成績概要書(2003年1月作成)
課題分類 研究課題:牛乳処理室等の排水を対象とした低コスト浄化施設の開発 (牛舎排水等の低コスト処理技術) 担当部署:根釧農試 研究部 酪農施設科 担当者名:木村義彰、大越安吾、高橋圭二 協力分担:なし 予算区分:国費受託(バイオリサイクル(畜産)) 研究機関:2000〜2002年度(平成12〜14年度) |
1.目的
牛乳処理室などから排出されるふん尿混入の少ない牛舎排水を対象とし、活性汚泥法を用いた低コストな浄化施設の浄化処理能力および厳冬期での利用性を検討し、排水基準を満たす浄化施設を開発する。
2.方法
1) 牛舎排水性状調査(調査期間:2001年4、5月、2001年11月〜2002年11月)
・ 調査対象:根釧農業試験場および一般農家(15戸)
・ 測定項目:pH、浮遊物質量(SS)、生物化学的酸素要求量(BOD)、総窒素(T-N)および総リン(T-P)
2) 牛乳処理室等の排水を対象とした浄化施設の開発および運転試験
(試験期間:2001年11月〜2002年11月)
・ 浄化処理対象:牛乳処理室などから排出されたふん尿混入の少ない排水
・ 運転試験:定常試験、高負荷試験、冬期試験
・ 測定項目:ビニールハウス内温度、槽内温度、pH、SS、BOD、T-N、T-Pおよび活性汚泥沈殿率(SV30)
3 結果の概要
1) 牛舎排水の処理体系は、機械室、牛乳処理室、搾乳室の作業通路から排出されたふん尿混入の少ない汚水①と機械室、牛乳処理室、搾乳室の作業通路、搾乳ストール、牛用通路の洗浄水などふん尿混入の多い汚水②の2種類に分類された(図 1)。開発した施設は汚水①を対象とした。
2) 施設は、散気管を用いた曝気槽(一次処理施設)および微生物を保持するための担体として蠣殻を用いた接触曝気槽(二次処理施設)で構成される。基幹処理施設を一次処理施設とし、2001年度の根釧農業試験場から排出された排水のSS、BODの最大値(SS:550mg/L、BOD:810mg/L)を設計値とし、一日当たりの処理量を1m3として施工した(図2)。施工費は排水量1m3当たり約96〜136万円であった。
3) 温暖期におけるSSおよびBOD除去率は、それぞれ95.2%、96.6%と高い値を示した。また、T-N除去率は37.9%と低かったが、T-P除去率は73.3%であった(表1)。
4) 厳寒期の浄化能は温暖期に比べ4〜8ポイント低下したが、大幅な浄化能の低下は見られなかった(表2)。
5) 廃棄乳を添加し、設計限界BOD負荷(1009mg/L)に調整した排水(BOD:1140mg/L)を投入した場合の浄化能は、定常運転に比べ低下したが、排水基準を満たした。しかし、設計限界負荷の約1.7倍(1750mg/L)の負荷量の排水を処理した場合、浄化能は更に低下し、窒素、リンは排水基準(日平均)を満たすことができなかった
(表3)。
6) 本施設では、曝気槽内の状態を活性汚泥沈殿率(SV30)を指標として、SV30が30%以内になるように制御した。その結果、SV30による曝気槽内液の沈殿状態の監視は、汚泥の排出時期の把握方法として有効であった。
開発した浄化施設は、牛乳処理室などから排出される排水(ふん尿の混入が少ないもの)を、排水基準を満たす水質まで浄化する能力を有する。また、北海道の冬期間でも運転可能で自家施工も可能な低コスト施設である。
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*斜線内は本施設の処理可能範囲 図1 牛舎排水中のSSとBODの関係 |
表1 牛乳処理室等の排水および処理水性状(定常試験)
pH | SS (mg/L) |
BOD (mg/L) |
T-N (mg/L) |
T-P (mg/L) |
|
牛乳処理室等の排水 | 7.34 | 237.7 | 565.3 | 17.6 | 0.9 |
処理水 | 8.14 | 11.5 | 19.1 | 10.9 | 0.2 |
除去率(%) | − | 95.2 | 96.6 | 37.9 | 73.3 |
排水基準 (日平均) |
5.80〜 8.60 |
150 | 120 | 60 | 8 |
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図2 牛乳処理室等の排水浄化施設フロー |
表2 牛乳処理室等の排水および処理水性状(冬期試験)
試験区* | pH |
SS (mg/L) |
BOD (mg/L) |
T-N (mg/L) |
T-P (mg/L) |
|
無加温 | 牛乳処理室等の排水 | 6.95 | 211 | 500 | 20 | 1.4 |
処理水 | 7.54 | 42 | 51.8 | 12.7 | 1 | |
除去率(%) | − | 80.1 | 89.6 | 36.5 | 28.6 | |
恒温 | 牛乳処理室等の排水 | 6.86 | 168 | 432 | 20.7 | 1.5 |
処理水 | 7.58 | 20.1 | 23.4 | 11.4 | 0.8 | |
除去率(%) | − | 88 | 94.6 | 44.9 | 46.7 |
* 槽内液温:無加温区:17.1〜16.4℃、恒温:20℃ |
表3 牛乳処理室等の排水および処理水性状(高負荷試験)
試験区 (BOD負荷) |
pH |
SS (mg/L) |
BOD (mg/L) |
T-N (mg/L) |
T-P (mg/L) |
|
5L添加区 (1140mg/L) |
牛乳処理室等の排水 | 7.02 | 720 | 1140 | 140 | 8 |
処理水 | 8.11 | 66 | 90 | 45 | 4 | |
除去率(%) | − | 90.8 | 92.1 | 67.9 | 50 | |
10L添加区 (1750mg/L) |
牛乳処理室等の排水 | 7.22 | 1160 | 1750 | 290 | 17 |
処理水 | 8.15 | 140 | 120 | 140* | 9* | |
除去率(%) | − | 87.9 | 93.1 | 51.7 | 47.1 |
* 太字は排水基準を超えた値 |
4.成果の活用面とその留意点
1)本施設は、牛用通路の洗浄水が混入しないフリーストール式牛舎およびつなぎ式牛舎の牛乳処理室の排水を対象とすることで、道内の全酪農家の約70%で利用できる。
2)浄化施設の建設に当たっては、排水の性状を調査し、調査結果を基に施設計画を策定する。
3)汚水②は事前に固形分の除去をした後、その排水のBOD、SS等の負荷を基に施設設計を行う。
4)日常管理として前処理施設の固形分除去および曝気槽内の活性汚泥沈殿率を測定する。汚泥の引き抜きおよび処理液の色の確認は週1回、散気管の洗浄は月1回程度を行う。処理水は、施設内利用(中水利用)や地下浸透させる。
5.残された問題点とその対応
1)ふん尿が混入した排水の浄化処理