成績概要書(2004年1月)
研究課題:給与飼料改善による生乳中共役リノール酸(CLA)含量向上技術
(放牧草・良質粗飼料を利用した生乳の脂質特性・抗酸化能の向上技術)
担当部署:道立根釧農試 研究部 乳質生理科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2000〜2003年度
1.目的
 生産方式と生産物の特徴とを結びつける情報を、確かな根拠を伴って提示することが求められている。反芻動物の乳や肉に含まれる脂肪酸の一種である共役リノール酸(conjugated linoleic acid : CLA)は、抗腫瘍作用、免疫賦活作用などを示すことが報告されている。そこで、生乳脂肪中のCLA含量の動態と変動要因を検討し、さらには、粗飼料と併給飼料の種類や質がCLA含量に及ぼす影響を検討した。
2.方法
1)乳脂肪中のCLAの動態と変動要因の解明
(1)CLAの動態と変動要因の解明
(2)放牧飼養期におけるCLAの変動要因の解明
2)種類の異なる粗飼料および高油脂含量飼料の給与が乳脂肪中のCLAに及ぼす影響
3.結果の概要
1)-(1)-①牛乳100ml中のCLAは、牧草サイレージ主体の粗飼料給与の期間が15〜19mg程度の値で推移したのに対して、放牧開始直後に36mgまで高まり、その後7月後半にかけて漸減して7月後半から放牧終了時まで20mg前後の値となった(図1)。この推移は乳脂肪酸中のCLA割合の推移と合致した。
1)-(1)-②乳脂肪酸中のCLA割合の変動要因として生産月と乳牛個体の影響が大きく、それぞれ分散成分の24〜30%および10%を占めていた(表1)。生産月の区分のうち牧草サイレージ主体粗飼料給与であった11〜5月は負の効果が、放牧開始直後の6月は正の効果が認められた。
1)-(2)-①分娩後経過日数、日乳量、乳脂肪率の要因は、乳脂肪酸中CLA割合に対する有意な影響が認められなかった。生産月の分散成分割合は28%で有意な強い影響が認められた(表2)。
1)-(2)-②放牧草EE摂取量/乳量1kgの要因については、乳脂肪酸中CLA割合に対する有意な影響が認められたが、生産月との間の交互作用は有意ではなかった(表2)。このことより、放牧草の摂取がCLA割合に影響を与えているものと考えられた。
2)-①穂ばらみ期牧草サイレージの併給飼料に全粒大豆を加えない場合の乳脂肪酸中のCLA割合は0.55%であったのに対して、全粒大豆を加えた場合には0.62%であった。開花期牧草サイレージでは同様に0.35%と0.41%であった(表3)。放牧時の併給飼料において全粒大豆を加えずEE含量の少ないE0区ではCLA割合が0.46%でCLA含量が15mg、EE含量の多いE2区ではCLA割合が0.61%でCLA含量が20mgであった(図2)。以上のように、牧草サイレージと放牧草のどちらの粗飼料条件下においても、全粒大豆の給与によって乳脂肪酸中のCLA割合と含量がともに高くなった。
2)-②穂ばらみ期牧草サイレージの併給飼料に米ヌカを加えない場合のCLA割合は0.33%であったのに対して、米ヌカを加えた場合には0.59%と高くなった。開花期牧草サイレージでは0.30%と0.46%であった(表4)。CLA割合も同様に穂ばらみ期で20mgと23mg、開花期で13mgと15mgであった。米ヌカ給与によってCLA割合と含量が高まる傾向が見られたが、米ヌカと全粒大豆ではCLA生成メカニズムに違いがあることが予想された。
以上のことより、放牧飼養あるいは全粒大豆や米ヌカなどの高油脂含量飼料の給与によって、生乳中のCLA含量を高めることができるものと考えられた。















4.成果の活用面と留意点
 本成績の知見は、酪農家が放牧等の飼養条件を特徴とする生産を意図し、飼養条件と結びついた特色ある牛乳の品質をアピールするために利用できる。CLAの有効量等に関しては現在も研究が進行中であり、牛乳そのものの機能性の多寡については今後の知見を待って議論する必要がある。

5.残された問題とその対応
 摂取粗飼料の脂肪酸組成が乳脂肪酸中CLA割合に及ぼす影響について追求が必要である。