成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:簡易ふん尿堆積場の造成法(補遺)
       (予算課題名:簡易低コスト堆肥貯留施設の実証による早期普及)
担当部署:道立畜試 体系化チーム、根釧農試 酪農施設科
予算区分:道費
研究期間:2001〜2003年度(平成13〜15年度)
1.目的
シートを利用したふん尿処理施設(シート施設)の利用促進のためには、現地農家での実証的な成績とシート内でふん尿がどのような性状に変化するかなどの情報が必要である。そこで100m2規模の場内堆積試験を実施するとともに、農家においてシート施設を造成し実際にふん尿を堆積することで、施設の造成や作業性を検討し、シート施設におけるふん尿性状変化の目安を提示する。

2.方法
1)場内試験:シート施設2施設(A施設:94m2、B施設:132m2)を用いて3回の堆積試験を実施した(水分含量81〜84%のふん尿を142〜695日間堆積)。
調査項目:施設の改良・補修点、作業性、排汁量・成分、ふん尿性状の変化など
2)現地試験:全道7農家(酪農:佐呂間、標茶、浜頓別、根室、八雲、陸別 軽種馬:静内)に約200m2のシート施設を2施設ずつ造成し、造成した施設においてふん尿の堆積試験を実施した(水分含量74〜85%のふん尿を約半年間堆積)。
調査項目:施設の構造、床土特性、造成作業、ふん尿性状、排汁成分、作業性、聞き取り調査など

3.成果の概要
1)場内試験
(1)床土表面から排汁を速やかに除去する方策として、①盤前面に盛土し暗きょ管を置く方法、②自作の排汁溝を設置し、盛土をしない方法を検討し、両者とも排汁の回収が可能であった。
(2)床土(花コウ岩風化物)を転圧した盤上で重機によるふん尿の搬入・搬出作業が可能であった。ふん尿の堆積されない部分で、排汁の通り道となった場所は重機作業により一部泥濘化した。
(3)排汁量は半年から2年の堆積期間で堆積ふん尿重量の20〜30%であり(表1)、排汁を適切に管理し、圃場に還元する必要がある。
(4)ふん尿の温度推移は堆積時のふん尿の性状により大きく異なった(図1)。切返しの実施により堆積ふん尿の乾物分解が促進し、腐熟が促進された(図2)。容積重が低いふん尿を約5ヶ月の堆積期間中に2回の切返しを実施した場合にふん尿が分解されコマツナ発芽率が29%から95%に上昇し、堆肥化が進行した(図1、試験3)。
2)現地試験
(1)道内7ヶ所の農家でふん尿性状に対応したシート施設を造成した。施設の造成作業は10人前後で3〜5日程度かかった。
(2)火山灰、山砂、粘土質の圃場土などを床土として施設を造成したところ、重機によるふん尿の搬入・搬出作業が可能であった。また、コーン指数も高く作業性は維持された。ふん尿の堆積されない部分で排汁の通り道になっている場所などでは一部泥濘化した。(表2)
(3)200m2規模の施設に3ヶ月〜半年間ふん尿を堆積する事で、10〜20tの排汁が回収された。
(4)堆積ふん尿の性状変化は堆積時容積重により大きく異なった。半年間の貯留により、容積重が低い場合には、堆積物の温度が上がり、乾物分解が進み水分含量がやや上昇した。容積重が高い場合は、温度が上がらず、乾物分解が少なく、水分含量が低下する傾向を示した(表3)。また、ふん尿容積も3〜13ヶ月の堆積により50〜80%に低下した。切返しを行なうことでふん尿の腐熟が促進された。
(5)発生したトラブルの事例として、排汁の流出や雨水の混入などがあった。それに対しては、盛土や小排水路により流路を確保することで対応できた。
(6)現地農家においてシート施設を利用してふん尿を貯留・処理し、圃場に還元することができた。
以上のように、シート施設が現地農家において利用可能であることを示し、作業性を維持するための留意点を明らかにし、シート施設に貯留したふん尿の性状変化の目安を提示した(表4)。また、シート施設の整備マニュアルを作成した。



