成績概要書(2004年1月作成)
課題分類:
研究課題:たまねぎのすき込み方法とその影響
担当部署:北見農業試験場技術体系化チーム、北見地区農業改良普及センター
予算区分:道費・受託
研究期間:2002年度
1 目的
 北見地域では、2001年産たまねぎの産地調整の一方法として、2002年春からほ場すき込み処理が行われた。すき込みほ場において、①今回のすき込み跡地における作物栽培指導に活用すること、②将来において同様な事態に遭遇した場合に適切な処理法の確立に資することを目的に、たまねぎの土壌中での分解過程、後作における病害虫並びに発芽障害等の発生、たまねぎの萌芽等について追跡調査を実施した。

2 方法
1)現地追跡調査
 調査地点・すき込み時期:留辺蘂町5月28日、訓子府町6月3日、北見市6月6日、常呂町8月12日、各1カ所、調査時期:すき込み時、後作物作付時、秋、翌春、調査項目:細断程度、混和状況、腐熟程度、ハエ類の発生状況、病害の発生状況、後作物の出芽・生育
2)場内モデル調査
 埋設時期:6月13日、8月8日、細断法:みじん切り、縦4分の1、全球、埋設深:5cm、15cm、25cm、各作条、調査時期:埋設時、1ヶ月後、2ヶ月後、秋、翌春、調査項目:腐熟程度

3 成果の概要
1)すき込み方法別細断程度
 ① マニュアスプレッダ散布時の破砕効果は小さく、全球状態のたまねぎが多く残った。(表1)
 ② 正転ロータリは2回がけすることによって十分な細断ができ、逆転ロータリは1回がけでほぼ十分な細断程度となった。(表1)
2)すき込み時の成分含有量およびすき込み後の分解程度
 ① すき込み時の現物1t当たりの含有量は、窒素1.7kg、カリ2.6kgであった。(表2)
 ② 乾物分解率は、ロータリ耕のみの場合15〜21日後で70〜80%となったが、破砕が不充分なまま直後にプラウ耕を行った場合12日後で20%しか分解
  していなかった。(表3)
 ③ 窒素分解率は、ロータリ耕のみの場合15〜21日後で55〜75%となり、土壌中への窒素の放出が進んでいた(表3)。8t/10a処理は、すき込み後15
  日頃も強い臭気が残った。
3)切断処理・埋設深の違いが分解におよぼす影響
 ① みじん切りは、埋設深にかかわらず分解が進んだ。萌芽もみられなかった。縦4分の1切断は、6月埋設では2ヶ月後に5cm深を除いてほとんど
  分解した。8月埋設では3ヶ月後にほとんど分解していた。全球は、6月埋設の5〜15cm深ではほとんどが萌芽し、8月埋設では、埋設深にかかわ
  らずほとんどが萌芽した。萌芽した株は、翌春の乾物残存率も高く、分解が大幅に遅れた。(表4)
 ② 上記の結果を正転ロータリ2回がけによるほ場すき込みにあてはめると、すき込み1ヶ月後の乾物残存率は10〜20%、2ヶ月後では2〜4%になると
  考えられる。全球でのすき込みは分解が遅れるばかりでなく、ほとんどが萌芽するので、すき込みにあたってはりん茎を完全に破砕・細断するこ
  とが必要である。
4)ハエ類の発生
 ① たまねぎをすき込むと、直後からタネバエが引き寄せられ産卵した。(表5、6)
 ② ロータリ耕では、土壌表面に近いたまねぎ残渣の中・近辺にタネバエ幼虫や蛹が認められた。一方プラウ耕では、残渣周囲の土壌が固く幼虫の生存
  に適さなかったと考えられる。
 ③ 近隣の作物が食害を回避できる程度に大きくなっていれば、羽化したタネバエ成虫による問題は発生しないと考えられる。
5)後作物の生育
 ① すき込み量の多い訓子府町(混播牧草)では、越冬前の生育は慣行区と同等であったが、一番草の生育・収量は慣行区より優った。すき込み
  量の少ない北見市(秋まき小麦)では、生育・収量ともに慣行区と同等であった。すき込みに起因すると思われる病害は、認められなかった。
 ② エンバク・ヒマワリ緑肥(留辺蘂町:すき込み後14日目は種、北見市:同2日目、常呂町:同7日目)の発芽、生育および病害に対するすき込みの影響
  は認められなかった。
  以上のことから、ほ場すき込みの手順は、マニュアスプレッダで均一に散らし、正転ロータリ2回がけまたは逆転ロータリ1回がけでりん茎を完全に破砕・細断しながら土壌混和し、数日間放置してからプラウによる反転すき込みを行う。すき込み量は、分解程度や悪臭などから4t/10a以下とすることが望ましい。



