成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:ミネラル・ビタミン混合飼料給与による乳牛の繁殖改善効果
担当部署:根釧農試 研究部 乳牛繁殖科
協力分担:なし
予算区分:受託
研究期間:2001〜2002年度(平成13〜14年度)
1.目的
微量ミネラルおよび脂溶性ビタミンは乳牛の健康維持に必要であり、これらは繁殖においても重要な役割を担っている。微量ミネラルはこれまで無機態として補給する製剤がよく用いられてきたが、このうちいくつかは過剰に摂取すると毒性を示すものもある。そのため最近では吸収が良く毒性の低い有機態の微量ミネラルが用いられるようになってきた。
そこで本試験では、分娩前後に有機態の一種であるペプチドミネラルおよび脂溶性ビタミンを主体とするミネラル・ビタミン混合飼料を給与し、乳牛の繁殖改善効果について検討した。

2.方法
1) 供試動物および飼養条件
分娩予定4週前のホルスタイン種未経産牛および経産牛を、投与区11頭(未経産牛3頭および経産牛8頭)、対照区10頭(未経産牛2頭および経産牛8頭)に分け、分娩後8週までタイストール飼養とした。飼料給与は、分娩前は分離給与、分娩後はTMR給与とした。
2) 試験処理
分娩予定4週前から分娩後8週まで、投与区にのみ50 g/日/頭のミネラル・ビタミン混合飼料(ファームパック10、表1)を基礎飼料にトップドレッシングした。
3) 調査項目
乾物摂取量、体重、ボディコンディションスコア(以下BCS)、泌乳成績、血液性状、周産期疾病発生および繁殖成績

3.成果の概要
1) 乾物摂取量、BCSおよび体重は両区とも同様に推移した。また、泌乳成績においても区間による差は認められず、これらにおけるミネラル・ビタミン混合飼料給与の影響は見られなかった(表2)。
2) 給与した基礎飼料は、分娩前に銅、亜鉛、セレン、コバルトおよびビタミンE、分娩後に銅、亜鉛、セレンおよびビタミンEがNRCの要求量に対して充足していない可能性が認められた。血中銅、亜鉛およびセレン濃度は、分娩前においては両区とも同様に推移したが、分娩後徐々に上昇し、分娩後8週目ではいずれも投与区が対照区を上回る傾向にあった(図1)。
3) 投与区の血中GOT活性は、対照区のそれよりも分娩後1週および2週で有意に低かったことから、分娩予定4週前からのミネラル・ビタミン混合飼料の給与により、分娩に伴う肝機能低下が軽減されたものと推察された(図2)。
4) 泌乳初期の卵巣機能異常は、対照区の50.0%(5/10)に比べて投与区では27.3%(3/11)と少ない傾向が見られた(表3)。
5) 投与区の分娩後の初回排卵日数および子宮修復日数は、対照区のそれよりも短い傾向にあった(25.1日 vs. 40.2日および34.9日 vs. 39.0日)(表3)。
6) 投与区の初回授精受胎率は対照区のそれよりも高い傾向にあった(63.6% vs.30.0%)(表3)。
これらの結果から、微量ミネラルおよび脂溶性ビタミンが不足する条件のもとでは、周産期におけるミネラル・ビタミン混合飼料の給与は乳牛における分娩後の肝機能の低下を防ぎ、卵巣機能および子宮の修復を早めることで、低受胎率を改善する可能性があることが示された。




4.成果の活用面と留意点
1) 本混合飼料は、粗飼料の刈り取りステージまたは調製条件から脂溶性ビタミン濃度が 不足すると予測される場合、ならびに当該地域の土壌特性から微量ミネラルが不足すると考えられる場合にこれらを充足するために用いる。
2) 良好な繁殖成績を得るためには、乳牛に基礎飼料(粗飼料および濃厚飼料)を十分に摂取させる必要がある。
3) 本混合飼料の給与に際しては、適正な使用量を遵守する。

5.残された問題とその対応
1) 乳牛の繁殖機能に対する微量ミネラルおよび脂溶性ビタミンの必要量ならびに作用機序については、まだ未解明な部分が多い。当面は関連するデータの収集をはかっていく必要がある。