成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:フォーレージテストにおける近赤外分析用の新しい検量線の作成       
担当部署:道立畜産試験場 草地飼料科
担当者名:出口健三郎
協力分担:北農研センター畜産草地部(連携研究員)
予算区分:国補
研究期間:1997〜2001年度

1.目的
 フォーレージテストにおけるPLS(Partial Least Squares)法を用いた近赤外分析(NIRS)
検量線の作成条件を示すとともに、各種成分推定用検量線を作成し、実用化をはかる。


2.方法
(1)PLS法を用いた近赤外分析用検量線の作成条件
従来から使われてきた重回帰分析(MLR)法による検量線との比較。
他機種に移設することを前提とした測定波長範囲、スペクトル演算方法などの条件の検討。

(2)各種検量線の作成および利用
青草用の汎用型検量線の作成および適用範囲の検討。
検量線移設時の補正方法および補正後の精度について検討。
水溶性糖類(WSC)推定用検量線の作成。
未粉砕乾燥サンプルを対象とした飼料成分推定用検量線の作成。

3.結果の概要
(1)-1)PLS法は様々な草種・番草を込みにした場合にMLR法より精度が高い(表1)。

(1)-2)移設を前提とするときには機種の使用波長域の前後40nm程度(セグメントにより異なる)を
除いた波長範囲で検量線を作成する必要がある。特に波長領域の狭い下位機種に移設する
場合に重要である。2次微分処理は必ずしも必要ではない。使用する条件と目的に応じて
2次微分処理の有無を選択するべきである。

(2)-1)適用範囲の広い青草用汎用型検量線を作成した。ただし、リードカナリーグラスの0bに
ついては適合しない(表2)。

(2)-2)作成した検量線の移設時に適切な補正を行うことにより、移設元推定値との誤差を
最小限にとどめ、かつ未知飼料の推定精度も維持できることが確認された(表3)。

(2)-3)イネ科主体青草用検量線は一部を除きマメ科牧草に適用が可能と考えられたが、
牧草サイレージ用検量線は、マメ科主体牧草サイレージに適用することは無理であった。

(2)-4)PLS法により水溶性糖類(WSC)含量を推定することが可能であった(図1)。

(2)-5)未粉砕乾燥試料を対象とした場合には、全般に推定精度が低く、ある程度
実用的な精度を有していた項目はCP、ADF、OCW、IVDMDだけであった。
項目を限定した流通粗飼料の品質評価などへ応用が期待できる。(表4)。


表1 PLS法とMLR法による検量線精度の比較(未知飼料;プリディクションサンプルn=39)

成分
PLS法 MLR法
2 SDP1) Bias2) EI3) 判定3) 2 SDP1) Bias2) EI3) 判定3)
CP 0.92 0.84 0.26 11.8 A 0.92 0.77 0.69 10.9 A
OCW 0.92 1.7 -1.29 14.7 B 0.79 3.02 -1.2 26.0 C
Ob 0.9 2.2 -1.37 16.1 B 0.86 2.51 -1.1 18.4 B
注 1) SDP:プリディクションにおける標準偏差(誤差にBiasを含まない)、以下同じ。
   2)Bias:誤差の平均値
   3)EI値=2×SDP/レンジ×100、精度判定はEI値の範囲0〜50,50<を5段階に分け、
   以下のように判定した。;
    A:非常に高い、B:高い、C:やや高い、D:低い、E:非常に低い (水野ら1988)、以下同じ。


表2 イネ科主体青草用統一検量線の精度

成分
プリディクション n=44
2 SDP Bias EI 判定
CP 0.99 0.61 0.54 5.4 A
ADF 0.97 1.43 1.14 11.4 A
NDF 0.95 2.85 0.69 13.0 B
OCW 0.96 2.54 -0.8 12.6 B
Ob 0.98 1.8 2.94 7.5 A
EE 0.85 0.31 0.46 19.1 B


表3 検量線移設時補正後の精度(CP)
対象1) 項目 畜試 分析センター
機種 6500 4500
推定値 移設元 2 - 0.992
SDP - 0.54
Bias - 0.61
化学分析値 サンプル 2 0.991 0.991
SDP 0.61 0.75
Bias 0.54 0.34
EI 5.41 6.63
 注1)推定精度を移設元検量線によるNIRS推定値に対する場合と
プリディクションサンプルの化学分析値に対する場合に分けて示した。



 表4 未粉砕(乾燥)サンプル用検量線の作成

成分

プリディクションn=20

2

SDP

Bias

EI

判定

CP

0.84

0.82

0.00

21.8

B

ADF

0.74

1.38

0.10

21.5

B

OCW

0.62

2.25

0.69

28.8

C

IVDMD

0.83

3.38

-0.05

28.6

C


4.成果の活用面と留意点
① 貯蔵粗飼料および放牧草の栄養価推定精度が向上し、無駄のない飼料設計に役立つ。
また、検量線を適切に移設することによりデータの分析センター間誤差が解消される。

② 作成した検量線は道内5つの分析センターで統一して飼料分析サービスに用いられている。
平成13年11月現在までの状況は以下のとおり
    平成13年11月現在の検量線統一状況
対象 項目数 供用開始年月日
イネ科主体牧草サイレージ CP, ADF, NDF, OCW, OB, EE, CPs, CPb 平成11年7月1日〜
イネ科主体乾草 CP, ADF, NDF, OCW, OB, EE, CPs, CPb
イネ科主体青草 CP, ADF, NDF, OCW, OB, EE 平成13年7月1日〜
 ※WSC用検量線については今後の協議事項 

統一検量線利用機関
 オホーツク農業科学研究センター、十勝農業協同組合連合会(農産化学研究所)、
浜中町農業協同組合酪農技術センター、ホクレンくみあい飼料株式会社北見工場、
ホクレン農業協同組合連合会、北海道立畜産試験場、雪印種苗株式会社北海道研究農場
 (あいうえお順)


 5.残された問題点とその対応
 マメ科牧草用検量線の統一
 トウモロコシサイレージ用検量線の統一
 エネルギー含量推定精度の向上
 セグメント、ギャップなどの設定についての検討