成績概要書(2004年1月作成)
 課題分類:
 研究課題:黄色ブドウ球菌による潜在性乳房炎の早期診断・治療システム
        (潜在性乳房炎の早期診断・治療システムの確立)
 担当部署:畜試 畜産工学部 感染予防科・代謝生理科
 担当者名:
 協力分担:十勝農業共済組合
 予算区分:道費
 研究期間:1999〜2002年度(平成11〜14年度)
1.目的
 黄色ブドウ球菌は乳房炎の主要な起因細菌のひとつであるが、治癒率が低いため、罹患牛は淘汰あるいは盲乳処置されているのが現状である。しかし、畜試の牛群を用いた治療試験から、同菌による乳房炎も感染初期に治療を行うことにより高い治癒率が得られることを報告した(平成5年度北海道農業試験会議)。本試験では、一般酪農家の牛群においても同様の治療成績を得ることができることを実証するとともに、分娩前における治療の効果について検討し、同菌による乳房炎を早期に摘発して治療するシステムを確立し、治癒率の向上をめざした。
 
2.方法
1)潜在性乳房炎の早期診断法
(1)分娩前後における乳房炎起因細菌感染状況調査
  乳牛の分娩前乳汁および初乳(分房乳)サンプルの培養検査を行い、乳房炎起因細菌の検出率を調査した。
(2)生物発光酵素免疫測定法(BLEIA法)による乳汁中黄色ブドウ球菌検出の有効性
  BLEIA法および培養法による乳汁中黄色ブドウ球菌の検出成績を比較した。
2)黄色ブドウ球菌による乳房炎の泌乳期治療
  十勝管内酪農家で飼養されている黄色ブドウ球菌による乳房炎罹患搾乳牛(潜在性、臨床型)を対象に、抗生物質の乳房内注入単独および筋肉内投与との併用による治療を 行った。
3)分娩前における潜在性乳房炎治療
  畜産試験場で飼養されている乳用牛を用い、分娩予定2週間前における分房乳の細菌検査による早期診断に基づき、泌乳期用の乳房炎軟膏を注入(1日1回、3日間、黄色 ブドウ球菌の場合はタイロシン製剤の筋肉内投与を併用)し、その治療効果を検討した。
 
3.成果の概要
1)-(1)乳房炎起因細菌陰性を確認後、乾乳処置をしている牛群において、48頭192分房の分娩前サンプルのうち、黄色ブドウ球菌が14、環境性連鎖球菌が24、コアグラーゼ陰 性ブドウ球菌が25サンプルから検出され、乾乳期間中に乳房炎起因細菌の新たな感染 が一定割合あることが明らかとなった(表1)。
1)-(2)BLEIA法の成績は誤判定が多く、培養法に代わる方法として十分なものとは考えられなかった。
2) 潜在性乳房炎罹患牛において、抗生物質の乳房内注入と筋肉内投与の併用により75.3 %(分房)と高い治癒率が得られた(表2)。分離された同菌のペニシリン、カナマイ シンに対する感受性株割合は50%以下と低値を示した(図1)。
3)治療分房は無処置分房と比較して有意に(P<0.05)分娩後の細菌消失率が高いことが明らかとなった(表3)。
 
 以上のことから、治癒率が低いとされる黄色ブドウ球菌による乳房炎罹患牛であっても、早期診断に基づき治療することにより、泌乳期においても70%以上の分房が治癒することを実証した。また、分娩前における潜在性乳房炎治療の可能性を示した。






 





 
4.成果の活用面と留意点
1)治療に用いる抗生物質の選択は薬剤感受性試験の成績を基に行う。 
2)抗生物質投与牛の生乳は、出荷停止期間終了後、薬剤残留がないことを確認してか ら出荷する。

5.残された問題とその対応
1)抗生物質を用いない乳房炎の治療法の開発。
2)乳房炎治療に反応しない牛の宿主側の要因の解析。