成績概要書(2004年1月作成)
課題分類:
研究課題:河川水の窒素汚染軽減に向けた農地の窒素収支改善策
       (たい肥等有機物・化学肥料適正使用指針策定調査
        3. 環境保全型土壌管理調査 1)有機質資源循環利用システムの確立
        (1)道央畑−畜産混合地域における有機質資源の賦存量と農地の受入量)
担当部署:中央農試 農業環境部 環境保全科
担当者名:
協力分担:
予算区分:国費補助(土壌保全)
研究期間:2000〜2003年度(平成12〜15年度)
1. 目 的
 農業による環境汚染の防止に資するため、農地の窒素収支と河川水の窒素濃度の関係を把握し、地域の物質フローを考慮した農地管理の方向性を明らかにする。

2. 方 法
1)小河川流域における農地の窒素収支と河川水の窒素濃度の関係
(1)調査地域:千歳市・剣淵川、同・幌加川、栗山町・雨煙別川、由仁町・由仁川とその流域。
(2)調査項目:河川流量、全窒素濃度。融雪および平水時について年間14回実施。
2)道内の市町村における農地の窒素収支
(1)家畜ふん尿発生窒素量・化学肥料投入窒素量:各種統計および調査資料に基づき試算。
(2)窒素収支:投入窒素量(input;家畜ふん尿たい肥、化学肥料、作物残さ、雨水、かんがい水、生物固定)から持出窒素量(output;作物吸収、脱窒)を差し引いた値。
3)地域を単位とした農地の窒素収支改善策
(1)窒素環境容量(中央農試;平成14年度普及推進, 2003)を投入窒素量の基準として、ある2市町(F市、K町)における投入窒素量の低減方策(①有機物交換、②家畜移動・飼養)を実施した場合について試算。

3. 成果の概要
1)小河川の年平均全窒素濃度と、その流域における農地の窒素収支(投入窒素量−持出窒素量)は密接な関係があり、窒素収支が大きくプラスの場合は河川水の年平均全窒素濃度は高く、逆に小さい場合は低くなる傾向が認められた(図1)。
2)道内各市町村の作付面積あたり家畜ふん尿の発生およびたい肥投入窒素量の試算値は、それぞれ平均86±99kgN/ha, 75±91kgN/ha(平均±標準偏差)で、化学肥料投入窒素量(104±17kgN/ha)に比べて少ないが、地域による差が大きかった(図2, 3)。
3)道内各市町村の作付面積あたり窒素収支は、平均で94±80kgN/haであり、畑作・畜産複合地域や酪農地域を中心に、家畜ふん尿(たい肥)投入窒素量が多いと窒素収支も大きくプラスになっていたが、畑作・園芸作地域の一部では作物吸収窒素量に対する多量の化学肥料窒素の投入が原因となる場合も認められた(図4)。
4)窒素環境容量に対する超過窒素量(投入窒素量(有効態換算量)−窒素環境容量)が異なる2市町(水田地域F市:-23kgN/ha、畑畜複合地域K町:57kgN/ha)を例に、窒素収支を改善するため、K町の家畜ふん尿(たい肥)をわら類と交換する(→方策例①)ほか、有畜農業の一環として、F市への家畜移動を行うと(→方策例②)、いずれもK町の超過窒素量および窒素収支は大幅に改善されると試算され、地域間の連携は有効な方策であることが示唆された(表1)。
5)以上のことから、河川水の窒素汚染を軽減するためには、地域単位で農地の窒素収支を改善することが重要であり、投入・持出窒素量の把握に基づく農地の窒素汚染要因の解明と、地域間の連携を含めた、化学肥料や家畜ふん尿の適正利用等の対策を講じることが必要である。















表1 F市およびK町の連携による窒素収支の改善試案

②では作付面積の変更は考慮していない *1 減肥(化学肥料)はF市のみ



4. 成果の活用面と留意点
1)本試験は畑畜複合地域と水田地域を流域とする小河川において、地域の窒素収支が河川水の窒素濃度に及ぼす影響を検討したものである。
2)道内の各市町村における家畜ふん尿の発生窒素量や、化学肥料等による農地投入窒素量の実態を把握し、地域の河川水を中心とした窒素汚染の危険性を予測及びその軽減方策を講じるための基礎資料となる。
3)地域間の窒素移動を前提とした農地の窒素収支改善を実施する場合には、地域の農業形態や立地条件等を十分に考慮する必要がある。

5. 残された問題点とその対応
1)土壌、地形等の違いが河川水に及ぼす影響の検討と、養分環境の情報をあわせた総合的な解析手法の開発。
2)未利用有機質資源(家畜ふん尿等)の利用率向上方策の検討。
3)肥培管理情報や土壌環境に対応した窒素溶脱の予測・防止のための営農支援システムの開発。