成績概要書(2004年1月作成)

課題分類:研究課題:衛星リモートセンシングによる米粒タンパクマップの高度化と利活用技術
             (衛星リモートセンシングによる高品質米生産システムの開発)
担当部署:中央農試生産システム部栽培システム科 上川農試研究部栽培環境科
協力分担:北海道米麦改良協会北海道米食味分析センター
予算区分:道費(重点領域)
研究期間:2001〜2003年度(平成13〜15年度)

1.目的
 「衛星リモートセンシングを利用した米粒タンパク含有率区分図」の精度向上・作業簡便化・利用手法を検討し、タンパクマップの作成・運用手段を提示すると共に、タンパクマップを利用したタンパク質含有率(以下タンパク)の改善事例を示し、タンパクマップの高度化と利活用技術を確立する。

2.方法
1)対象地域:空知支庁長沼町、上川支庁鷹栖町
2)使用データ:衛星データ(SPOT・IKONOS他)、地上調査データ、土壌図、標高図等地図情報
3)検討事項:衛星データ・地上調査データ・地図情報等の関連解析により、以下を検討
 (1) タンパク推定精度を低下させる要因とその対応策:観測時期、品種、苗種、地形などの影響と補正手段
 (2)蛋白推定手法の効率化:地上調査の軽労化
 (3) タンパクマップの利活用技術:GISソフトを利用し、タンパクマップと他の地図情報との関連を解析・要改善圃場の選別と要因の類別・導入対策の選定と改善効果の検証

3.成果の概要
1)タンパク推定精度を低下させる要因とその対応策
 ①衛星観測期間は、成熟期から20日前までの間とし(図1)、衛星観測開始日は出穂後27〜32日を目安に、当年の生育経過を考慮して設定する。
 ②現在の主要粳米品種である「きらら397」「ほしのゆめ」「ななつぼし」は、成熟期が異ならなければ品種・苗種や地形による推定精度への影響はない。
 ③成熟期が異なる場合は、別途個別の推定式を作成してタンパクマップを補正することが望ましいが、GIS情報がないと補正情報をマップに反映することできない。
 ④成熟期の差が標高と対応する場合は、NDVIと標高との重回帰式でタンパク推定精度が向上する。
 ⑤成熟期の遅れによるタンパク推定値の変動は、タンパク質含有率の推定に利用した調査地点に対する成熟期の遅れが6日程度であれば、タンパクマップ表示への影響は少ない。7日以上の遅れがある地点では、推定値は実測値よりも0.5〜1.0%高く表示され、タンパクマップが1ランク高く表示される場合がある。成熟期の遅れた地点で不稔の発生や登熟歩合の低下が生じた場合の補正は困難である。
 ⑥タンパク推定精度を低下させる要因とその対応策を示す(表1)。
2)タンパク推定手法の効率化
 ①同一の衛星データに含まれる市町村や農協は、成熟期が同等であれば、タンパク推定に共通の推定式を使用することができる。
 ②対象地域のタンパクの平均や変動幅が把握可能な調査データとNDVIの頻度分布の比較によって、地上調査を省略してタンパクの推定ができる(図2)。
3)タンパクマップの利活用技術
 ①タンパクの変動要因は、タンパクマップと土壌図や初期生育良否、前年の土地利用などの地図情報との対比によって把握可能である(表2)。
 ②土壌タイプのタンパクマップへの寄与率は、タンパクマップに1〜2km四方の平均化処理を行うことによって高まり(図3)、地域全体のタンパクの傾向を示すマップが得られる。
 ③周辺よりもタンパクが高い地点は、平均化処理をおこなったマップと、タンパクマップとの差分の算出によって選別できる。
 ④タンパクマップの変動要因の把握手法を示す。
 ⑤次年度以降の改善が必要な地点は、対象地域の中でタンパクが高い地点と、周辺と比較してタンパクが高い地点とする(表3)。
 ⑥選別された地点は、現地調査結果や土壌タイプ・初期生育・前年の土地利用などの地図情報を利用することで、不良要因や改善方策が類別され、それぞれの対策を導入すべき地点を地図化できる。
 ⑦要改善地点に実施した改善方策の効果は、次年度のタンパクマップで検証することができる。
 ⑧高分解能衛星から作成されるタンパクマップは、圃場内のタンパクの変動を把握可能である。
以上の結果から、衛星リモートセンシングによる米粒タンパクマップの高度化と利活技術を示した。



