成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:秋まき小麦に対する微量要素(銅・マンガン)の施用指針とその実証
       (革新農業技術導入実証事業:秋まき小麦微量要素欠乏技術実証による安定小麦生産の確立)
担当部署:十勝農試技術体系化チーム
予算区分:国費補助
研究課題:2001〜2003年度(平成13〜15年度)
1.目的
 十勝管内の主要土壌、特に黒ボク土における秋まき小麦の微量要素潜在欠乏または欠乏地帯を明確化する。また、有効な対策技術を組み立て収量規制要因の解消を図るとともに、土壌pH改善による高品質、安定多収化策を組み合わせて、積極的な普及を図る。

2.試験方法
 1)主要土壌の微量要素供給能実態と秋まき小麦生育に有効な微量要素成分の概査
 2)概査された微量要素成分、地帯における供給方法(葉面施用と土壌施用)と効果の検討
 3)銅およびマンガンの葉面施用時期、濃度の検討


3.成果の概要
1) 微量要素の葉面施用効果を概査したところ、次の結果が得られた。①微量要素の葉面施用により22%程度の圃場で秋まき小麦の収量が改善された。②その主要成分は銅、マンガンと推定、亜鉛の影響は小さく、モリブデンは不明であった。③微量要素の葉面施用により17%程度の圃場で秋まき小麦の収量が低下した。この原因に、葉面施用時期、施用時の生育ステージの問題が考えられた(データ省略)。
2) 銅の葉面施用によって明らかな増収(指数110%以上)が認められた地点は30%、マンガンの葉面施用効果が明らかな地点(指数110%以上)は16%に達した(表1)。微量要素肥料の土壌施用効果は主に土壌中の可溶性銅濃度に律せられた(図1)。
3) 土壌中可溶性成分濃度が低い条件でも、①銅の葉面施用効果がマイナスとなった場合(図1)の主因は、生育ステージが地域間で異なり、設定した第2回目の施用時期が遅かったことと、銅濃度が高かったためと結論づけた。②マンガンの葉面施用効果がマイナスとなった場合(図1)の主因は、当該成分の葉面施用により葉中マンガン濃度が過剰に上昇するためであった。
4) 銅の施用効果が発現する土壌の可溶性銅濃度は、①腐植濃度5%以下の土壌:0.7ppm未満、②同5〜10%の土壌:0.5ppm未満、③腐植濃度10%以上の土壌:0.3ppm未満であった。マンガンの施用効果が発現する地帯は然別山麓、日高山麓の礫質土壌に集中し、交換性マンガン濃度が4ppm未満で、土壌pH5.5〜6.5の範囲の土壌であった。
5) 秋まき小麦に対する銅とマンガンの葉面施用は幼形期から節間伸長初期にかけて、銅は20g/100L/10a/回、マンガンは100g/100L/10a/回を2回施用する。なお、初期生育の劣る地域では微量要素肥料の播種期土壌施用効果が銅の葉面施用効果よりまさった(表2)。
6) 土壌pHは秋まき小麦の高品質・安定生産を計る上で極めて重要であり、適pHは5.7付近であり、この条件で窒素吸収量に見合った収量・子実蛋白濃度となった。
 以上の結果から、土壌中の可溶性銅、マンガン濃度が基準値以下の土壌に対しては幼穂形成期〜節間伸長初期(草丈20cm程度)までに、銅は硫酸銅で20g/100L/10a/回、マンガンは硫酸マンガンで100g/100L/10a/回を2回葉面施用する。また、土壌pHは5.5〜6.0の範囲に維持すると結論した(表3)。



表1 微量要素資材の施用効果(地点割合%)



表2 初期生育の良否による微量要素の施用法別効果



表3 秋まき小麦における銅・マンガンの不足地帯と施用指針(総括)




図1 銅、マンガンの土壌中可溶性濃度と葉面施用および土壌施用効果



4.成果の活用面と留意点
1) 本成績の活用は、土壌診断を前提とし、全道の火山性土の銅・マンガン欠乏地帯に適用する。
2) 微量要素肥料の葉面施用は効果が大きく、かつ土壌中当該成分量を蓄積させない有効な手段である。なお、初期生育の劣る地域では微量要素肥料の土壌施用を基本とする。
3) 微量要素の葉面施用に用いる硫酸銅は、低濃度であっても酸性を呈し薬害を生じさせやすいので、設定した施用時期と濃度を厳守する。また施用機は使用後の洗浄を十分行う。

5.残された問題点とその対応
1) 溶出が緩効的な土壌施用用銅肥料の開発
2) 十勝地方畑土壌のケイ酸供給能と秋まき小麦のケイ酸栄養