成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:乳牛の繁殖改善モニタリングシステム
担当部署:道立根釧農試 技術体系化チーム(技術普及部、研究部 乳牛繁殖科、乳質生理科、乳牛飼養科)
協力分担:南根室農改センター、JAべつかい、根室NOSAI別海支所、根室生産連、酪検協会、別海町酪農研修牧場
予算区分:道費
研究期間:2000〜2003年度
1. 目 的
乳牛の繁殖性向上のために、牛群の飼養管理の適切性を把握する乳検情報の活用法を検討するとともに、周産期における牛個体の健康状態をモニタリングする手法を開発して、繁殖改善モニタリングシステムを確立する。

2.方 法
1) 乳検情報の有効活用による繁殖成績の評価
(1) 乳検情報による根室管内の繁殖成績実態と改善のための要因解析
(2) 授精率および妊娠率による牛群の繁殖成績評価
2) 繁殖機能回復促進のための周産期モニタリング
(1) 乳牛の繁殖成績に影響を及ぼす周産期の要因
(2) 分娩後のエネルギー充足状況が乳成分および発情発現に及ぼす影響
(3) 分娩後の卵巣機能異常(卵巣疾患)に関係する要因
3) 乳検情報および周産期モニタリングを利用した繁殖評価の検証
(1) 初回授精受胎率向上のための牛群管理モニタリング
(2) 農場における周産期管理評価としての初乳性状の利用
(3) 農場における乳量・乳成分および周産期病発生状況と繁殖成績との関連

3. 成果の概要
1)-(1) 710農場の乳検情報を解析すると、繁殖成績の主要な指標である空胎日数は初回授精日数の影響が強かった。また、繁殖成績を良好に保つための乳成分の指標として分娩後の乳脂肪率高値(5.0%以上)出現割合、泌乳初期の乳蛋白質率低値(2.8%未満)出現割合について基準を設定した (図1)。
-(2) 分娩後日数別の授精率および妊娠率による繁殖成績評価法を提示し、繁殖成績を良好に保つための目標値を設定した(表1)
2)-(1) 40頭の乳牛データから、空胎日数は、乾乳期のインスリン感受性、胎盤停滞、分娩後のTDN充足率ならびに初回授精の日数および受胎率等との間に有意な相関が見られた(表2)。分娩後のTDN充足率は繁殖機能回復にとって最も重要と考えられ、これと関係する乾乳期のBCS、分娩状況、胎盤停滞、初乳性状を周産期モニタリング項目とし、判定基準を示した(表3)。
-(2) 産褥期に著しいエネルギー不足(TDN充足率80%未満)があった牛(L群)は、それがなかった牛(H群)に比べ、泌乳前期の発情発現率(発情回数/排卵回数)が低下した(p<0.01、表4)。L群の個体乳蛋白質率の低値出現割合はH群のそれよりも有意に高かった(図2)。
-(3) 分娩後の卵巣機能異常は初回授精日数を延長させる大きな要因であり、その異常は初乳性状の低下と関連する周産期の健康状態悪化、分娩前後の栄養不足等に起因すると考えられた。
3)-(1) 初回授精日数74日以内の8農場を調査したところ、難産牛は自然分娩牛に比べて空胎日数が有意に長かった(p<0.05、表5)。また、発情を行動で発見する割合が50%以上と高い農場は発情行動の検出率が低い農場に比べて、受胎率が有意に高かった(p<0.01、表6)。さらに、バルク乳蛋白質率とその月の初回授精受胎率との間に有意な関係が認められた。
-(2) 6農場353頭の乳牛を周産期モニタリングにより判定したところ、スコアの上昇に伴って初回授精日数および空胎日数が有意に延長したことから、その有効性を確認した(表7)。
-(3) 8農場3年間の乳検情報、疾病情報を用いた牛群の繁殖評価(表8の項目)を試み、授精率および妊娠率の評価手法、個体乳・バルク乳の成分値、疾病発生率との関係を検証した。
以上の成績から、乳牛の繁殖成績は、周産期の健康、栄養充足ならびに発情発見技術によって大きく影響を受けていることが明らかとなり、これらの評価基準を作成して「周産期モニタリング」の手法を開発するとともに、「繁殖改善モニタリングシステム」を確立した。


図1 繁殖成績の異なる牛群における乳脂肪率高値および乳蛋白質率低値出現割合
    H区;初回授精75日以下、空胎120日以下  L区;初回授精91日以上、空胎141日以上
    乳脂肪率高値出現割合は12%以下、乳蛋白質低値出現割合は25%以下が望ましい




















4.成果の活用面と留意点
1) 酪農生産現場において、牛群の周産期管理、栄養管理ならびに繁殖管理が適正であるかどうかを判断することで、繁殖成績改善のためのポイントを提示することができる。

5.残された問題とその対応
1) 周産期の健康維持に重要な難産・胎盤停滞の予防法、ならびに産褥期のDMI向上技術の開発。