成績概要書 (2004年1月作成)
研究課題:水稲のいもち病とフタオビコヤガに対する発生対応型防除法
(水稲病害虫の要防除水準と発生予測を組合せた防除体系の確立)
担当部署:中央農試 クリーン農業部 総合防除科・病虫科,上川農試 研究部 病虫科
協力分担:
予算区分:道費
研究機関:1999〜2003年度(平成11〜15年度)
|
1.目的
水稲病害虫に対する発生対応型防除を生産現場で行うためのマニュアル作りを目的として、いもち病とフタオビコヤガに対するモニタリング方法を示す。
2.方法
1)いもち病:葉いもち発生推移・防除時期検討、モニタリング時期・方法設定。2)フタオビコヤガ:要防除水準の設定、モニタリング時期・方法設定。3)モニタリング法を活用した発生対応型防除の実証:H15年度,中央農試,美唄市現地圃場,上川農試
3.成果の概要
1)いもち病
(1)葉いもち初発から発病株率10%程度までは、発病株率の増加は比較的緩やかである(図1)。この時期を要防除時期として茎葉散布を開始すれば、いもち病による被害を防げる(図2、表1)。
(2)要防除時期を確認するためのモニタリングは、水田1筆につき1畦10mを4カ所まで、離れた場所を選んで見歩き調査を行う(表2)。調査水田は農家各々の経験に基づく他、葉色が濃い場所、建物などの陰、いもち病抵抗性の弱い品種などを重点に選択する。
(3) モニタリングは7月10日以前には不要であり、止葉始とその1週間後に行う。ただし、止葉始が7月20日近くになると想定される場合は、止葉始約1週間前(幼穂形成期の約5日後)から調査する。また、BLASTAMによる周辺数地点の判定結果を補完的に活用する。
(4)モニタリングにより葉いもちが確認されなければ、出穂前の葉いもち防除は不要で、穂いもちに対する基幹防除のみとする。葉いもちが確認されたら、約1週間間隔で基幹防除まで散布する。出穂期間が長い場合は穂が完全に揃うまで追加散布が必要だが、その後の散布は不要。ただし、予防効果主体の薬剤を使用する。
2)フタオビコヤガ
(1)切葉試験から求めた被害許容切葉面積(表3)と幼虫摂食面積(表4)からフタオビコヤガの要防除水準を設定した。第1回目の要防除水準は株当たり幼虫数で2.7頭、第2回目では株当たり幼虫数 8.7頭、第3回目では株当たり幼虫数 26.0頭とした(表5)。
(2)1976年からの上川・中央・道南農試発生予察成績では、要防除水準に達している年は1年のみ(道南農試,第2回目)であった。よって、本虫に対するモニタリング法は、主要病害虫に対するモニタリングの際に、10株の幼虫被害の有無を調査し、被害株率が100%に達しているときにのみに活用する(表5)。
①第1回目:6月下旬に被害葉率が44%に達していなければ防除不要と判断する。
②第2回目:7月下旬に被害葉率が65%に達していなければ防除不要と判断する。
③第3回目:8月下旬に被害葉率が100%に達していなければ防除不要と判断する。
3)実証試験圃場では主要病害虫に対するモニタリング法を活用することによって発生対応型防除を行うことができた。発生対応型防除区では主要病害虫が要防除水準に達せず、防除不要と判断され、農薬使用成分回数が慣行防除区に比べて半減した。
4)新たに、いもち病とフタオビコヤガに対するモニタリング法を取り入れた、水稲病害虫に対する発生対応型防除のためのモニタリング法を取りまとめた。
表3.被害許容切葉面積(cm2/株)
切葉程度 |
第1回目 |
第2回目 |
第3回目 |
H11 |
H12 |
H13 |
H14 |
H11 |
H12 |
H13 |
H14 |
H11 |
H12 |
H13 |
H14 |
6/28 |
6/26 |
6/26 |
6/26 |
7/29 |
7/24 |
7/26 |
7/29 |
8/20 |
8/18 |
9/3 |
9/5 |
1 |
3 |
17 |
17 |
17 |
42 |
210 |
105 |
75 |
42 |
210 |
210 |
150 |
2 |
10 |
34 |
34 |
34 |
126 |
420* |
210 |
150 |
126 |
420 |
420 |
300 |
3 |
17 |
51 |
51 |
51 |
210 |
630* |
315 |
225 |
210 |
630 |
630 |
450 |
4 |
24 |
68 |
68 |
68* |
294 |
840* |
420* |
300* |
294 |
840 |
840 |
600 |
1)*:各処理区の切葉程度0の値(穂数,稔実歩合,精玄米重)と分散分析により有意差があった切葉面積。
2)塗りつぶしてある切葉面積が被害許容切葉面積。
表4.幼虫イネ葉摂食面積 (cm
2/頭)
第1回目 |
第2回目 |
第3回目 |
供試虫数 |
摂食面積 |
供試虫数 |
摂食面積 |
供試虫数 |
摂食面積 |
216 |
18.5 |
204 |
22.9 |
30 |
24.2 |
表5.フタオビコヤガ要防除水準
調査項目 |
第1回目 |
第2回目 |
第3回目 |
時期 |
6月下旬 |
7月下旬 |
8月下旬 |
要防除水準(幼虫数) |
2.7頭/株 |
8.7頭/株 |
26頭/株 |
被害株率% |
100% |
100% |
100% |
被害葉率% |
44% |
65% |
100% |
4.成果の活用面と留意点
1)本成果は減農薬栽培のための発生対応型防除対策に活用する。
2)減農薬栽培にあたっては、病害の発生を助長しないよう、適正な肥培管理を行う。
3)いもち病に対しては、苗からの持ち込みの影響が大きい場合は本成果は適用できないため、
「イネいもち病の早期多発を防ぐための伝染源対策」(2003年度、上川農試)に基づく対策 を徹底する。
5.残された問題とその対応
1)アカヒゲホソミドリカスミカメに対する水面施用剤を取入れた発生対応型防除体系の確立。