成績概要書(2004年1月作成
 研究課題:十勝地域における地ビール用大麦の生育特性と品質評価
 担当部署:北見農試 作物研究部 畑作園芸科、帯広畜産大学 畜産環境科学科
 協力分担:なし
 予算区分:重点領域
 研究期間:2000年〜2002年(平成12〜14年)

1.目的:道内の地ビール会社は平成7年以降急増し、その後は伸び悩んでいる。地場産のビール用大麦(以下、ビール麦)を使用している地ビール会社は僅かである。このような状況において、十勝地域の地ビール会社では、地場産のビール麦による醸造を試行している。しかし、これまで十勝地域におけるビール麦に関する試験成績は無く、ビール麦を栽培するための知見が求められている。そこで、十勝地域におけるビール麦の生育特性を解明し、十勝地域への栽培適性がある品種を選定するとともに、麦芽・醸造品質を評価する。
 
2.方法
1)生育特性の解明と適応性の検定:帯広畜産大と北見農試において、北見農試育成11、府県機関育成12、海外機関育成4品種系統について形態、生態、収量、障害等の調査を行った。耐穂発芽性を評価するため、圃場の穂発芽程度と休眠性を調査した。
2)品質評価:原麦と麦芽の一般的な項目を調査分析した。醸造品質については麦芽品質が良好な2品種について醸造項目の分析と一般モニターによる試飲調査を行った。
 
3.成果の概要
1)生育特性の解明
 北見農試と比較した帯広畜産大における生育の特徴は以下の通りであった。供試品種系統全般に(海外品種の一部を除く)結実日数(以下、登熟期間)が長かった。府県品種は穂数が多く、子実重が多かった(図1)。粗蛋白含量は全般にやや高かった。
2)栽培適性の検定
「1)」の結果から十勝中央部への適応性が期待される品種について栽培適性を検定した。 (1)十勝中央部における「りょうふう」の特徴として、登熟期間は長く、子実重は北見農試とほぼ同等であった。整粒歩合がやや低く、整粒重は北見農試と比較してやや少なかったが、倒伏等障害の発生は僅かであり、栽培適性はあると考えられた(表1)。
 (2)「ミハルゴールド」は「りょうふう」と比較して、成熟期が5日早かったが、収穫期の前進としては不十分であった。整粒歩合は高かったが、低温、寡雨の年には子実重が少なく、整粒重はやや少なかった。圃場の穂発芽は僅かに発生した。外観品質はやや劣った。以上のことから、栽培適性は「りょうふう」より低いと考えられた(表1)。
 (3)「アサカゴールド」は「りょうふう」と比較して、成熟期が4日早く、収量性は「ミハルゴールド」と同様の傾向であった。収穫期の前進は不十分で、収量性がやや劣るため、栽培適性は「りょうふう」より低いと考えられた(表1)。
3)麦芽品質
 (1)平成13年産「りょうふう」は麦芽エキス、酵素力とも基準値以上であった。平成12年の酵素力が低い理由として原麦の粗蛋白含量がやや低いことが考えられた(表2)。
 (2)「ミハルゴールド」は麦芽エキスと酵素力が高く、良好な結果であった。平成12年産「アサカゴールド」は麦芽エキス等が低く、「ミハルゴールド」より品質が劣った(表2)。
4)醸造品質
 (1)100L規模による醸造試験では「りょうふう」、「ミハルゴールド」とも麦芽品質は良好であった。ビールは全窒素が高く、苦味価がやや低かった。その他の形質は適正範囲内で、標準的なピルスナー系ビールを醸造することができた。
 (2)1000L規模による醸造試験では2品種とも色度が濃く、全窒素が高い特徴があった。このことは製麦設備上の制約に由来すると考えられた。一般試飲結果では2品種とも8割以上から「良い・好みである」の評価を得た(表3)。
5)まとめ
 「りょうふう」は十勝中央部における栽培適性があり、地ビール原料に適する品質を有していた。

図1.両試験地間における主要形質の差異
注)育成機関で分類した品種群の平成12〜14年の平均。北見系統は北見農試育成系統を示す。

表1.主要品種の特性

注)北見の「りょうふう」は平成12〜14年、北見産の平均値。平成15年は干ばつによる低収のため平均から除外。
  十勝の「りょうふう、ミハルゴールド、アサカゴールド」は平成12〜15年、十勝管内6試験の平均。
  倒伏と穂発芽:0(無) - 3 (中) - 5(甚)、穂発芽は平成12〜14年帯広畜産大の平均。
  外観:4(中上) - 5(中中) - 6(中下)。

表2.麦芽分析結果(帯広畜産大産)
注)製麦・分析の担当は帯広畜産大、方法はビール酒造組合国際技術委員会による。基準値は十勝ビール㈱による。
 
表3.十勝ビール㈱における一般試飲の結果(1000L規模の醸造試験)
4.成果の活用面と留意点
 この成果は十勝中央部に適用する。
 
5.残された問題とその対応
 北見農試で新たに育成される品種に対する適応性の検定。