成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:たまねぎYES!clean 産地の育成・定着手法
    (クリーン農業の推進戦略と産地対応のあり方)
担当部署:中央農試生産システム部経営科
協力分担:な し
予算区分:道 費(クリーン)
研究期間:2001〜2003年度

1.目 的
たまねぎにおけるクリーン農業の収益性を規定する要因を明らかにし、YES!clean 産地の育成に向けて必要となる取り組みを提案する。これによりクリーン農業に取り組む経営の安定化に貢献する。

2.方 法
1)経済モデル(空間均衡モデル)による国内たまねぎ流通の再現
2)北の農産物認証制度(YES!clean)登録産地における取引状況の調査:2002年度登録産地 
3)経営実態調査 栗山町(化学肥料削減率10%、化学合成農薬削減率53%、1998年開始):11戸
由仁町(化学肥料削減率55%、化学合成農薬削減率78%、1986年開始):14戸

3.成果の概要
1)道産たまねぎの供給量の減少が、国内市場に及ぼす影響(需要量・供給量、市場価格、輸入量)をシミュレーションした結果、市場価格の高騰を招き、輸入量の増加が見込まれた(データ省略)。そのため、YES!clean産地では流通・消費の視点を踏まえて、収量の安定化に取り組む必要がある。
2)クリーン農業に取り組んだ年数の長い産地ほど、有利販売を実現していた(図1)。また、取り組み年数が長い産地では、生協・量販店への直接販売により、取引先との結びつきを強めていた。一方、新たにクリーン農業に取り組んだ産地ほど、価格の上乗せ分が小さかった。そのため、YES!clean 産地の育成場面では、農業所得を維持する観点から、収量の維持に努める必要がある。
3)クリーン農業の実践による生産資材と費用の変化を整理した(表1)。①クリーン農業に取り組んだことで、窒素施肥量は減少した。ただし、土作りに努め有機物を施用しており、肥料費は高まった(図2)。②殺虫剤、殺菌剤、除草剤の使用回数が減少したため、薬剤費は低下した。③手取り除草の実施回数が増加したため、労働費は高まった。④薬剤費の低下に伴い植物活性を図る目的で使用した葉面散布資材費が新たに生じていた(図3)。生産段階の費用は、化学資材の削減に伴いこれを補完するために新たなコストが発生しており、割高であった。
4)クリーン農業の取り組みにより農業所得の向上が見られる栗山町を例にあげると(表1)、①クリーン農業によるたまねぎの流通経費は、自家選果や手数料・運賃の負担を軽減させることで低下した。②取引先の理解の下で、取引価格を高く設定していた。③クリーン農業技術の利用により、取り組み前の収量水準を維持していた。栗山町では、生産段階における費用の増加分を流通段階で補填できたことから、農業所得はクリーン農業に取り組む前の水準よりも増加していたことが認められた。
5)特別栽培農産物の基準を満たす一歩進んだクリーン農業に取り組む由仁町では、栗山町で見られた①〜③に加えて、生協・量販店に直接販売し、流通経路を短縮させることで(図4)、流通経費を大幅に低下させていた(表1)。これにより、農業所得は、栗山町と同等の水準を維持していた。
6)クリーン農業の経済的な成立には、生産段階における費用の増加分を流通段階で補填することが不可欠となる(表1)。栗山町と由仁町では、このような条件を満たす取引先を自ら開拓し、情報交換を活発に行うことで、クリーン農業に対する理解を得ていた。
7)YES!clean 産地には、①クリーン農業技術を実践することにより安全な農産物の絶対量を維持すること、②化学資材を削減した実績を正確に示し、消費者・流通業者からの信頼を保証する体制を構築すること、③消費者・流通業者に対する直接的なコンタクトにより、取り組みに対する理解を得ることが求められる。YES!clean 産地では、クリーン農業に要したコストに基づく取引の実現に向けて、消費者・流通業者に対し、クリーン農業の重要性とそれに必要となるコストについて啓蒙することが重要である。生産者・消費者・流通業者の3者でクリーン農業に要したコストの負担を共有することで、安全な農産物の供給と環境の保全に配慮したクリーン農業を実践する経営を支える体制が確立される。以上のたまねぎYES!clean 産地の成功事例を踏まえて、YES!clean 産地の育成と定着に必要とされる取り組みを図5に示した。


図1 たまねぎYES!clean産地の
   有利販売の状況(2001年産)
注:1)**:5%有意
注:2)通常取引価格は、当該産地の規格内品の価格


図2 土作りの費用と肥料費の関係
注:1)***:1%有意 
注:2)土作りの資材:堆肥、魚粕、緑肥等


図3 薬剤費と葉面散布資材費の関係
注:1)葉面散布資材:木酢、アミノ酸等


図4 YES!clean産地の流通経路と産地側からのコンタクト


図5 たまねぎYES!clean産地の育成・定着手法

表1 クリーン農業の取り組みごとの経済性

注:1)単収及び取引価格は3カ年平均値を示した。

4.成果の活用面と留意点              
 1)たまねぎのYES!clean産地の育成・定着を図る場面で活用する。
2)特別栽培農産物の基準を目指す産地の育成・定着を図る場面で利用する。 
3)消費者・流通業者のクリーン農業に対する理解の促進に役立てる。

5.残された問題とその対応
消費者・流通業者の意向等の調査は、「有機農業の経済的な成立要因の解明」の課題で対応する。