成績概要書 (2004年1月作成)
研究課題:おうとう幼果菌核病および灰星病の効率的防除法
       (おうとう幼果菌核病および灰星病の発生実態調査および生態解明に関する予備試験)
       (発生対応型防除技術の確立(1)おうとうの幼果菌核病および灰星病)
担当部署:上川農試 研究部 病虫科
協力分担
予算区分:道費(クリ−ン農業事業)
研究期間:1999,2001-2003年度(平成11,13-15年度)
1.目的
おうとう果実に発病し直接被害に結びつくおうとう幼果菌核病および灰星病について道内での発生実態、病原菌、発生推移、発生生態、防除対策を明らかにし、両病害の効率的防除対策を確立しておうとうの安定生産を図る。
 
2.方法
おうとう幼果菌核病および灰星病について、1)病原菌、2)発生推移、3)発生生態、4)防除対策の検討を行った。
 
3.成果の概要
(1)幼果菌核病
1)本病はMonilinia kusanoiによる病害で、葉腐れは開花始頃に初発し、中肋に沿って病斑が拡大した。満開期を過ぎると葉叢全体が萎れ、後に枯死する症状が認められた。幼果腐れは落花1週間後頃に初発し、その後約1週間で発生盛期を迎えた。罹病果はその後樹冠下に落ち、樹上には残らなかった。
2)葉腐れの伝染源は越冬菌核(前年度落下した罹病果)上の子実体から飛散する子のう胞子であり、各葉叢の第1葉抽出〜展葉までが重要な感染時期である。
3)幼果腐れは開花当日〜3日後が最も重要な感染時期であり(図1)、その伝染源は子のう胞子、近隣のサクラ類樹木罹病葉やおうとう罹病葉上の分生子である。
4)葉腐れは開花20日前〜10日前までが低温多雨に経過するほど多発傾向にある。幼果腐れは開花10日前〜満開期にかけて多雨に、また開花期〜満開期の最高気温が低く経過するほど多発傾向にある。
5)本病に対して、シメコナゾール水和剤2000倍、フェンヘキサミド水和剤1000倍、チオファネートメチル水和剤1000倍の樹冠散布が有効であった。
6)本病は開花直前樹冠散布で葉腐れを、満開期樹冠散布で幼果腐れを防除できた。開花直前散布は灰星病の花腐れ防除時期と一致する。スピードスプレーヤによる満開期散布はおうとうの結実に大きな影響を与えない。
(2)灰星病
1)道内のおうとう灰星病菌はMonilinia fructicolaおよびM.fructigenaの2菌種であった。
2)花腐れの伝染源は越冬菌核上の子実体から飛散する子のう胞子であり、果実腐れの伝染源は罹病花、樹上のミイラ果、当年の罹病果上に形成される分生子である。
3)着色始頃には、発病果が認められなくても感染果が存在する。
4)灰星病の重点防除時期は開花直前と満開3日後(花腐れ防除)、着色始(収穫20日前)〜収穫直前(果実腐れ防除)であり、幼果期間防除の省略が可能であった(表4)。ただし幼果期間が多湿に経過する場合はこの間も防除を徹底する。
5)チオファネートメチル耐性灰星病菌が高率に存在し、本剤の高い防除効果は期待できない。
6)灰星病菌にイプロジオン(ジカルボキシイミド系薬剤)に対する感受性の低下は認められなかったが、おうとう灰色かび病菌には本剤に対する低感受性菌が認められた。灰星病防除として本系統薬剤を連用すると園内の灰色かび病菌の更なる感受性低下を招く恐れがある。




図1.接種時の開花ステージ別発病果率(幼果菌核病)



表1.葉腐れ防除時期<2003年>




 表2.幼果腐れ防除時期<2003年>
 



表3.果実肥大期間の灰星病防除回数検討<2003年>




おうとうの幼果菌核病および灰星病の効率的な防除方法
1.融雪後は園地内の乾燥に努める。(子実体の発育抑制効果)
2.発病果を摘み取り園地外に搬出、適正に処分する(次年度以降の伝染源低減効果)
3.以下の薬剤散布を行う。(●:基幹防除(必須)、○:臨機防除(状況に応じて))



4.成果の活用面と留意点
(1)本成果はおうとう生産現場において、幼果菌核病および灰星病の防除対策に活用する。
(2)耐性菌出現を抑えるためジカルボキシイミド系薬剤は連用しない。
(3)シメコナゾール水和剤、フェンヘキサミド水和剤、チオファネートメチル水和剤は訪花昆虫に影響しない。
 
5.残された問題点とその対応
(1)幼果菌核病の葉腐れがおうとうの収量や樹勢に与える影響