成できた(表3)。

表1 不定芽形成1)および不定芽からの植物体再分化における系統間差(1997年)
品種・系統2) 置床数3) 形態
形成率%
不定芽
形成率%
全不定
芽数
置床不
定芽数
植物体
形成数
植物体
形成率%
子葉当たり
の形成率%4)
PC96-4-1-R1(3) 30 23.3 10.0 3 3 2 66.7 6.7
PC96-4-12-R1(3) 30 63.3 36.7 11 11 4 36.4 13.3
PC96-4-16-R1(3) 30 66.7 43.3 13 13 6 46.2 20.0
PC96-5- 5-R (3) 38 68.4 47.4 18 18 13 72.2 34.2
PC96-5- 7-R (3) 34 47.1 20.6 7 7 1 14.3 2.9
PC96-5-13-R (3) 69 47.8 24.6 18 18 12 66.7 17.4
大白花    (0) 82 34.1 19.5 16 16 5 31.3 6.1

 1) 不定芽形成培地の組成は、MS、0.05mg/l NOA、5mg/l BAP、0.5mg/l ABA、30g/l ショ糖、2g/l ゲルライト
 2) 括弧内は、系統が未熟子葉培養を経た回数  3) 長径5〜11mmの未熟子葉を使用
 4) 置床子葉当たりの植物体形成率=植物体形成数/置床数×100

 表2 1996年に作出した再分化系統の後代種子の採種(1997年)
培養材料 移植系統数 採種系統数 採種数1)(粒)
大白花 113 80 2865 (1〜127)
PC94-2-R 46 30 780 (3〜99)
PC94-9-R 24 20 559 (1〜97)
PC94-10-R 59 43 1155 (1〜105)
PC94-20-R 19 13 319 (2〜78)
合計 261 186 5678
1)括弧内は範囲

表3 大粒選抜により育成された系統1)の百粒重の変異(2000年)
系統番号 調査個体数 百粒重(g) 標準偏差 変異係数(%)
大白花-1
    -2
    -3
    -4
8
10
9
10
191.4
188.9
192.1
175.5
8.1
14.5
14.1
28.8
4.2
7.7
7.3
16.4
系統平均
系統間
  187.0

 

4.2
選抜系統-1
     -2
     -3
     -4
9
9
6
10
195.3
218.6
204.8
201.3
19.7
20.6
20.0
16.0
10.1
9.4
9.8
7.9
系統平均
系統間
  205.0

 

4.8
1)PC93-1-7-3-1-1(R7)

4.成果の活用面と留意点

 花豆の未熟子葉からの植物体再分化系は、培養変異体の出現が期待でき、体細胞育種法として利用できる。

5.残された問題とその対応
 再分化系統のさらなる選抜と百粒重以外の農業形質の変異確認