成績概要書(2004年1月作成)
課題の分類 ;
研究課題名 ; いちごのシクラメンホコリダニに対する温湯灌注防除法(当面の対策)
        (四季成り性いちごの高設・夏秋どり栽培における病害虫の総合防除法の確立)
担当部署  ; 上川農試研究部病虫科,大雪地区農業改良普及センタ−
協力分担  ;
予算区分  ; 道費
研究期間  ; 2003年度(平成15年度)
1.目 的
  いちごに多発する難防除害虫のシクラメンホコリダニ被害に対し,被害株の株元に温湯を直接灌注するという農薬に頼らない方法で被害の軽減を図る。

2.方 法
1) 温湯灌注に関する予備試験  44〜53℃温湯灌注の防除効果および障害発生の有無の確認
2) シクラメンホコリダニの温湯に対する反応 被害花梗を50〜63℃温湯に浸漬後の残存状況調査
3) 温湯灌注がいちごへ及ぼす影響 四季成り性4品種,53〜63℃温湯灌注による障害発生程度
4) 現地における温湯灌注防除試験  移動式加温機を用いた現地実証試験 防除効果と障害

3.成果の概要
1) 温湯灌注に関する予備試験
  ① 温湯温度44,47,50,53℃の90秒灌注で行った予備試験では,53℃区で処理後の展開葉の被害軽減や花梗の回復,立ち上がりが認められた。また,各処理区とも温湯灌注処理による障害は認められなかったことから,温湯灌注処理は本虫の被害軽減に有効であり,防除効果がみられる温湯温度の下限は53℃であると判断された(図1)。

2) シクラメンホコリダニの温湯に対する反応
  ① 異なる温度の温湯に被害花梗を10秒間浸漬した場合,寄生程度の低下は53℃区よりみられ始め,温湯が高温になるに従って寄生程度は低下した。しかし,63℃区においても死滅することはなく,芽や花器内部に潜む個体にまで高温が及ばなかったことが原因と考えられた(図2)。
  ② 50℃温湯に被害花梗を異なる時間浸漬した場合,その後の寄生程度は10秒区では水浸漬区と変わらず,20秒区では半減する程度で,30秒区以上では1日後に全て死滅していた。

3) 温湯灌注がいちごへ及ぼす影響
  ① 四季成り性いちご4品種で行った温湯灌注処理において,57℃区では軽度な障害がみられる場合があった。60℃区以上では灌注部位に明瞭な障害が発生し,草丈も抑制された。また,灌注時間が長いほど障害の発生程度は高まる傾向がみられた(図3)。
  ② 障害の発生程度には品種間で大きな違いはみられなかったが,「ペチカ」でやや発生しやすく,次いで「夏んこ」であり,「エッチエス-138」と「きみのひとみ」は比較的発生しにくかった。
  ③ 以上から,温湯による障害の発生程度を考慮すると,温湯灌注処理に用いることができる温湯の最高温度は57℃であると判断された。
  ④ ポット仮植苗に53℃温湯灌注処理を行った場合,葉面に軽度の障害が発生するがその後拡大することはなく,生育への影響はないと判断された。

) 現地における温湯灌注防除試験
  ① 温湯53,55,57℃区とも処理前に比較して処理後の寄生程度は低下し,温湯灌注による抑制効果が確認された。57℃区においても温湯による障害の発生程度は小さかったことから,55℃を適温として±2℃の範囲内で行えばよいと判断された(図4)。
  ② 処理後の寄生程度の経過から,温湯灌注処理の効果持続期間は1か月程度と判断された。
  ③ 平均的な高設栽培ハウス(150坪)における本防除法の経済的評価では,温湯灌注処理にかかるコストは薬剤散布と大差はないが,労力は薬剤散布の6倍を要した。
  ④ 本防除法を既に実施している生産者ハウスでは,果実生産への影響は認められていない。










◎ 温湯灌注処理法の実施要領
 ① 温湯灌注は,クラウンを中心に一般的な手灌水の要領で行う。
 ② 灌注する温湯の温度は随時チェックし,55℃を適温として,誤差は±2℃以内とする。
 ③ 灌注秒数は株あたり5-10秒が目安であるが,作業性などをみて調節する。
現地試験で行った際の灌注水量は,5秒灌注で株あたり500 m?前後である。

4.成果の活用面と留意点
 1) 本成績は高設栽培四季成り性いちごでの試験である。
 2) 本成果はいちごに発生するシクラメンホコリダニの緊急的な防除対策として活用する。
 3) 温湯灌注処理に際しては以下の点に留意する。
   ① 本処理法には,農薬のような浸透移行性や残効性はないことから,処理にあたってはかけむらがないよう行う。
   ② 処理前に被害の著しい花梗などは取り除いて温湯がかかりやすくしておくと同時に,処理後の再寄生を起こす感染源は極力取り除いておく。
  4) 灌注作業は,午前中や夕刻などの涼しい時間帯に行う。

5.残された問題とその対応
 1) 苗温湯浸漬によるシクラメンホコリダニ新消毒法の確立と本防除法との体系化の検討