成績概要書 (2004年1月作成)
研究課題:コーン澱粉系生分解性マルチの利用特性
(コーン澱粉系生分解性マルチフィルムの特性把握と有効利用法の開発)
担当部署:中央農試 クリーン農業部 土壌生態科
協力分担:
予算区分:受託(民間)
研究期間:2002〜2003年(平成14〜15年)
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1.目 的
現在、廃プラスチックの適正処理と排出量の削減が求められており、代替資材の普及促進が必要となっている。そこで、本道の気象条件におけるコーン澱粉系生分解性マルチの利用特性および利用上の留意点を明らかにする。
2.方 法
1)コーン澱粉系生分解性マルチの特性評価
地温、土壌水分、雑草発生調査および土壌分解性調査、マルチすき込みの影響調査供試マルチ:標準(3ヶ月)タイプの透明、黒、白および分解加速タイプ
2)利用法に関する試験
供試作物 ばれいしよ、試験地 2002年:伊達市農家ほ場、2003年:今金町農家ほ場供試マルチ 2002年標準タイプの透明、黒、2003年:標準タイプ・黒、分解加速タイプ
3.成果の概要
1)コーン澱粉系生分解性マルチは、透明、黒、白のいずれのタイプも無マルチに比べ地温が高まり、同色の農ポリマルチに近い地温上昇効果が認められた(図1)。また、透湿性があることから土壌表面近くで乾きやすく、保水性能は農ポリマルチより若干劣った(表1)。したがって、土壌が水分を十分保持している時に展張することが望ましい。2)原料樹脂の特性から本生分解性マルチは伸びが小さく、展張後に横方向へやや収縮する。このため、マルチの局所に過度な張力がかからないように適正に砕土・整地を行うことが大切であり、横方向の張力を農ポリマルチより弱くして展張することが適切であった。これらを利用上の留意点として整理した(表2)。3)標準タイプは埋設3ヶ月後まで形状を保持し、4ヶ月後には崩壊がみられた。同じ原料樹脂に澱粉を添加して分解を加速化したタイプでは埋設2ヶ月後から崩壊が認められ、4ヶ月後には崩壊はかなり進んだ。また、本生分解性マルチすき込みは後作物の生育、土壌微生物に影響しなかった。4)利用適性をばれいしよマルチ栽培で検討した。本生分解性マルチは機械栽培体系に適応し、栽培期間中に破断・飛散することなく、ばれいしょの生育、収量および品質は農ポリマルチと同等であった。ただし、試算されたマルチに係わる経費は、本生分解性マルチが農ポリマルチに比べておよそ
1.2〜1.6 倍高いことから省力性と経費を検討した上で導入することが望まれた(表3)。5)以上の結果から、コーン澱粉系生分解性マルチは地温上昇、保水性、強度などの基本性能が農ポリマルチに近く、すき込み後2〜4ヶ月で崩壊し、後作物や土壌微生物への影響もない。そのため、本生分解性マルチは農ポリマルチに代替できると判断した。本生分解性マルチを利用することで除去、廃棄処理が不要となり、廃プラスチックの排出削減に貢献できる。

図1 平うねマルチ下の地温の日変化
(2003年、中央農試 褐色森林土)

写真 土壌埋設
表1 土壌水分に及ぼすマルチの影響(2003年6月12日)
深さ |
層位別土壌水分(%) |
無マルチ |
農ポリ |
コーン澱粉系生分解性マルチ標準 |
透明 |
黒 |
透明 |
黒 |
白 |
0-5cm |
15.3 |
23.4 |
23.2 |
19.0 |
21.4 |
21.3 |
5-10cm |
20.5 |
22.3 |
24.6 |
22.3 |
23.4 |
23.7 |
10-15cm |
21.8 |
24.6 |
25.6 |
23.6 |
24 |
24.9 |
注)降水量 5月31日〜6月2日:31.5mm、6月3 日〜6月 12日:0mm
表2 コーン澱粉系生分解性マルチの利用上の留意点
作業 |
利用上の留意点 |
特性 |
資材の扱い |
マルチが圧着しやすいのでロールの扱いに注意する。 |
熱に弱い |
展張 |
丁寧に砕土・整地を行う。 |
伸びが小さい |
土壌が水分を十分保持している時に展張する。 |
透湿性がある |
農ポリマルチより弱い張力(横方向)で展張する。 |
横収縮する |
すき込み |
収穫作業等により破断しやすいので、飛散防止のため収穫後速やかに鍬込む。 |
土壌分解性 |
すき込みはアッパーカットロータリ等を使用し、マルチを十分に土壌中にすき込む。 |
表3 ばれいしょマルチ栽培におけるマルチ経費の試算
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栽培法 |
慣行資材 |
廃棄処理 |
マルチに係わる経費(円/10a) |
(A)/(B) |
コーン澱粉系生分解性マルチ(A) |
慣行マルチ |
計(B) |
資材経費 |
除去経費 |
処理経費 |
現地事例 |
植付け時培土 |
黒・農ポリ・厚0.03mm |
埋立処理 |
26,660 |
20,546 |
16,529 |
3,500 |
516 |
1.3 |
試算例 |
植付け時培土 |
黒・農ポリ・厚0.03mm |
再生処理 |
26,660 |
22,262 |
16,529 |
3,500 |
2,233 |
1.2 |
黒・農ポリ・厚0.02mm |
再生処理 |
26,660 |
16,797 |
11,064 |
3,500 |
2,233 |
1.59 |
生育時培土 |
透明・農ポリ・厚0.02mm |
再生処理 |
16,675 |
11,424 |
6,837 |
3,000 |
1,588 |
1.46 |
注)マルチ使用量:植付け時培土 マルチ幅95cm×1,333m/10a、生育時培土
マルチ幅 135cm×667m/10a。
試算したコーン澱粉系生分解性マルチ:植付け時培土 幅95cm・長200m・黒、生育時培土 幅135cm・長200m・透明。
マルチ除去時間、マルチ処理単価は普及センター調査事例を用いた(埋立処理 6円/kg、再生処理 30円/kg)。
資材単価は農試納入価格を用い、マルチ排出量は調査例から推定した。
4.成果の活用面と留意点
1)ばれいしよのように土の中から収穫物を掘上げる作物では、収穫作業で破断したマルチが土壌表面にとどまり、収穫作業能率がやや劣る。
5.残された問題点とその対応
1)生分解性プラスチックで作られた他の農業資材の特性把握