成績概要書(2004年1月作成)
研究課題:遺伝子工学的手法によるユリのウイルス病診断技術
       (遺伝子工学的手法を用いたユリのウイルス病診断キットの開発)
担当部署:中央農試 農産工学部 遺伝子工学科
       北海道大学大学院 農学研究科 植物病原学講座
協力分担:
予算区分:重点領域
研究期間:2001年〜2002年(平成13〜14年度)

1.目的
北海道において発生しているユリのウイルス病を簡易に診断を可能とする技術を開発し実用化を図る。

2.方法

  1. 北海道においてユリに発生している4種のウイルス(チューリップモザイクウイルス(TBV)、ユリXウイルス(LVX)、キュウリモザイクウイルス(CMV)、ユリ潜在ウイルス(LSV))について、ウイルスRNAを抽出しRT-PCRによりcDNAを得た。この遺伝子配列を解析し、既知の配列と比較した。
  2. ユリモットルウイルス(LMoV)の外被蛋白質遺伝子を大腸菌発現系に導入・発現させ、これをウサギに免疫した。ウサギから得た抗血清から抗体を精製しエライザ法への応用を試みた。
  3. ユリウイルス病の検出に不可欠な4種のウイルスのエライザ用試薬のセットを診断キットとし、平成12〜14年に実際の発病ほ場より採集した罹病葉からエライザ法による検出を試みた。

3.成果の概要

  1. 北海道のユリに発生している4種ウイルス全てについて、外被蛋白質遺伝子を解析し、塩基配列を明らかにした(表1)。
  2. これまで、TBVとされていたウイルスは、CPアミノ酸配列相同性について既知の配列と比較したところ、TBVとは68%と低く、近縁のLMoVと90%と高かった。この結果、このウイルスはLMoVであることが明らかとなった。
  3. これまで、LVXとされていたウイルスは、CPアミノ酸配列相同性について既知の配列と比較したところ、LVXとは37.4%と低く、同じpotexvirus属のオオバコモザイクウイルス(PlAMV)と89.4%と高かった。この結果、このウイルスはPlAMVであることが明らかとなった。診断に必要な抗体は市販されていないが、中央農試において作成した抗体で対応可能であった。
  4. ユリから分離されたCMVは、ユリ類以外にはほとんど感染しない特殊な分離株であるが、CMV普通系とCPアミノ酸配列相同性は98.6%と高った。市販の抗体で検出は可能であった。
  5. LSVについて、CPアミノ酸配列相同性について既知の配列と比較したところ、98%と高かった。市販の抗体で検出が可能であった。
  6. 北海道でもっとも発生が多いLMoVについては、診断用抗体が得られおらず、従来の手法での抗体作成は困難であった。そこで、CP遺伝子に大腸菌発現系に導入・発現させを、抗体を作成した(図1)。
  7. ユリウイルス病を診断する診断キット(抗体の試薬セット)を用い、現地発生ほ場サンプルを診断したところ、ウイルスを検出することができ、その実用性が確認された(表2)。
  8. 北海道においてユリで発生している4種のウイルスの外被蛋白質遺伝子の配列を明らかにし、ウイルス種を決定した。また、ユリのウイルスフリー化のための診断用抗体のセットを開発した。

表1 明らかになった北海道でユリに発生するウイルス
当初のウイルス名 遺伝子解析結果 診断用抗体
TBV LMoV 本試験にて作成
LVX PlAMV 中央農試作成抗体(平成7年指導参考事項)
CMV CMV 市販抗体で診断可能
LSV LSV 市販抗体で診断可能


図1 LMoVのエライザ法による検出

表2 食用ゆり及び花ゆり現地発病サンプルからのELISAによる検出

年  度 市町村名 検    定
サンプル数
LMoV 陽性 陰性
PIAML CMV LSV
平成14年 北檜山町 12 6 10 4 5 1
栗山町 26 19 0 16 26 0
富良野町 3 1 3 0 3 0
忠類村 19 9 16 0 1 0
平成13年 芽室町 1 1 1 1 1 0
北檜山町 4 4 4 4 4 0
平成12年 美瑛町 1 1 0 0 0 0
忠類村 4 1 4 2 2 0
名寄市 3 3 3 0 0 0
常呂町 4 3 3 0 1 0
喜茂別町 3 2 3 0 1 0
岩見沢市 3 1 2 1 1 0
83 50 49 28 45 1

4.成果の活用面と留意点
 1)ユリのウイルスフリー種苗の確認や診断に活用する。

5.残された問題点 
 1)新規ウイルスの侵入への対策