成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:牛における腸管出血性大腸菌O157の動態と低減技術
       (家畜からの病原性微生物の排泄の実態と低減技術)
担当部署:畜試 畜産工学部 感染予防科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:1999〜2003年度(平成11〜15年度)
1.目的
 O157などの腸管出血性大腸菌について、疫学的調査を行い牛群における排泄実態について明らかにするとともに、排泄低減方法について検討した。

2.方法
1)O157の疫学的調査
 乳用牛群および肉用牛群におけるO157の排菌状況を調査した。
2)O157の排泄低減技術の開発
 抗菌剤や生菌剤の投与、乾草単独給与、サイレージやオリゴ糖給与、そして牛床への消石灰散布によるO157の排泄低減効果について検討した。

3.結果の概要
1)O157の疫学的調査
(1) 乳用牛群の調査(十勝管内5戸)では、O157は検出されなかったが、約30%の牛からベロ毒素(VT)遺伝子が検出され、VT産生大腸菌(腸管出血性大腸菌)の存在が示唆された。群飼育している場所からは高率にVT遺伝子が検出され、群飼育がVT産生大腸菌の高検出率の要因のひとつと考えられた。
(2) O157高率保菌牛群における個体別の排菌状況を継続的に調査したところ、排菌数は数週間の単位で大きく変動し、排菌牛の交替が起こっていた(表 1)。高率保菌牛群は牛群内でO157の再感染を繰り返していることが示唆された。
2)O157の排泄低減技術の開発
(1) 牛から分離されたO157の多くは種々のサルファ剤や抗生物質に感受性を示した。感受性のO157陽性牛群に対しては、サルファ剤の複数回投与でO157を排除あるいは大きく低減することができた(表 2)。しかし、耐性菌の場合効果が認められなかったことから、分離株における投与薬剤の感受性の有無を検査する必要があると考えられた。
(2) in vitroでO157に対し発育抑制効果がある枯草菌や乳酸菌主体の生菌製剤2種の投与では、O157の低減効果は認められなかった。
(3) 乾草単独の短期給与では、O157や他のVT産生大腸菌の排菌数や陽性率が増加する場合もあり、安定したO157低減効果は認められなかった。
(4) 濃厚飼料主体の飼料給与牛へのサイレージ給与では、O157の低減効果は認められなかった。しかし、ガラクトオリゴ糖給与による低減効果が示唆された(表 3)。
(5) 牛床への定期的な消石灰の散布消毒(週1回0.5kg/㎡)ではO157の低減効果が認められ、低減対策には環境の清浄化を中心とした対策が有効であると考えられた(表 4)。

以上の結果から、O157は牛群内で再感染を繰り返していることが示唆され、その低減対策としては消石灰の散布など牛舎内環境の消毒・清浄化を基本として、必要に応じて感受性のあるサルファ剤や抗生物質を投与することが有効と考えられた。

表 1 O157濃厚感染牛群における個体別排菌状況
牛No.  初回検査 1週後 2週後 3週後
排菌* 菌数** 排菌 菌数 排菌 菌数 排菌 菌数
1 <3.30 <3.30 <3.30 <3.30
2 <3.30 <3.30 <3.30 <3.30
3 7.41 <3.30 <3.30 <3.30
4 7.00 3.60 <3.30 <3.30
5 <3.30 <3.30 4.56 <3.30
6 <3.30 <3.30 <3.30 <3.30
7 <3.30 4.30 <3.30 <3.30
8 <3.30 <3.30 5.51 6.87
9 <3.30 <3.30 <3.30 4.30
10 3.30 <3.30 <3.30 <3.30
注) *検出は免疫磁気ビーズ法. **菌数の対数/g糞便(検出限界:3.30)



表 2 サルファ剤投与によるO157陽性率の変化
  SMMX投与区 SO投与区 対照区
投与前 5/8(62.5) 8/8(100.0) 3/9(33.3)
第1回投与後 1/8(12.5) 2/8(25.0) 3/9(33.3)
第2回投与後 1/8(12.5) 3/8(37.5) 7/9(77.7)
全試験区への
SMMX投与後
0/8(0.0) 0/8(0.0) 0/9(0.0)
注1) 陽性頭数/検査頭数(%), 検出はPCR法(検出限界1CFU/0.2〜0.5g糞便).
注2) SMMX(スルファモノメトキシン),SO(スルファモノメトキシン・オルメトプリム合剤)、飼料添加5日間



表 3 ガラクトオリゴ糖給与によるO157排菌数の変化
牛No. 給与前 給与6日後 給与13日後 給与終了3日後 給与終了10日後
1 3.36 <2.48 <2.48(−) 3.63(+) 4.36(+)
2 4.63 <2.48 <2.48(−) 2.56(+) 3.63(+)
3 6.97 <2.48 <2.48(−) <2.48(+) 3.18(+)
4 2.79 <2.48 <2.48(−) 2.56(+) <2.48(−)
5 2.86 <2.48 2.48(−) 3.97(+) 2.56(+)
6 3.04 2.56 <2.48(−) <2.48(−) <2.48(−)
注1) 菌数の対数/ g糞便(検出範囲2.48〜7.38) ()内は、PCR法による検出の有無.
注2) オリゴ糖給与は100g/頭・日.



表 4  牛床への定期的消石灰散布による陽性率の変化
  消石灰散布区 対照区
散布前 16/18(88.9) 10/18(55.6)
定期散布1ヵ月後 3/17(17.6) 6/15(40.0)
注) 陽性頭数/検査頭数(%), 消石灰の散布は週1回0.5kg/m2

4.成果の活用面と留意点
1)サルファ剤や抗生物質の投与は、薬剤感受性試験を行い感受性の薬剤を選択するとともに投与効果を確認する必要がある。なお、薬剤により種々の制限があるので、その選択、投与については、獣医師の指示を受ける必要がある。

5.残された問題とその対応
1)オリゴ糖給与によるO157の排泄低減効果の実証。