成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:乳牛の第四胃変位の発症要因解明とリスク評価
       (乳牛の第四胃変位の発症要因解明と早期診断技術の開発)
担当部署:畜試 畜産工学部 代謝生理科 
協力分担:なし 
予算区分:道費 
研究期間:2000〜2003年度(平成12〜15年度)
1.目的
酪農現場における第四胃変位の主要な発症要因を明らかにし、本症低減のためのポイントを示す。

2.方法
1)第四胃変位の発症要因の疫学的解析
2)第四胃変位の発症機序の解析
 (1)消化管のX線透視検査からの検討
 (2)BCSの違いによる分娩前後における制限給与の影響
3)第四胃変位のリスク評価

3.成果の概要
1)①第四胃変位は80%が分娩後1ヵ月以内に発症しており、分娩が発症に関与していると考えられた。
 ②本症多発農家3戸における経産牛224頭の繁殖成績の調査では、前産次の空胎日数、授精回数、乾乳期間が増加した牛で発症率が高かった。このうち75頭での分娩前のボディコンディションスコア(BCS)の調査では、本症の発症はBCS3.75以上の牛で多く、3.25以下では発症がなかった(図1)。これらのことから、過肥が発症に関与していることが推察された。
 ③同農家における本症以外の周産期疾病発症率の調査では、2戸でケトーシス・脂肪肝が、1戸で乳熱が多発しており、それぞれの農家で分娩前後の牛群が乾物摂取量不足および血中Ca濃度低下の傾向にあったと推察された。
 ④本症多発年の牛は、分娩前後の乾物摂取量が少発年に比べ有意に低かった(図2)。多発年における発症牛と非発症牛の乾物摂取量に差はなかったが、発症牛は過肥傾向にあった。
2)(1)-①妊娠末期の第四胃は、子宮の圧迫により、著しく前方へ移動・変形して認められ、本症発症牛の第四胃形態と類似していた。乾物摂取量不足による第一胃容積の減少は、第一胃前房と第二胃の浮上として認められ、浮上によって生じた空隙のため、第四胃体部が上方に変位し易くなった。これらは発症要因としての分娩および乾物摂取量不足を裏付けるものであった。
 (1)-②実験的低Ca血症により、第一胃、第二胃、第四胃運動が停止または抑制し、本症との関連が推察された。
 (2)過肥牛で分娩前後に乾物摂取量を制限したところ、乳量が維持され、血中NEFA濃度およびGOT濃度が上昇した。削痩牛では乳量が減少し、血中NEFA濃度およびGOT濃度は変動しなかった(図3)。過肥牛は体脂肪を動員して泌乳を維持するため、肝機能の低下を示し、これが乾物摂取量不足を増長し、本症の発症を促進すると考えられた。乾物摂取量不足および過肥による本症発症への関与を裏付けるものであった。
3)本症発症のリスクファクターとして、分娩翌日の血中GOT濃度、NEFA濃度、3-ヒドロキシ酪酸濃度、グルコース濃度、分娩前のBCS、前産次の空胎日数、授精回数、乾乳期間が挙げられた。リスク評価として、それぞれのリスクファクターにおいて、カテゴリーランクの上昇に伴い、発症危険率が高まることを示した(表1)。

以上のことから、酪農現場における第四胃変位の主要な発症要因は分娩(子宮の縮小)、分娩時の過肥および乾物摂取量不足であり、その低減には分娩前のBCSコントロールと分娩前後の乾物摂取量確保が重要であることを示した。


図1 分娩前のBCSと第四胃変位発症率




図3 分娩前後に摂取量制限した過肥牛と削痩牛
の乳量および血中GOT濃度





※血液成分の診断的意義
GOT:肝機能の指標、肝細胞障害で高値
Glu(グルコース):血糖値、エネルギー摂取不足で低値
NEFA(遊離脂肪酸):エネルギー代謝の指標、体脂肪の動員で高値
3-HB(3-ヒドロキシ酪酸):ケトン体の一種、ケトーシスで増加する


4.成果の活用面と留意点
過肥状態での分娩や分娩前後の乾物摂取量不足を避けるよう留意することで、酪農現場における第四胃変位の低減が可能となる。

5.残された問題点とその対応
分娩前後の乾物摂取量確保およびBCSコントロールのための技術。