成績概要書(2004年 1月作成)
課題分類:
研究課題:黒毛和種肥育における道産稲ワラおよび麦稈の有効活用
     (道産稲ワラ等を活用した肉牛の低コスト飼養技術の開発)
担当部署:畜試 家畜生産部 肉牛飼養科・育種科
        畜産工学部 代謝生理科
担当者名:
協力分担:帯広畜産大学
予算区分:重点領域特別研究
研究期間:2001〜2003年度(平成13〜15年度)
研究期間:2001〜2003年度(平成13〜15年度)
1.目的                                    
 道産の稲ワラおよび麦稈を肥育牛の粗飼料源として有効活用するため、その粗飼料特性を明らかにするとともに、黒毛和種去勢牛の肥育試験を行い、これらの粗飼料給与が産肉性に及ぼす影響について検討する。                          
 
2.方法
1)道産稲ワラおよび麦稈の粗飼料特性解明
 ルーメンフィステル装着黒毛和種去勢牛6頭を濃厚飼料多給(8kg/日)で飼養し、3つの粗飼料源として道産稲ワラ(北見産)、麦稈(十勝産小麦稈)および乾草(道産チモシー主体乾草)を細切してそれぞれ27日間給与(2kg/日)した。測定項目は、供試粗飼料の成分、粉砕総消費電力(W)、ルーメン内容物のルーメンマット形成飼料片の粒度分布、揮発性脂肪酸(VFA)濃度、および採食、反芻行動とした。また、21日目にイッテルビウム(Yb)で媒染したこれら粗飼料片をルーメンフィステルより投与し、経時的に採糞して、試験飼料の消化管内通過速度を測定した。
 
2)道産稲ワラおよび麦稈の給与と産肉性との関連性
 黒毛和種去勢牛を用いて肥育試験を実施し、肥育後期(16カ月齢〜出荷時)の道産稲ワラおよび麦稈の給与が産肉性に及ぼす影響について検討した。
 
3.結果の概要
1)道産稲ワラおよび麦稈の粗飼料特性解明
(1) 供試粗飼料の酸不溶性リグニン(ADL)と粗ケイ酸の合計含量は、稲ワラが19.0%および麦稈が17.0%と乾草の8.5%より多かった。供試粗飼料を粉砕してその90%が2mmの篩を通過  するまでに要した総消費電力(W)は、麦稈、稲ワラ、乾草の順に大きく、物理的に麦稈、  稲ワラ、乾草の順に粗剛であると考えられた。
(2) 供試粗飼料片のルーメン内通過速度は、麦稈、稲ワラ、乾草の順に遅く、消化管内滞留時間はこの順に長い傾向がみられた(表1)。
(3) ルーメンマットの一部を採取し、湿式法で粒度を分析した。ル−メン内では麦稈は稲ワラより飼料片が大きい傾向にあったが、乾草との違いは明確ではなかった(図1)。
(4) 供試粗飼料間のルーメンの総VFA濃度は9.3〜10.3mmol/dlおよび酢酸:プロピオン酸:酪 酸のモル比は60.8〜62.9:24.6〜26.5:12.5〜13.5であり、有意な差がみられなかった。
(5) 1日の採食時間は供試粗飼料間に有意な差がなく、1日の反芻時間は、麦稈および稲ワラが乾草に比べ有意に長かった(図2)。
 
2)道産稲ワラおよび麦稈の給与と産肉性との関連性
(1) 肥育期間の増体は、稲ワラ区、麦稈区および乾草区の処理区間で差がなく、終了時体重および枝肉量もほとんど差がみられなかった(表2)。
(2) 肥育期間の粗飼料および濃厚飼料摂取量(kg/日/頭)は、処理区間で差がなかった(表2)。
(3) 枝肉量、ロース芯面積、バラ部厚および皮下脂肪厚は、処理区間で差がなかった。全道平均と比較し、いずれの処理区も皮下脂肪厚が若干厚い傾向にあったが、他の項目は、ほぼ全道平均値と同程度の値であった(表2)。
(4) 肉質等級4以上の頭数は乾草区が13頭中5頭、稲ワラ区が9頭中4頭、麦稈区が12頭中5頭で あった。平成13年の黒毛和種去勢牛の肉質等級4以上率は、全道平均で31.9%であった。本 試験ではいずれの処理区もこれを上回る成績であった(表2)。
(5) 脂肪交雑基準(BMS No.)および胸最長筋の脂肪含量は処理区間で差がなかった(表2)。
(6) 筋肉内脂肪の脂肪酸組成は処理区間で差がなかった(図3)。
 
まとめ
 以上のとおり、稲ワラおよび麦稈の粗飼料特性および肥育牛の増体や産肉性を調べた。その結果、これら粗飼料はルーメン発酵特性に差がなく、産肉性および肉質等級は道内産枝肉の平均値と同等以上であったことから、道産稲ワラおよび麦稈は肥育後期の粗飼料として有効に活用できることが明らかとなった。


表1 ル−メン内通通過速度および全消化管滞留時間
  稲ワラ 麦稈 乾草
ル−メン内
通過速度(%/h)
3.44 2.58 4.07
±1.65 ±0.91 ±1.91
全消化管
滞留時間(h)
66.59 78.82 51.09
±23.41 ±27.39 ±16.04
(注)各項目とも区間に有意差なし



(注)
Large particles (LP、 ≧1180μm篩上残留分画)
Small particles (SP、 47〜600μm篩上残留分画)
FinePartic1es  (FR、47〜150μm 篩上残留今画)
可溶性分画    (SOL、47μm篩上通過残留分画)





 


表2 肥育成績
  乾草区 稲ワラ区 麦稈区 有意差検定
頭数 13 9 12  
開始時体重 kg 255.6±28.4 257.0±22.3 248.7±26.8 NS
終了時体重 kg 728.5±53.9 722.2±72.0 734.3±82.0 NS
日増体量 kg 0.82±0.08 0.83±0.10 0.85±0.13 NS
飼料摂取量 kg/頭/日     
粗飼料   1.9±0.3 2.1±0.2 2.1±0.4 NS
配合飼料   8.4±0.3 8.4±0.2 8.6±0.2 NS
枝肉量 kg 445.2±34.5 443.1±48.4 446.6±48.2 NS
ロース芯面積 cm2 52.5±5.2 53.6±6.6 49.4±7.5 NS
バラ部厚 cm 7.3±0.7 7.2±0.6 7.1±0.8 NS
皮下脂肪厚 cm 2.9±0.8 2.6±0.6 2.7±0.9 NS
肉質等級4以上 5/13 4/9 5/12 -
BMS No.   4.8±2.4 4.7±2.1 4.7±1.9 NS
BCS No.   3.5±1.1 3.6±1.0 3.6±0.8 NS
胸最長筋の脂肪含量 % 27.0±7.7 28.3±5.6 27.1±5.1 NS
(全道平均:H13)     
ロース芯面積 cm2 50.8      
バラ部厚 cm 7.2      
肉質等級4以上 % 31.9      
(注)BMS No. :脂肪交雑基準、BCS No.:牛肉色基準 


4.成果の活用面と留意点
1)道産稲ワラおよび麦稈は、肥育後期の粗飼料として有効に活用できる。
2)稲ワラおよび麦稈は十分に乾燥させた良質のものを給与する。
 
5.残された問題とその対応