成績概要書  (2004年1月作成)
研究課題:血糖値を用いた乳牛の分娩予測技術
      (血糖値を用いた分娩予測技術の開発)
担当部署:北海道立畜産試験場 畜産工学部 代謝生理科
       株式会社フロンティア・サイエンス 技術研究所
予算区分:民間共同       
研究期間:2002〜2003年度(平成14〜15年度)
1. 目的
 難産等による分娩時の事故を低減させるには、的確な分娩予測と牛の監視が重要である。
 そこで本試験では、血糖値が分娩時に顕著な上昇を示すことに着目し、血糖値を用いた分娩予測の有効性を検討するとともに、糖尿病患者の血糖モニタリングに利用されている市販の簡易血糖測定器を利用した分娩予測方法を検討した。
 
2. 方法
 1)血糖値による分娩予測の検討        
  妊娠牛89頭を供試して、分娩数日前から1日1回頸静脈から血液を採取し、自動分析装置で血糖値を測定した。その測定値および前日からの上
  昇率と分娩との関係を検討した。
 2)一般血液分析項目による分娩予測の検討          
  妊娠牛67頭を供試して、同様に一般血液分析項目による分娩予測を検討した。
 3)簡易測定器で測定した血糖値による分娩予測の検討
  (1)簡易測定器を用いた血糖値測定の精度について検討した。
  (2)妊娠牛38頭を供試して、野外での利用が可能なように、尾静脈血を用い、簡易測定器(グルコース脱水素酵素電極法)で測定した血糖値による
  分娩予測を検討した。
 
3. 成果の概要
 1)血糖値は分娩24時間前頃から上昇傾向がみられ、とくに分娩12時間前頃から顕著な上昇を示した(図1)。また、分娩前の血糖値またはその上
 昇率を用いることにより、高い精度で分娩を予測できることが明らかとなった。
 2)好中球比率の増加率およびβヒドロキシ酪酸濃度の上昇率も、血糖値上昇率と同様に分娩予測に利用できる可能性が示された。
 3)(1)簡易測定器による血糖測定値は、自動分析装置による測定値と相関が高く、再現性も高かったので、簡易測定器が利用できると判断した。
   (2)血糖値が82mg/dl以上を示すと24時間以内に分娩する確率が非常に高く、68mg/dl 未満では12時間以内に分娩する確率が非常に低かった
  (表1)。また、血糖値上昇率が 18%以上になると24時間以内に分娩する確率が非常に高く、10%未満では12時間以内に分娩する確率が非常に
  低かった。
  血糖値上昇率は分析機器による差がほとんどないので、試験1)のデータと合わせて、分娩割合を示した(表2)。
   
 以上のとおり、血糖値またはその上昇率によって、乳牛の分娩予測が可能であることを明らかにし、簡易測定器を用いた血糖測定による分娩予測マニュアルを作成した(表3)。



図1 分娩前後の血糖値の推移(折れ線グラフは平均値±標準偏差)



表1 血糖値の区分による分娩割合





表2 血糖値上昇率の区分による分娩割合





表3 血糖値・血糖値上昇率の違いによる分娩確率と夜間の対応



4. 成果の活用面と留意点
 ①夜間の分娩を確実に予測するためには、夕方に血液を採取して血糖値を測定するのが望ましい。
 ②血液採取時の誤差を小さくするために、血液は0.5〜1.0ml程度採取した方がよい。なお、血液採取は獣医師の指導のもとに行う。
 ③簡易血糖測定器の精度は高いが、機種により測定値が異なることに留意する。なお、本データはグルコース脱水素酵素電極法の一機種による
 ものである。
 ④本技術は分娩時の事故や子牛の損耗が多い農場、確実に分娩時の事故を回避する必要がある牛群での利用が期待される。

5. 残された問題とその対応
  非観血的な血糖値測定法の検討