成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:休耕田等を活用した湿地ビオトープの生物生息空間および水質浄化機能の評価
       (エコビレッジ創出試験 湿地ビオトープの多面的機能の評価と整備手法の開発)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境基盤科、クリーン農業部 総合防除科、
農政部 設計課
予算区分:道費
研究期間:2000年〜2004年(平成12〜16年)
1.目 的
ビオトープ(生物生息空間)への社会的関心が広がる中、特に湿地ビオトープは水生生物の生息および水質浄化機能や人と水環境のかかわりの場としての特徴を持つ。そこで、農村地域の休耕田等の積極的活用の一つとして、湿地ビオトープを創出した事例を取り上げ、その多面的機能のうち生物生息空間および水質浄化機能について評価する。

2.方 法
1998年に栗山町南角田地区の谷津田地帯の水田跡地に整備された水質浄化施設にモデル試験地を設定した。主な処理区(並列区):休耕田型管理区、水田型管理区、ヨシ放置区、自然放置区。
1)生物生息空間としての評価(1999〜2003年):(1)モデル試験地全体の植物および水生動物の定性調査 (2)トンボ類の羽化殻調査 (3)水中および底質中の水生動物の方形枠定量調査 (4)周辺の水田全体の植物および水生動物の定性調査
2)水質浄化機能の評価(2000〜2002年):春〜秋に表面流入水と表面流出水の水質及び流量を測定し、並列区で比較した。主な水質分析項目はT-N、NO3-N、T-P、SS、COD等。
3)周辺水田への影響調査(2000〜2003年):モデル試験地内および周辺の水田について、捕虫網すくい取り法によって水稲害虫の発生密度を調査した。調査対象は、アカヒゲホソミドリカスミカメとウンカ類。

3.成果の概要
1)モデル試験地全体には314 種の生物が確認され、周辺の水田全体より多かった(表1)。処理区では環境的な違いが見られ(表2)、それぞれの環境を好む生物が生息していると考えられた。これらの植物と水生動物の相互関係には植物群落の立体的な構造や食物連鎖が大きく関与していることが推察された。
2)モデル試験地は表面流去型の湿地であり、春から秋にかけてT-N、NO3-N、T-P、SS、CODの水質浄化機能が認められた。NO3-Nの浄化率は自然放置区で一番大きく、脱窒能の向上から、水温上昇のための開放水面と土壌表層の植物遺体の存在が重要と考えられた(表3、2)。水田型管理区および自然放置区では生物活動による土壌攪乱の影響でSSの浄化率が低下する例も見られた(表3)ため 、ヨシ放置区の方が低リスクと考えられた。また年次が進むと、植物遺体からの溶出等でT-P及びCODの浄化率が低下した(表4)ことから、これらの浄化のためには植物遺体の搬出が重要と考えられた。総合的な水質浄化能向上のためには、開放水面と植物体及び適量の植物遺体の存在またはその配置の組み合わせが重要と考えられた。
3)モデル試験地とその周辺の水田での害虫調査により、モデル試験地では害虫の密度は高かったが、周辺の水田では慣行防除によって、被害を及ぼすような密度に達していなかった(図1)。このことから、モデル試験地の存在が周辺の水田に対して害虫の多発を助長することはないと考えられた。
4)農村地域の休耕田等の活用に向け、水生生物の生息空間や水質浄化機能を両立する場合、第一に春から秋にかけ入水すること、次に、植生と植物遺体の存在を多様化する植生の管理が重要と考えられた(図2)。



表1 生物の種数





表3 浄化量・浄化率の比較 ()内は%



表4 浄化率の年次比較(自然放置区、生育期)




図1 モデル試験地及び周辺水田におけるアカヒゲホソミドリ
カスミカメのすくい取り数(2000〜2003年の平均)




図2 水生生物の多様化と水質浄化の両立を目指した湿地ビオトープの計画例



4.成果の活用面と留意点
本成績は休耕田等の利活用に向け、地域住民、行政、農業者のための参考となる。

5.残された問題点とその対応
多面的機能の一つとして環境教育的な活用の場としての評価。および潜在的な湿地ビオトープの分布と現状把握。これらを次年度に取りまとめる予定。