図1 衛星観測日から成熟期までの日数とNDVIとタンパクのRMSエラーの関係
    (1998〜2003年長沼町)


図2 タンパク推定手法による推定定値と実測値との関係との比較


表1 タンパクの推定精度を低下させる要因とその対応策
要  因 対  応  策
観測時期が早すぎる 衛星観測期間は、成熟期から20日前までの間とし、衛星観測開始日は出穂後
27〜32日を目安に、当年の生育経過を考慮して設定する。
品種・苗種・地形の影響 現在の主要粳米品種である「きらら397」「ほしのゆめ」「ななつぼし」は、成熟期
が異ならなければ品種・苗種・地形による推定精度への影響はなく、同一のタン
パク推定式を利用可能である。
成熟期の遅い地点が混在する 成熟期の差が標高と対応する場合には、NDVIと標高を説明変数とした重回帰式
でタンパクを推定することによって、補正が可能である。
タンパク質含有率の推定に利用した調査地点に対する成熟期の遅れが6日程度
であれば、タンパクマップ表示への影響は少ないが、7日以上の遅れがある地点
では、推定値は実測値よりも0.5〜1.0%高く表示される。成熟期の遅れた地点で、
不稔の発生や登熟歩合の低下が生じた場合の補正は困難である。
圃場区画が小さい 地上分解能20mの衛星データを利用した場合、区画面積が0.4ha以下の圃場
では、推定精度が低下する(畦で区切られた圃場は同一区画とみなす)。
いもち病の発生 いもち病の発生地点では、推定値は利用できない。
地上調査地点の点数が不足、
選定が不適切
対象地域のタンパクの変動幅を網羅し、また成熟期の偏りがないように20点
程度を選定する。

表2 土壌タイプ別平均タンパクの集計(1998〜2000年 長沼町)
土壌タイプ 年 次
1998 1999 2000
火山灰土 7.7 7.4 7.6
台地土 7.3 7 7
褐色低地土 7.5 7.1 7.1
灰色低地土 7.7 7.3 7.4
グライ土 7.9 7.4 7.5
泥炭土 8 7.7 7.9




図3 平均化処理の大きさによる土壌タイプの寄与率の変化(1998年 長沼町)


表3 タンパクマップから抽出された要改善地点の特徴と改善方策(2000年 長沼町)
区分 タンパク 周辺との差 対象面積(ha) 特 徴 主な改善方策
8%以上 +0.5%以上 805 タンパクは高く、さらに周辺に比べて相対的に高い 栽培管理の改善および基盤環境の改善
8%以上 +0.5%未満 199 タンパクは高いが、周辺と大差ない 基盤環境の改善および栽培管理の改善
8%未満 +0.5%以上 243 タンパクは高くないが、周辺に比べると相対的に高い 栽培管理の改善
8%未満 +0.5%未満 3703 タンパクは高くなく周辺との差もあまりないので、改善の優先順位は低い


4.成果の活用面と留意点
 1)本成果は、市町村・農協などの低タンパク米生産現場で活用する。
 2)タンパクマップの効率的な利活用には、GIS情報の整備が望ましい。
 3)集荷時の測定データ等の頻度分布を利用したタンパク推定手法は、成熟期の差の少ない地域で利用する。

5.残された問題とその対応
 1)気象情報に基づく成熟期の推定とタンパクマップの連動