*堆積時容積重(t/m3)
試験1:0.61
試験2:0.64
試験3:0.39
    試験1(表面から100cm部位)           試験2(表面から100cm部位)              試験3(表面から50cm.100cm部位)  
図1 堆積時ふん尿の温度推移





表1 排汁の排出率
  試験1 試験2 試験3
堆積ふん尿量(t) 71.8 50.7 27.8
(水分) (84%) (81%) (81%)
堆積日数(日) 345 695 142
排汁停止日数(日) 91 226 0
排汁量(t) 12.2 15.6 5.7
排出率 17% 31% 20%
排出率:排汁量÷堆積重量(%)



表2 ふん尿の搬入・搬出作業に用いた重機および使用前後の床のコーン指数
  搬入重機 搬出重機 使用前 使用後* 備考
佐呂間 マニュアスプレッダ マニュアスプレッダ 貫入不可 貫入不可 砕石利用のため硬度が維持された
標茶 バックホー
10tダンプ
バックホー
マニュアスプレッダ
貫入不可 貫入不可  
浜頓別 マニュアスプレッダ バックホー
マニュアスプレッダ
800〜貫入不可 1300〜貫入不可 300〜1100(約1年後)、特にふん尿が
堆積されて無い所で緩んでいた。
根室 マニュアスプレッダ バックホー
マニュアスプレッダ
貫入不可 貫入不可 片方の施設の排汁槽側(傾斜の下側)で
使用前約1000、使用後500の箇所あり
八雲 ホイールローダ
マニュアスプレッダ
ホイールローダ
マニュアスプレッダ
400〜貫入不可 測定部位は貫入不可  
陸別(火山灰) ホイールローダ
10tダンプ
ホイールローダ
マニュアスプレッダ
800〜貫入不可 測定部位は貫入不可 堆積場所の周囲は泥濘化
(排汁の通り道でふん尿が無い場所)
陸別(山砂) ホイールローダ
10tダンプ
ホイールローダ
マニュアスプレッダ
1000〜貫入不可 700〜貫入不可  
静内 バックホー
4tダンプ
バックホー
マニュアスプレッダ
800〜貫入不可 700〜貫入不可 未利用部分は緩んでいた
*使用後:約半年間のふん尿堆積後に測定



表3 ふん尿性状変化
  堆積期間 堆積時容積重
t/m3
水分含量
%
BOD
mg/gDM
推定乾物分解率
%
最高温度
搬入時 約半年後 搬入時 約半年後
佐呂間 (H14.6.5〜H14.10.20) 0.3 80.4 84.4 181 60 45 57
浜頓別 (H14.8.21〜H15.4.24) 0.5 79.9 81.2 180 80 39 44
陸別 (H14.6.13〜H14.11.18) 0.9 82.3 82.2 132 72 30 31
根室 (H14.6.11〜H14.11.6) 0.9 82.2 80.1 147 76 8 26
標茶 (H14.6.6〜H14.10.29) 0.9 80.3 80.9 157 149 17 22
八雲 (H14.5.10〜H14.11.6) 1.0 85.4 81.2 188 143 −7 23
静内 (H14.12.4〜H15.4.30) 0.5 73.8 75.1 62 25 28* 55
容積重は20Lバケツを用いて測定、推定乾物分解率はリン酸含量より推定、*灰分含量より推定



表4 シート施設半年貯留後の現物量と期間中排汁量の試算 (100t堆積時)
堆積ふん尿容積重(t/m3) 容積重低
0.6未満
容積重中
0.6から0.9
容積重高
0.9以上
半年貯留後の現物量 74t 76t 79t
期間中の排汁量 24t 23t 21t
容積重低(水分含量80%)は乾物分解30%水分1ポイント上昇、容積重中(水分含量82%)は乾物分解20%水分含量1ポイント低下、容積重高(水分含量84%)は乾物分解0%水分含量4ポイント低下として試算



4.成果の活用面と留意点
(1)シート施設はふん尿の性状や設置場所の地形的条件、作業動線などを考慮して施設構造を工夫することが必要である。
(2)床土の作業性を維持するためにはふん尿の一括搬入・搬出が望ましい。
(3)シート施設にふん尿を逐次搬入する場合には、重機の進入方向には排汁が流れない構造とするなど施設設計時に排汁の動きを考慮する。

5.残された問題点とその対応