成績概要書（2002年1月作成）

研究課題：肉眼観察によるスイートコーンの栄養障害診断法　　　　　　　 担当部署：北海道原子力環境センタ−　農業研究科 協力分担：な　し 予算区分：道　費 研究期間：1998〜2001年度

１．目　的

　本試験ではスイートコーンの現場段階における栄養障害の迅速な診断および初動調査に
資するために、肉眼観察による栄養障害診断法を確立する。すなわち、根群および雌穂などの
補助的情報等も加えながら各種栄養障害の診断に必要な情報を出来る限りビジュアル（カラー写真）化し、
それら症状を体系的に整理して、診断の便宜を図る。

２．方　法

1）試験場所：原環センター内ポリカーボネート製ハウス（加温15℃、換気温30℃）

2）供試品種：ピーターコーン（バイカラー系）

3）水耕装置：ロックウール上で発芽させた苗をプラスチック製ザルにのせて、培養液の入った
　1/2000aワグネルポット上部に設置し、エアレーションを行いながら水耕栽培した。

4）培養液組成：基本培養液はN;200，P;45，K;300，Ca;200，Mg;50，Si;20，Fe;1(2),Mn;1(2)，
　Cu;0.05(0.1)，Zn;0.2(0.4)，B;0.5(1)，Mo;0.05(0.1) mg L^-1、括弧内は2001年のみ。
　要素欠如系列は基本培養液から目的とする要素を欠如させた培養液を用いて栽培した。
　要素過剰系列は目的とする要素を次の濃度になるように加えて栽培した。N;500(600)，
　P;135(180)，K;750(1200)，Mn;100，Cu;80，Zn;50，B;16，Ni;10 mg L^-1、括弧内は2001年のみ。

5）試験の構成：水耕栽培法を用いて、以下の試験を行った。

（1）栄養障害症状の発現試験：第4葉期展開期(2000・2001年)および第9葉展開期(2000年)以降に
　各種多量・微量要素の欠如および過剰処理を行い、各種の栄養障害を発現させ、それらの症状の
　特徴を整理し、カラー写真化した。

（2）多量要素の欠乏閾試験：2001年に目的とする多量要素の培養液濃度を5水準（基本培養液の
　0、1/4、2/4、3/4、1倍の濃度）設定し、第5葉展開期以降に欠乏症を発現させ、葉中要素濃度の
　推移について検討した。

（3）多量要素障害の品種比較試験：2001年にバイカラー系の｢ピーターコーン｣、｢ゆめのコーン｣、
　イエロー系の｢キャンベラ86｣、｢味来｣の計4品種を供試して生育中期以降に各多量要素の欠如
　および過剰処理を行い、栄養障害の発現に関わる品種間差を明らかにした。

３．成果の概要

1）水耕栽培法でスイートコーン葉身部に多量要素（N，P，K，Ca，Mg，Si）と微量要素（Fe，Mn，Cu，Zn，B）の
　欠乏症および多量要素（N，P，K）と微量要素（Mn，Cu，Zn，B，Ni）の過剰症を発現させ、計19種類の
　栄養障害の特徴を明らかにした（表1）。

2）栄養障害による症状の特徴を整理し、肉眼観察による栄養障害診断のための情報一覧（表1）および
　典型的な症状から検索するフローチャートを提案した。さらに、各種障害の典型的な症状を
　図版（カラー写真49葉）により提示し（写真1、2）、診断の際の便宜を図った。

3）多量要素の欠乏閾試験から、欠乏症状（潜在的な欠乏も含む）が発現したスイートコーンの葉中要素濃度を
　明らかにし、栄養障害を診断する際の参考値を示した（表2）。

4）品種比較試験で発現させた多量要素障害は、供試した４品種いずれにおいても各要素の過不足により
　生じる特徴的な症状を示した。その発現の程度は、リンなどの過不足によっては品種の特徴がみられる
　場合もあったが、基本的には生長の速い品種ほど症状を強く発現する傾向にあった。

写真１　カリウム欠乏症状

写真２　ホウ素欠乏に伴う著しい不稔

４．成果の活用面と留意点

1）現場段階における栄養障害の迅速な診断および初動調査に活用する。

2）診断に当たっては、聞き取り調査結果および圃場環境等を勘案して、精度を高める。

3）正確に診断し得ない場合には、土壌および作物体の分析が必要である。

4）栄養障害の症状は主に「ピーターコーン」のものである。他品種への適応は生育速度などの
　相違による症状の変化を考慮して利用する。

５．残された問題とその対応

1）複数にわたる要素の過不足による複合栄養障害の症状把握。

2）スイートコーンの各種栄養障害に対する対応策の検討。