成績概要書(2003年1月作成)
研究課題:畑作地帯におけるキャベツ生産のための新機械収穫体系 (基幹畑作に直播キャベツを導入した新作付体系の確立) (畑作物・野菜の新作付体系の経営的評価と地域支援システムの確立) 担当部署:農研機構・北海道農研・総研部・総研2、農村システム研、経営管理研畑作部・生産チーム、環境チーム 担当者名:八谷 満、天野哲郎、山縣真人、小島 誠、奥野林太郎、石川枝津子、坂本英美 協力分担:なし予算区分:21世紀プロ(7系)研究期間:2001〜2002年度 |
1. 目 的
キャベツの省力生産技術体系の確立においては、作業時間が長く、栽培面積の拡大を規制している収穫・搬出作業の機械化・効率化が最も重要な課題である。そこで、畑作地帯における家族労働依存型キャベツ生産を想定した省力的で軽労化を図る機械収穫体系を開発するとともに、本体系の導入による経営的な効果を明らかにする。
2. 方 法
1)キャベツ一斉収穫機を基軸とする収穫・再調製・箱詰め・搬出の同時工程を3人組作業で行うトレーラ伴走式収穫体系を開発し、現地実証試験を通じてその作業性を明らかにする。
2)実証試験結果等をもとに諸係数を設定し、線型計画法を用いて畑作・野菜作複合経営(家族労働力3人、経営規模20・25・30ha)における新収穫体系の経営評価を行う。
3. 成果の概要
1)収穫機本体は後方作業者1名が歩行を伴わずに安全に全て操作できるよう、掻込みホイールの対地高さ及びHSTの速度を制御するスイッチ群を機械後部に付与するとともにステップ台車を装備する(図1左)。特に、作物条件及び畦面の凹凸に対するホイール高さを適宜微調整することによって、土の掻込みによるキャベツへの土の付着を回避することが可能となる。
2)収穫機に伴走するトレーラを牽引するトラクタの操舵・エンジン回転数・エンジン非常停止は、リモコンで操作できる。トレーラ上にはキャベツ搬送コンベヤ、再調製装置及び空箱搬送コンベヤ等を架装し、2人組作業で切直し・箱詰め・収穫物積み荷を分担する。さらにトレーラ上には150間一往復分(3.2a)の収穫物を積載するスペースを保有する(図1右)。
3)現地実証試験では、機械に起因する出荷不適球率は全体の1.0%程度であり、収穫物への土の付着は観察されなかった。リモコントラクタによるトレーラ伴走式収穫体系における作業速度は約10cm/sで投下労働量は18人・h/10aとなり、慣行手取り体系に比較して40%以上の時間短縮を達成するとともに、有効作業効率は80%以上を得た(表1)。収穫に伴う作業姿勢において、手取りでは腰の曲げ角が111°に対して本体系では作業者A(図1右参照)が9°、トレーラ上の作業者Cは15°と両者ともにその改善効果は明らかである(図2)。また、本体系では作業者の心拍水準値(図表略)に基づく試算結果から1日約11aの面積負担は可能と判断される。
4)芽室町のキャベツ作農家の意向調査結果では、収穫機に期待する能力は1日(8h)当たり処理量12a、トレーラの積載箱数150箱であり、本体系は概ね要望を満たしている。また、現地実証試験の対象地(芽室町)の畑作・野菜作経営を前提に、本体系の経営評価を行った結果、選択される野菜がキャベツのみの場合には慣行に比べて0.8〜0.9ha(図3)、ながいもとキャベツを選択する経営では1.0〜1.7ha程度の作付拡大が可能と試算された。このときの機械システムに対する投資限界を求めると190〜280万円程度(図4)となった。したがって、機械導入に対する補助事業を前提とすれば、畑作+キャベツ・ながいも経営の20ha階層や畑作+キャベツ作経営の25ha階層ではトレーラ伴走式収穫体系の導入に伴う資本支出を概ね回収できる水準にあり、併せて軽労化の効果が大きいことから、経営視点から導入の合理性がある。さらに、若干の作業能率の向上や投資額の低減によれば、より多くの経営類型で導入の合理性が生じると判断された。
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図1 改良型収穫機本体とこれを基軸としたトレーラ伴走式収穫体系 |
試験区 | 試験区1 | 試験区2 | |
供試面積 | [a] | 8.6 | 5.7 |
収 量 | [n/10a](箱/10a) | 6.1(501) | 4.7(423) |
平均作業速度 | [cm/s] | 8.81 | 9.89 |
出荷不適球率 | [%] | 20.3 | 29.4 |
1)規格以下 | [%] | 13.3 | 23.5 |
2)裂 球 | [%] | 0.8 | 0.6 |
3)病虫害 | [%] | 4.3 | 3.6 |
4)機械損傷 | [%] | 1 | 0.6 |
5)その他 | [%] | 0.9 | 1.1 |
圃場作業量 | [a/h](h/10a) | 1.60(6.25) | 1.72(5.81) |
投下労働量 | [人・h/10a] | 18.8 | 17.4 |
有効作業効率 | [%] | 84.2 | 80.4 |
図2 新体系による作業姿勢の改善
図3 収穫方式ごとのキャベツ作面積の試算結果
図4 トレーラ伴走式収穫体系への投資限界の試算結果
4. 成果の活用面と留意点
1)大区画圃場において無理のない姿勢と作業強度で持続的なキャベツ収穫を行うことができ、現状の家族経営規模においてもキャベツ作の一定の拡大を図る際に活用できる。
2)本体系はトラクタ-トレーラ車両系のための一定幅の走行経路を圃場内に確保する必要がある。
3)収穫機の使用に際しては、機械の適正栽培様式にしたがう必要がある。
5. 残された問題とその対応
1) 収穫機の掻込みホイール対地高さ制御の自動化などの改良が必要である。
2) 雇用依存型等の大規模キャベツ作経営における収穫の機械化を図るためには,一層の作業能率の高い収穫体系の開発が必要である。