成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:粘質野菜畑土壌における微生物活性(α-グルコシダーゼ活性)に基づいた土壌管理指針
      (微生物を活用した環境負荷低減土壌管理技術の確立 2)粘質野菜畑土壌の微生物活性の評価とその維持・増強を目指した土壌管理
      技術の策出)
担当部署:中央農試 クリーン農業部 土壌生態科
協力分担:なし
予算区分:道費(クリーン)
研究期間:1998〜2003年度(平成10〜15年度)
1.目 的
粘質野菜畑土壌は、ち密で透水性・通気性が劣るために微生物による有機物分解抑制や根の生育抑制などにより生産が不安定となる場合が多い。そこで理化学的、生物的環境を総体的に反映する土壌微生物活性を新たな指標とし、営農活動で取り組める有機物管理や耕耘管理技術の改善によって野菜の生産性向上を目指した土壌管理指針を策定する。

2.方 法
1)粘質野菜畑土壌の微生物活性(α-グルコシダーゼ活性)の実態と目標値の設定(現地調査)
(1)調査年次・土壌:平成10〜11年は空知南部の低地土(たまねぎ畑)19筆および上川北部の低地土、台地土(主にかぼちゃ畑)13筆の計32筆。平成15年はたまねぎ畑を対象に空知南部、石狩中部、上川南部の低地土28筆、上川南部の台地土2筆。
(2)調査項目:土壌の微生物特性・理化学性、たまねぎ収量(平成15年のみ)。
2)粘質野菜畑土壌における生産環境の改善を図る土壌管理技術の策出(圃場試験)
(1)試験年次・試験地:平成12〜15年は中央農試の褐色低地土と名寄市の現地農家の灰色台地土各2筆、平成10年は中央農試の排水性を悪化し、作土にグライ斑が出現したグライ低地土(造成土)2筆。
(2)試験構成:耕耘処理5水準(秋プラウ区、秋プラウ+春チゼル区、春プラウ区、春チゼル区、無耕耘区)×有機物処理2水準(堆肥無施用、堆肥連用)を組み合わせた計10処理区。
(3)供試作物:スイートコーン(基本的に毎年次作付け)、えだまめ、たまねぎ、キャベツ
(4)調査項目:土壌の微生物特性・理化学性、生育・収量、有機物分解活性、雑草発生量

3.結果の概要
1)粘質野菜畑土壌のα-グルコシダーゼ活性(以下、αG活性と略称)は、作土上部(0〜10cm)に対して作土下部(10〜25cm)で平均200 pmol/g/min程度低かった(表1)。また、たまねぎ畑土壌は輪作畑土壌に比べて微生物基質となる作物残渣等の有機物還元量が少ないため活性が低い傾向にあった(表2)。
2)αG活性は、粘質土壌の物理環境を現す容積重(r = -0.48***)および固相率(r = -0.45***)、pF1.5の気相率(r = 0.41***)や、窒素肥沃度を現す熱水抽出性窒素(r = 0.59***)と高い相関関係があった。さらに、他の微生物特性(易分解性炭素量、バイオマス炭素量、放線菌数)とも密接な関係を示し、粘質土壌の理化学的、生物的な生産環境を総体的に良く反映した。αG活性の規制要因は微生物基質となる有機物の不足と土壌の堅密化による物理性の不良であった。
3)αG活性はたまねぎの平均一球重と高い正の相関関係(r = 0.58***)があり、野菜の生産性と密接な関係を示した。生産性向上のためには作土下部を中心とした作土層全体の活性向上が必要であった。
4)粘質野菜畑土壌におけるαG活性の目標値は、熱水抽出性窒素の診断基準値や容積重(固相率)、気相率との関係および各作物の生産性との関係から、たまねぎ畑土壌では500 pmol/g/min以上、輪作畑土壌では同700以上と設定した(表2、3)。
5)αG活性に基づく粘質野菜畑土壌で必要な土壌改良の方向は、有機物の補給とそれを作土下部まで混和しながら同時に作土層の拡大と物理性を改善することであった。これを実践する耕耘法としては、土壌を反転耕耘するプラウ耕が最も有効であった(表4)。しかし、土壌が湿潤な条件で耕耘した場合には、土壌を練り返して物理性を悪化させる負の効果をもたらすため、湿潤条件では無反転とし、土壌の乾燥化を促進するチゼル耕がαG活性向上の面からも有効であった。
6)以上のことから、αG活性等を指標にして、粘質野菜畑土壌における生産環境改善を図るための土壌管理指針を図1のフローのように策定した。









4.成果の活用面と留意点
1)α-グルコシダーゼ活性の目標値の適用範囲は、作土層の粘土含量(国際法)が15%以上かつ腐植含量が5%未満の低地土および台地土を対象とした。
2)春(5月)に耕耘した場合は、プラウ耕で耕耘後3〜6日間、チゼル耕で耕耘後1〜3日間を目安に土壌を乾燥させると、整地時の砕土性が良好となる。
3)著しい排水不良土壌では「土壌・土地条件に対応した総合的な排水改良(平成14年 普及推進事項)」等に従い抜本的対策を別途講じる。

5.残された問題とその対応
1)α-グルコシダーゼ活性の目標値の有機栽培土壌に対する適応拡大
2)α-グルコシダーゼ活性を効率的に高める各種有機物(緑肥等を含む)の検討