成績概要書(2004年1月作成)
課題分類:北海道農業 > 野菜 > 肥料 > 施肥改善 > トマト
研究課題:窒素栄養診断に基づく夏秋どりトマトの養液土耕栽培技術
担当部署:道南農試 研究部 園芸環境科
担当者名:坂口雅己、中住晴彦
協力分担:北農研 生産環境部 養分動態研、渡島中部農改セ、JA新はこだて大野支店
予算区分:国費補助
研究期間:2001〜2003年度(平成13〜15年度)
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1.目的
夏秋どりトマトの養液土耕について、収量、環境負荷低減、経済性の優位を示すとともに、窒素施肥および栄養診断基準を策定し、栄養生理に見合った栽培技術を開発する。
2.方法
1)場内圃場試験(1999〜2003年)
窒素施肥処理:養液土耕1999,2000年:10,20,40kg/10a、養液土耕2001年:10〜40kg/10a
養液土耕2002,2003年:栽培期間の(1)〜(3)の時期について窒素施肥処理を行った。
(1)定植〜第1果房肥大期; 0.075,0.15,0.30kg/10a・日(期間計約1.5, 3.0, 6.0kg/10a)
(2)第1果房肥大期〜摘心; 0.15,0.30,0.60kg/10a・日(期間計約7.5,15.0,30.0kg/10a)
(3)摘心後1ヶ月間 ; 0,0.15,0.30kg/10a・日(期間計約 0, 4.5, 9.0kg/10a)
慣行栽培1999〜2003年:10+20kg/10a、収穫段数:7段、栽植密度:3333株/10a
定植苗:直径12cmのポリポットで育苗し、第1花房の花が1つ咲いた苗を定植した。
2)養液土耕における経済性および労働時間の評価
養液土耕と慣行栽培について10a当たりの粗収益、所得および労働時間などを評価した。
3)養液土耕の現地調査(2002,2003年)
渡島管内大野町の2戸で土壌硝酸態窒素、葉柄硝酸濃度、窒素施肥量などを調査した。
4)各生育時期における栄養診断基準の検討(1999〜2003年)
圃場試験と現地調査における生育初期の葉柄硝酸濃度の推移や圃場試験における葉柄硝酸濃度と収量の関係から第2果房開花始と各果房肥大期の栄養診断基準を検討した。
3.成果の概要
1)養液土耕は慣行栽培と比べ施肥窒素利用率が高く、窒素減肥が可能であった。また、養液土耕は慣行栽培と比べ25%減肥でも果実収量が高く、果実糖度は同等であった。(表1)
2)圃場試験における果実収量や施肥窒素利用率などから、夏秋どりトマトの養液土耕における各生育時期の窒素施肥基準は定植〜第1果房肥大期は0.15kg/10a・日、第1果房 肥大期〜摘心は0.30kg/10a・日、摘心後1ヶ月間は0.15kg/10a・日とする。この窒素施肥量は現行施肥標準と比べ約25%の減肥となる(表1)。
3)3カ年連用の栽培で養液土耕では土壌のpHの低下とECの上昇はほとんど無かったが、慣行栽培では土壌のpHが低下しECが上昇した(表1)。また、有機物を施用しない条件では、養液土耕は慣行栽培と同様に地力窒素を消耗する。
4)養液土耕は慣行栽培と比べ10a当たりの粗収益および所得が高く、灌水・施肥の労力が軽減され、労働時間が短くなることから、投下労働1時間当たりの農業所得は高くなると評価された(表2)。
5)現地の養液土耕において栽培前と比べ栽培跡地の土壌硝酸態窒素が低く、環境負荷が低減されると考えられた。また、現地では定植直後の養液供給により草勢が強くなる場合があるため、定植時の土壌診断と第1果房肥大期以前の栄養診断が必要と考えられた。
6)養液土耕における各生育時期の葉柄硝酸濃度の基準は第2果房開花始は500〜5000ppm、 第1果房肥大期は1000〜7000ppm、第2果房肥大期以降は4000〜7000ppmとする(図1)。
7)養液土耕では定植時に土壌硝酸態窒素が残存していないことが望ましいため、養液土耕における定植前土壌硝酸態窒素の基準を5mg/100g未満とする。
以上より、夏秋どりトマトの養液土耕における窒素施肥と栄養診断基準を設定し、窒素栄養診断に基づく養液土耕栽培技術をフロー図としてとりまとめた(図2)。トマトの養液土耕栽培は収量、減肥による環境負荷低減、灌水・施肥の労働軽減および経済性において優位な技術である。
表1.圃場試験における各処理区の窒素施肥量、良果収量、跡地土壌化学性(2003年)
総窒素 良果 果実 窒素 施肥窒素 跡地土壌(0-20cm)
処理区 施肥量 収量 糖度 吸収量 利用率 pH EC NO3-N
前期 中期 後期 (kg/10a) (t/10a) (Brix) (kg/10a) (%) (H2O) (mS/cm)(mg/100g)
養液0.075-0.30-0.15 21.5 (72) 10.9 (112) 5.8 19.5 54.4 6.5 0.15 0.5
養液0.15 -0.30-0.15 23.3 (78) 12.2 (126) 5.8 22.6 63.2 6.6 0.10 0.3
養液0.30 -0.30-0.15 26.7 (89) 11.3 (116) 5.9 21.2 50.0 6.3 0.15 0.3
養液0.15 -0.15-0.15 15.5 (52) 8.0 (82) 5.8 16.1 53.1 6.8 0.09 0.2
養液0.15 -0.60-0.15 38.9(130) 12.6 (130) 6.1 26.3 47.5 6.3 0.13 1.2
養液0.15 -0.30-0 19.1 (64) 10.2 (105) 6.0 19.3 59.9 6.7 0.11 0.3
養液0.15 -0.30-0.30 27.5 (92) 11.6 (120) 5.8 23.6 57.4 6.5 0.09 0.5
慣行10+20(施肥標準) 30.0(100) 9.7 (100) 6.0 20.4 41.8 5.8 0.31 0.9
養液土耕の標準区は実線で表示。総窒素施肥量と良果収量の括弧は慣行10+20区を100とした指数。
表2.養液土耕と慣行栽培における10a当たりの所得および労働時間の評価
収量 粗収益 所得 所得率 労働時間 投下労働1時間当
(kg) (円) (円) (%) (時間) たりの農業所得(円)
養液土耕 11,176 2,570,465 933,488 36.3 1,006 928
慣行栽培 9,763 2,245,338 830,040 37.0 1,028 807
4.成果の活用面と留意点
1)養液土耕では慣行栽培と同様に地力窒素を消耗することから、地力維持のため有機物の 施用にあたっては北海道施肥ガイドに準ずること。なお、窒素の減肥にあたっては、減肥 可能量の75%を減肥する。
2)当面、養液土耕におけるリン酸総施肥量は施肥標準の65%、カリ総施肥量は施肥標準と同 等とする。
3)下層土窒素診断を行った場合、第1果房肥大期以降における1日当たりの窒素減肥量を
下層土窒素評価量(kg/10a)×0.75÷(第1果房肥大期〜摘心1ヶ月後の予定日数)とする。
4)土壌水分管理については、pF2.0〜2.6を目安とする。
5.残された問題とその対応
1)養液土耕におけるリン酸およびカリの土壌肥沃度に対応した適正施肥量の検討。