表1 たまねぎのすき込み方法別細断程度
地区名 留辺蘂町 訓子府町 北見市 常呂町
すき込み月日 5月28日 6月3日 6月6日 8月12日
前作 白花豆 サイレージ用
とうもろこし
水稲 秋まき小麦
ロータリ耕の種類・回数 正転・2回 正転・2回 正転・1回 逆転・1回
耕深(cm) 20 19 18 12
すき込み量(t/10a) 3.1 8.3 1.4 3.7
マニュアスプレッダ散布後 全球(%) 26 16 39 55
1/2以上(%) 41 42 44 33
1/4以上(%) 6 12 7 3
1/4以下(%) 27 30 10 9
ロータリ耕後 全球(%) 0 0 10 9
1/2以上(%) 6 4 37 9
1/4以上(%) 8 10 7 8
1/4以下(%) 86 86 46 74



表2 すき込みたまねぎの成分含有量
地区 窒素含有量
kg/現物t
カリ含有量
kg/現物t
留辺蘂町 1.6 2.2
訓子府町 1.8 2.5
北見市 1.7 3.2
平均 1.7 2.6



表3 すき込みたまねぎの分解程度
地 区 すき込み日 すき込み後
経過日数
乾物分解率
%
窒素分解率
%
備  考
留辺蘂 5月28日 21日 83 75 追加ロータリ耕(6/11)1回
訓子府 6月3日 15日 67 55 プラウ耕(6/20、35cm深)
北 見 6月6日 12日 20 (-12) ロータリ直後プラウ耕(35cm深)



表4 切断処理・埋設深別の分解程度と萌芽状況
切断
処理
埋設深
(cm)
6月13日埋設 8月8日埋設
埋設1ヶ月後
(7/15調査)
埋設2ヶ月後
(8/8調査)
埋設5ヶ月後
(11/11調査)
埋設10ヶ月後
(4/23調査)
埋設1ヶ月後
(9/10調査)
埋設3ヶ月後
(11/11調査)
埋設8ヶ月後
(4/23調査)
乾物残存率
(%)
萌芽株率
(%)
乾物残存率
(%)
萌芽株率
(%)
乾物残存率
(%)
乾物残存率
(%)
乾物残存率
(%)
萌芽株率
(%)
乾物残存率
(%)
乾物残存率
(%)
みじん切り 5cm 2 0 0 0 0 0 2 0 0 0
15cm 1 0 0 0 0 0 3 0 0 0
25cm 1 0 0 0 0 0 3 0 0 0
縦4分の1 5cm 40 80 26 40 0 (13) 28 100 4 1.8
15cm 47 80 3 20 2 (17) 16 0 3 1.9
25cm 30 0 6 0 0 0 20 0 1 6.9
全球 5cm 106 100 150 100 93 82 95 100 145 71
15cm 103 100 122 80 113 79 95 100 170 117
25cm 93 20 65 20 52 7 98 80 130 73
注)場内モデル調査ほ場、( )は処理区のばらつきに起因。



表5 すき込み時点におけるハエ
地点 すき込み
ほ場
隣接たまねぎ
ほ場
1 3 0
2 1 0
3 1 0
4 1 0
平均 1.5 0
注) 場内モデル調査ほ場、( )は処理区のばらつきに起因。



表6 すき込み後のハエ類幼虫発生程度(表層土壌100g当たり、頭)
留辺蘂 訓子府 北見
ロータリ耕起のみ ロータリ直後プラウ耕(35cm深)
すき込み区1 14.9(残渣多) 6.1(残渣多) 0(残渣無)
すき込み区2 0.9(残渣少) 0(残渣無) 0(残渣無)
慣行区1 0 0 0
慣行区2 0 0 0
注1)6月18日調査、区の1・2は調査地点
注2)発生したハエはすべてタネバエでタマネギバエはいなかった。
注3)留辺蘂町、北見市の近隣たまねぎほ場でタネバエまたはタマネギバエによる被害は見られなかった。



4 成果の活用面と留意点
 1)すき込み量が4t/10aの場合、窒素が約7kg/10a、カリが約10kg/10a投入されるので、後作物では「北海道施肥ガイド」に準じて窒素、カリの適正
  量を減肥する。
 2)すき込みほ場の後作物については、ハエ類の被害を受けやすい作物を避ける。

5 残された問題点とその対応