成績概要書(2004年1月作成)
課題分類:
研究課題:ダイズシストセンチュウ・レース1抵抗性に関するDNAマーカー選抜法の開発
       (ダイズのシスト線虫抵抗性(レース1)DNAマーカーの開発   (平成11〜13年度))
       (ダイズのDNAマーカー選抜による複合障害抵抗性系統の早期選抜(平成14〜15年度))
担当部署:十勝農試・作物研究部・大豆科
担当者名:
協力分担:
予算区分:国費受託(DNAマーカープロジェクト)
研究期間:1999〜2003年度(平成11〜15年度)

1.目的
ダイズシストセンチュウは大豆の土壌病害虫であり、その化学的、耕種的防除は困難であるため抵抗性品種が必要である。現在、道内で被害が拡大傾向にあるレース1への抵抗性は、関与する遺伝子座が4対(rhg1、rhg2、rhg3、rhg4)と多く、抵抗性の選抜には時間と労力がかかる。そこで、抵抗性選抜に用いるDNAマーカーを開発し、レース1抵抗性品種の早期育成のための選抜技術法の開発を行った。

2.方法
1)レース1抵抗性の遺伝解析:解析集団TC9703「十系758号(感受性)×To-8E(PI84751由来レース1抵抗性)」のレース1抵抗性検定を行い、遺伝様式を推定した。
2)マーカーの探索:QTL解析およびRILs(組換え自殖系統)によるグラフ遺伝子型の比較により、レース1抵抗性の4遺伝子座に連鎖する近傍マーカーを選定した。
3)マーカーの適用性評価:4領域の近傍マーカーの92品種・系統への適用性および「下田不知系レース3抵抗性×レース1抵抗性」の組合せにおけるマーカー選抜の適用性を評価した。
4)選抜技術の開発:rhg1、rhg4座の近傍マーカーを用いて「下田不知系レース3抵抗性×レース1抵抗性」の組合せのF2集団および連続戻し交配系統を選抜した。
5)DNAマーカー選抜の適用性と残された課題について検討した。

3.成果の概要
1) 解析集団のレース1抵抗性は、既存の報告どおり4遺伝子座支配(優性1対劣性3対)の遺伝様式に適合した。
2) QTL解析、RILsのグラフ遺伝子型の解析によりレース1抵抗性の4遺伝子座に連鎖すると考えられるマーカーを見いだした〔 rhg1座(連鎖群G):Satt309、rhg2座(B1):Satt359、rhg3座(D2):Sat_022、rhg4座(A2):Satt632〕(表1)。なお、rhg2とrhg3は暫定的な定義である。
3) 92品種・系統を用いて、レース1抵抗性4遺伝子座近傍のマーカーの適用性を検討した結果、rhg1座とrhg4座の近傍マーカーは適用性が高いと判断されたが、rhg2座とrhg3座の近傍マーカーは遺伝子型と抵抗性の適合度が低く適用性が低いと判断された。
4) rhg1座にはレース1抵抗性型とレース3抵抗性型の複対立遺伝子の存在が示唆された。
5) レース1抵抗性の4遺伝子座のうちrhg4座を除く3座がレース3抵抗性に関与すること、rhg1座にはレース1抵抗性型とレース3抵抗性型の複対立遺伝子が存在することから、「下田不知系レース3抵抗性×レース1抵抗性」の交配後代について、rhg1座とrhg4座の2領域の近傍マーカーで抵抗性個体を選抜可能であった。
6) 「十系871号(レース1抵抗性)/十育233号//十育233号(下田不知系レース3抵抗性)」のマーカー選抜を利用した連続戻し交配を行い(図1)、マーカー選抜したBC3F219個体中、抵抗性の14個体を得た(表2)。戻し交配の途中段階では、rhg4座はSatt632で選抜可能であったが、rhg1座はSatt309だけでなく、周辺マーカー(Satt163とSat_141)の遺伝子型についても確認して選抜する必要があった(表2)。
7) 上記のマーカー選抜法は、現状の選抜技術では連続戻し交配によるレース3抵抗性有望系統へのレース1抵抗性の早期導入に有効と考えられた。



表1 TC9703のQTLs(F2)とRILs(F2:6)のグラフ遺伝子型(抵抗性系統を抜粋)


マーカー TC9703F2 TC9703RILsF2:6(十系758号/To-8E)の系統番号
距離
(cm)
相加
効果
寄与率
(%)
LOD 84 91 131 206 238 51 121 158 67 79 178 192 98 72 遺伝子
座の
推定
セルトレイ検定結果 レース1抵抗性
レース3抵抗性
R R R R R R R R R R S S S S
R R R R R R R R R R R R R R
G Satt309
  Sat_141
9.3 -15.0 34 8.2 B B B B B B B B B B B B B B rhg1
- -14.9 31 7.4 B B B B B B B A A B B B B B  
A2 Satt632
   Sat_162
3.4 -6.8 9 1.9 B B B B B B B B B B A A A A rhg4
- -6.2 8 1.6 C C C C C C C C C - A A A A  
B1 Sat_123
   Satt359
2.3 -10.4 15 3.1 C C C C C C C C C A C C C C rhg2
- -9.9 13 2.8 B B B B B B B B B A B B B B  
D2 Sat_022
   Sct_220
13.3 - - - B B B A A B B B A B B B B B rhg3
- - - - B B B B B B B B A A B B B A  
注)遺伝子型はA:十系758号型(S)、B:To-8E型(R1)、C:B型またはヘテロ型(優性マーカー)rhg2とrhg3は暫定的な定義である。



表2 BC3F1、BC3F2個体のグラフ遺伝子型とレース1抵抗性
系統番号 rhg4 rhg1 レース1抵抗性
Satt632 Sat_162 Satt163 Satt309 Sat_141
BC3F1-6-5 H C H H H -
BC3F2-6-5- 5 B C B B B S
16 B C B B B R
52 B C B B B R
53 B C B B B R
65 B C B B B R
94 B C B B B R
98 B C B B B R
32 B C B B H R
BC3F1-6-6 H C H H A -
BC3F2-6-6- 4 B C B B A R
43 B C B B A R
51 B C H B A R
56 B C B B A R
60 B C B B A R
107 B C B B A R
123 B C B B A R
33 B C B B A S
55 B C B B A S
127 B C B B A S
132 B C B B A S
注) A:十育233号型(R3)、 B :十系871型(R1)C :A以外、Sat_163は多型無し。
  レース1抵抗性はセルトレイ検定による。




図1 マーカー選抜を用いた連続戻し交配結果


4.成果の活用面と留意点
1) 本研究で開発したマーカー選抜法は、rhg1座とrhg4座の近傍マーカーを用いた「レース3抵抗性(繰り返し親)×レース1抵抗性(供与親)」の組合せの連続戻し交配に有効である。
2) 今回得られた結果は「PI84751」に由来するレース1抵抗性を用いた技術である。
3) 本研究の中でマーカー選抜したレース1抵抗性個体は、育種素材または育種材料として利用可能である。

5.残された問題とその対応
1) F2集団など、2,000個体以上で選抜を行う場合は、さらにマーカー選抜作業行程の効率化が必要であり、DNA抽出、マーカー検出など作業行程の効率化を検討する。
2) 「レース1抵抗性×感受性」の組合せへの適用には、rhg2座およびrhg3座に連鎖するマーカーの高精度化およびrhg1座およびrhg4座に連鎖するマーカーのさらなる高精度化が必要であり、他研究機関の協力と連携を得て実施する計画である。