成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:細胞採取法の改善による性判別凍結受精卵の受胎率向上技術
(牛性判別胚の凍結および移植実用化試験)
担当部署:道立畜試 畜産工学部 受精卵移植科 遺伝子工学科
協力分担:ジェネティクス北海道試験研究室
予算区分:共同(民間等)
研究期間:完2001〜2002年度
1.背景・目的
受精卵(胚)の性判別技術は、経営の効率化に大きく貢献する技術であり、生産現場からの要望も強い。当場では栄研化学と共同でLAMP法による胚の性判別技術を開発し、キット化に成功している。 胚の性判別技術を普及させるためには、凍結保存技術が欠かせないが、胚の性判別では胚の一部をサンプルとして金属刀で切断して採取するため、凍結融解後の生存率や受胎率が顕著に低下する。このため性判別胚に適した凍結技術の開発や、胚の耐凍性向上が強く望まれている。
本試験では性判別凍結胚の受胎率向上を目的として、新たな凍結法であるガラス化法の検討を行った。また細胞の吸引採取とそれに続く24時間培養により胚への損傷の低減を試みた。

2.方法
1)凍結法の違いが融解後の生存性と移植後の受胎率に及ぼす影響
過剰排卵処理した牛から回収した初期胚盤胞以降の胚のうち品質の良好な胚(A、Bランク)を金属刀で切断し、ガラス化法により凍結し生存率および受胎率を常法であるダイレクト法と比較した。
2)細胞の吸引採取および胚の培養による受胎率向上
胚に与える損傷を低減し透明帯を保存するために、マイクロピペットを用いて吸引により胚からの細胞採取を行った(吸引法)。細胞採取した胚は24時間培養し、胚盤胞に発生してからダイレクト法により凍結した(図1)。この胚を移植し、受胎率を切断法で性判別し凍結した胚および新鮮胚と比較した。

3.結果の概要
1)凍結法の違いが融解後の生存性および受胎率に及ぼす影響
切断法により細胞を採取しガラス化法で凍結した胚の融解後の生存率は71.8%であり、ダイレクト法の65.1%と比較して差は見られなかった(表1)。
ガラス化法により凍結した胚の受胎率は15.0%であり、ダイレクト法の25.5%と比較して差は見られなかった。一方新鮮胚の63.8%に対し有意に低い値を示した(表2)。
2)細胞の吸引採取および胚の培養による受胎率向上
 吸引法による細胞採取では、胚にほとんど損傷を与えることなく必要な数の細胞のみを採取することができた。
吸引法により細胞採取した胚はほぼ完全な透明帯を保持したまま、24時間培養後に胚盤胞に発生した。
吸引法により細胞採取しダイレクト法で凍結した胚の受胎率は44.1%と、切断法によるダイレクト法の20.5%と比較し有意に高く、吸引法で細胞採取した新鮮胚(50.0%)や、切断法で細胞採取した新鮮胚(51.3%)と比較しても大差のない成績であった。 H/DIV>
 
H吸引法による細胞採取とそれに続く24時間の培養を行うことで、ダイレクト法で凍結しても高い受胎率が得られる性判別胚の生産技術を開発した。
この一連の技術について、プロトコルを作成した。



図1.吸引法と24時間培養を併用した胚の凍結


表1.凍結法が融解後の胚の生存性に及ぼす影響     
  融解胚数 生存胚数(%)
切断胚 ダイレクト 43 28(65.1)
ガラス化 39 28(71.8)
非切断胚 ダイレクト 9 7(77.8)
ガラス化 4 4(100)


表2.凍結法が切断胚の受胎率に及ぼす影響      
  移植胚数 受胎胚数(%)
ダイレクト 47 12(25.5)a
ガラス化 20 3(15.0)a
新鮮胚 47 30(63.8)b
a,b間に有意差あり(p<0.05)


表3.細胞採取法が凍結胚の受胎率に及ぼす影響
細胞採取法 凍結法 移植胚数 受胎胚数(%)
吸引 ダイレクト 34 15(44.1)a
吸引 新鮮胚 20 10(50.0)a
切断 ダイレクト 73 15(20.5)b
切断 新鮮胚 80 41(51.3)a
a,b間に有意差あり(p<0.05)


4.成果の活用面と留意点
吸引法を実施するには発情後6日目の胚(桑実期)を採取する必要がある。
 
5.残された問題とその対応
なし