成績概要書(2004年1月作成)
課題分類: 研究課題: 水田転作技術ガイド 担当部署: 中央農試 「道立農試における水田農業研究の在り方検討」作業グループ 担当者名: 協力分担: 予算区分: 道費 研究期間: 2003年度(平成15年度) |
1.目的
政府の「米政策改革大綱」の決定を受け、北海道においても「売れる米作り」と「生産調整対象水田の高度利用」に向けた取り組みが進められている。道内各地域の「地域水田農業ビジョン」策定作業やビジョンの実現を支援するために、水田転作に係る技術マニュアルを作成する。
2.方法
1)道立中央農業試験場内に関連研究職員並びに専門技術員による「道立農試における水
田農業研究の在り方検討」作業グループを設置した。
2)作業グループにおいて北海道の試験研究成果や他府県の研究報告等を精査し、既存技
術の整理と組立て、及び問題点の検討をおこなった。
3)作業グループにおける検討結果を踏まえ「水田転作技術ガイド」を分担執筆した。
3.成果の概要
1)現行の水田転作の問題点を整理し、畑地化(永久転換)推進の重要性を提起した。
2)土地利用における田畑輪換方式と畑地化(永久転換)方式を比較した。田畑輪換方式は、排水条件が良好な基盤整備済みの圃場で効果が想定される。畑地化方式は、抜本的な排水対策の実施によりメリットが生じ、また土壌条件による制約も少ないとみられる。
3)畑地化に際する水田土壌の課題をとりまとめた。①気相率の向上、②地下水位の低下、③保水性の確保、④透水性の向上、⑤転作初年〜2年目における化学性への留意である。
転作に際しては畑地として土壌診断を実施し、土壌物理性の中長期的改善を行うとともに、有機物の積極的・継続的施用をはかる必要がある。
4)転作に伴う圃場排水対策をとりまとめた。排水対策を①表土の管理・改善対策、②下層土の管理・改善対策、③暗渠の間隔等に区分し、各々の具体的状況への対応策を整理した。また、生産者が個人で対応可能な排水対策と、基盤整備工事による改善対策を整理した。
5)転換畑における畑作物等について、栽培技術及び病害虫防除法を作物別に整理した。作物として、秋まき小麦、同(大豆間作)、春まき小麦、同(初冬まき)、大豆、小豆、てん菜、同(直播)、ばれいしょ、そば、たまねぎを取り上げた。また、緑肥作物の効果や導入上の留意点についても整理した。
6)転換畑における野菜作について、導入上の留意点及び病害虫防除法を整理した。
7)水田地帯における飼料作物栽培の現状と、導入上の留意点を整理した。
8)転換畑における作付体系の現状と改善事例を整理した。
表1 畑地化方式の導入について(田畑輪換方式との比較)
田畑輪換方式 | 畑地化方式 | |
輪作上の特質 | ・麦、大豆、水稲により、省力的で相対的に 少ない資本で輪作が可能。 |
・畑輪作体系確立のための技術形成と資本投入が前提。 |
土地利用に おける特質 |
・畑作、野菜作の連作障害軽減が可能。 | ・大区画化による作業効率向上と排水改良、熟畑化による 生産性向上が可能。 |
経済的特質 | ・水稲、畑作物の高品質化、低コスト化要請に対し、土壌条件など 抜本的改善を実施できないことから対応限界がある。 |
・生産環境の安定化と高品質化、低コスト化追求に適合。 ・地域的な生産、販売体制の構築が必要。 ・農地価格、水利組織、土地改良区賦課金等地域対応が必要。 |
一般的な 適用局面 |
・大区画で排水良好な圃場に適応できる。 | ・地域的取り組みと体制整備のもとで各地に適応できる。 |
表2 北海道の水田転換畑における総合的な排水対策
条 件 | 代表的な土壌の例 | 対 策 |
●表土の管理・改善対策 透水性良好(K=10-4以上)だが表面滞水が発生 透水性不良(K=10-4以下)で表面滞水が発生 透水性不良(K=10-4以下)で常に湿潤 透水性不良(K=10-4以下)で泥濘状態 |
砂質、壌質土壌 強粘質土壌 粘質土壌、多湿黒ボク土、黒ボクグライ土 練り返し層 |
表面排水対策+下層土改良 表面排水対策+作土物理性改良 作土物理性改良 表面排水対策+作土物理性改良 |
●下層土の管理・改善対策 下層に硬度20以上の堅密層が存在する 下層に硬度20以上の耕盤層が人為的に形成 下層土はもともと膨軟だが透水不良(K=10-4以下) 下層土を練り返して透水不良化した(硬度16〜19、K=10-4以下) |
灰色土壌 硬盤層、耕盤層 グライ土、多湿黒ボク土、黒ボクグライ土 練り返し層 |
50cmより深い心土破砕 通常型あるいは広幅型心土破砕 通常型心土破砕及び有材心破 夏季乾燥時に心土破砕 |
●暗きょの間隔など 地下水位が1m以内の鉱質土 下層土が堅密または人為的な透水不良層が存在 地下水位が1m以内の泥炭土、及び湿性な黒ボク土 下層土が膨軟で透水性良好 |
グライ土 灰色土壌、硬盤層、耕盤層、練り返し層 泥炭土、多湿黒ボク土、黒ボクグライ土 砂丘未熟土、褐色低地土、黒ボク土 |
暗きょ間隔8〜10m 暗きょ間隔10m 暗きょ間隔10〜12mで深めに設置 暗きょ不要 |
4.成果の活用と留意点
1)道内各地域における「地域水田農業ビジョン」策定の参考となる。
2)転換畑における排水対策の技術指針として利用できる。
3)転換畑における畑作物、野菜、飼料作物などの栽培指針として利用できる。
5.残された問題とその対応
本技術ガイドは、過去における多くの試験研究成果、報告等をとりまとめて整理したが、技術的に未完成の部分も散見される。この点については、重点化して推進予定の水田農業研究で対応する。