てんさい新品種候補 「HT 21」の概要    道立北見農試、十勝農試、中央農試、上川農試、北農研センター
                            北海道てん菜協会(北海道糖業㈱、日本甜菜製糖㈱、ホクレン)
1.特性一覧表
系統名 HT 21 来歴 「HT 21」は、スウェーデンのシンジェンタ
(旧ノバルティス)種子会社が育成した二
倍体単胚の一代雑種である。
平成12年に北海道糖業株式会社が輸入し、
同年「HMR00-08」の名でそう根病抵抗性予
備試験に供試。平成13年より各種試験を行った。
特性 長所 1) そう根病抵抗性が“強”である。
2) 褐斑病抵抗性が「フル-デン」より強い“やや強”である。
3)根中糖分が「モリ-ノ」に比べて高い。
短所 1) 根腐病抵抗性が“弱”である。
普及見込面積           平成16年度 500ha   平成17年度以降 2,000ha
    品種系統名
形質
健  全  圃  場 そう根病発病圃場
HT 21 モノホマレ
(標準品種)
フルーデン
(対照品種)
モリーノ
(対照品種)
HT 21 モリ-ノ
(対照品種)
倍数性 二倍体 二倍体 二倍体 二倍体     
葉姿 直立 直立 やや直立 やや直立
葉長
葉数 やや多 やや多 やや多 やや多
葉形 皮針 皮針 やや皮針 やや皮針
クラウンの大小
根形 やや短円錐 円錐 やや短円錐 やや短円錐
分岐根
露肩 やや少
根重(t/10a) 6.57( 94) 6.96(100) 6.55( 94) 6.98(100) 4.84( 93) 5.22(100)
根中糖分(%) 18.19(106) 17.22(100) 18.29(106) 17.48(102) 17.23(101) 17.03(100)
糖量(kg/10a) 1,189( 99) 1,195(100) 1,194(100) 1,214(102) 843( 94) 897(100)
修正糖量(kg/10a) 1,053(100) 1,054(100) 1,059(100) 1,067(101) 757( 94) 807(100)
アミノ態窒素(meq/100g) 2.01(116) 1.74(100) 2.36(136) 2.05(118) 1.73(101) 1.72(100)
カリウム(meq/100g) 4.23(105) 4.02(100) 4.13(103) 4.22(105) 3.48(109) 3.18(100)
ナトリウム(meq/100g) 0.28( 68) 0.41(100) 0.32( 78) 0.34( 83) 0.54( 83) 0.65(100)
不純物価(%) 3.98(102) 3.91(100) 4.22(108) 4.20(107) 3.74(103) 3.64(100)
特性検定試験 HT21 モノホマレ フルーデン モリーノ    
褐斑病抵抗性 やや強 やや弱(やや強) やや強
根腐病抵抗性 やや弱(弱)
耐湿性 やや弱 やや弱
抽苔耐性
そう根病抵抗性 やや弱
黒根病抵抗性* (中) (中)

注1)特性検定は担当農試の成績で、褐斑病抵抗性、根腐病抵抗性における「モノホマレ」の( )内は品種登録時の評価。
 2)形態的特性は十勝農試の成績。健全圃場の成績は十勝、北見、中央、上川、北農研、てん菜協会(3カ所)の計8カ所平均(中央農試のカリウム、ナトリウム、十勝農試は2カ年平均)で、試験年次は3カ年(H13〜15)、( )内は「モノホマレ」に対する百分比。そう根病発病圃場の成績は北見農試そう根病抵抗性検定圃場の3カ年の平均値(そう根病発病程度はH13:多、H14:中、H15:微)で、( )内は「モリーノ」に対する百分比。
 3)*黒根病抵抗性(参考)は中央農試における1カ年の成績。
 4)「フルーデン」はそう根病抵抗性を持たないため、特性検定試験には供試していない。

2.「HT 21」の特記すべき特徴
 「フルーデン」と比較して根重、根中糖分、糖量は同等であるが、不純物価はやや低く、品質でやや優れ、褐斑病抵抗性が“やや強”で「フルーデン」より強い。また、「モリーノ」と比較して健全圃場における根中糖分が高く、そう根病抵抗性が「モリーノ」並の“強”であり、耐湿性が“中”で「モリーノ」の“やや弱”よりやや優る。

3.優良品種に採用しようとする理由
 てん菜の買い入れ価格は根中糖分によって左右され、耕作者の圃場に合わせて様々なタイプの品種が選定されている。根中糖分の高い「フルーデン」は平成10年に優良品種に認定され、平成15年には生産性の高い地域を中心に約1400ha作付けされている。しかし「フルーデン」は褐斑病に弱く、不純物価も高いことから、同病抵抗性が強く、より高品質な品種が求められている。砂糖の価格情勢が厳しいなか、生産性の向上、安定生産と製糖コスト削減のために、耐病性に優れ、品質の良い品種の開発は急務である。 
 一方、てん菜の重要病害である、テンサイそう根病は化学的防除が困難なため、発病圃場では抵抗性品種の作付けが不可欠であり、そう根病発生地域の拡大とともに抵抗性品種の重要性はさらに高まっている。しかしながら、そう根病は圃場全体で発病することはまれなので、抵抗性品種でも健全圃において一般品種並みの根重・根中糖分が必要とされている。抵抗性品種の「モリーノ」は平成11年に優良品種に認定され、平成15年には約3000ha作付けされている。しかし「モリーノ」の根中糖分は一般品種に比べると低いため、低糖分地域において根中糖分のより高い抵抗性品種が要望されている。
「HT 21」は、「フルーデン」と比べ、根重、根中糖分、糖量が同等であるが、不純物価はやや低く、品質でやや優れ、さらに、褐斑病抵抗性が“やや強”で「フルーデン」より強く、同病による被害の軽減が期待できる。また、「モリーノ」と比較して健全圃場における根中糖分が高く、そう根病抵抗性が「モリーノ」並の“強”であり、耐湿性は“中”で「モリーノ」の“やや弱”よりやや優る。
 以上のことから、「HT 21」を「フルーデン」に置き換えると共に、低糖分地域で栽培される「モリーノ」の一部に替えて北海道一円に普及することにより、てんさいの安定生産に寄与できる。





4.適地
北海道一円。





5.栽培上の注意
1)根腐病抵抗性が“弱”なので、適切な防除に努める。