水稲優良品種候補「北海292号(おぼろづき)」(普及奨励事項)
北海道農業研究センター 作物開発部 稲育種研究室 清水博之

 「北海292号」は、白米のアミロース含有率が「ほしのゆめ」より低く、「あやひめ」より高い。炊飯米の粘り、柔らかさは「ほしのゆめ」に優る。良食味米として単品での一般飯米用に適する。

1 来歴
 「北海292号」は、良質・耐冷性の低アミロース品種育成を目標として、1995年北海道農業試験場において「空育150号」(後のあきほ)を母とし、きらら397の低アミロース培養変異系統である95晩37(後の北海287号)を父として人工交配を行って育成された系統である。同年にF1を温室で養成し、1996年にはF2〜F4の3世代を温室で世代促進を行った。1997年にF5世代を系統として選抜・固定を図ってきた。1998年から「札系98020」の系統番号を付して生産力検定試験および特性検定試験に供試し、1999年からは、系統適応性検定試験にも供試してきた。さらに2000年F8より「北海292号」の系統名で北海道の奨励品種決定調査に供試した。2003年に品種名「おぼろづき」で品種登録に出願し、受理された。2003年の世代は雑種第11代である。2003、2004年にも引き続き奨励品種決定調査に供試するとともに系統維持を行った。

2 特性概要
(1)形態的特性
 移植時の苗丈、葉色、葉身の形状は"中"で、苗質は「ほしのゆめ」並である。本田における初期生育は、「ほしのゆめ」よりも草丈がやや長いが分げつは同程度からやや劣る。稈の太さ、剛柔は"中"である。
 稈長は「ほしのゆめ」、より4㎝程短く、「きらら397」並の"やや短"である。穂長は「ほしのゆめ」、「きらら397」よりもやや長い"中"、穂数は「ほしのゆめ」、「きらら397」よりも少ない"やや多"である。草型は「穂数型」である。一穂籾数は「ほしのゆめ」よりやや多く「きらら397」並である。粒着密度は「ほしのゆめ」、「きらら397」より疎の"やや疎"である。
 ふ色、ふ先色は、"黄白"で、稀に短芒を有する。脱粒性は"難"である。玄米の形状は、「ほしのゆめ」並の"やや長"で、粒大は「ほしのゆめ」より大きく「きらら397」並の"やや大"である。粒厚は「きらら397」より薄く、「ほしのゆめ」並である。割籾の発生は、「ほしのゆめ」、「きらら397」より少ない。
(2)生態的特性
 出穂期、成熟期は「ほしのゆめ」並からやや遅く、「きらら397」よりやや早い"中生の早"に属する粳種である。耐倒伏性は「ほしのゆめ」より強い"中〜やや強"である。障害型耐冷性は「ほしのゆめ」と同ランクの"強"である。出穂遅延型耐冷性は、"やや強"である。
いもち病抵抗性遺伝子型はPii, Pikと推定され、圃場抵抗性は葉いもちが"やや弱"、穂いもちが"中"である。
玄米千粒重は「きらら397」よりやや軽く、「ほしのゆめ」並の"中"であり、玄米収量は「きらら397」より低く、「ほしのゆめ」並からやや低い。
(3)品質および食味特性
 玄米は腹白、乳白が少なく良質で、「ほしのゆめ」、「きらら397」と同程度の"中上"である。搗精時間は「ほしのゆめ」、「きらら397」よりやや長く搗精歩合は「ほしのゆめ」、「きらら397」並である。精白米のアミロース含有率は、「ほしのゆめ」、「きらら397」より低く、「あやひめ」より高い。米粒の白濁程度は「あやひめ」や他の北海道の低アミロース品種より低い。タンパク質含有率は「ほしのゆめ」、「きらら397」よりもやや高い。玄米白度、白米白度は「ほしのゆめ」にやや劣る。食味は、粘り、柔らかさが「ほしのゆめ」「きらら397」より高く、総合値は「ほしのゆめ」より優る。糊化特性は「ほしのゆめ」と「あやひめ」との中間的な特性を示す。

3 試験成績

(1)特性調査成績

(2)生育・収量・品質調査(北農研標肥区、2000〜2004年)

(3)食味官能試験成績(北農研)

注)「ほしのゆめ」を基準(0)として各項目-3(不良)〜+3(良)の7段階で評価した。
2001〜2004年標肥栽培、延べ21回の平均値。

(4)澱粉中のアミロース含有率(%)(北農研)

(5)白米のタンパク質含有率(%)(北農研)

(6)玄米粒厚別割合調査(北農研、2000〜2004年の平均値)

(7)障害型耐冷性検定(北農研、2000〜2004年の平均値と総合判定)

(8)いもち病圃場抵抗性検定(葉いもちは北農研、穂いもちは中央農試、2000〜2004年の平均値と総合判定)

4 普及見込み地帯および対象品種
(1)栽培地帯   上川(士別以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、日高、胆振、渡島および檜山各支庁管内
(2)対象品種   「ほしのゆめ」の一部および「きらら397」の一部
(3)普及見込み面積   北海道 4,500ha

5 栽培上の注意
(1)粒厚が薄いので、米選には適切な篩い目を用いる。
(2)いもち病抵抗性は十分ではないので、適正な防除に努める。
(3)高い食味水準を維持するため、多肥栽培やタンパク質含有率の高くなりやすい土壌での作付けを避ける。

6 普及上の留意事項
 これまでに育成された低アミロース品種のアミロース含有率は10〜12%程度で、単品では粘りが強すぎるため主としてブレンド用として用いられている。「北海292号」のアミロース含有率は約14%で、炊飯米の粘り、柔らかさは既存の低アミロース品種に及ばないものの、「ほしのゆめ」、「きらら397」を上回り、総合評価も高い。単品利用での食味は非常に良く「ほしのゆめ」、「きらら397」を上回る。高温年においては玄米の白濁が見られるものの、既存の低アミロース品種に比べるとその程度は少ない。また、高温年の炊飯米の粘りやもち臭も既存の低アミロース品種にくらべて弱く、単品での利用が可能である。
 以上のことから、「北海292号」を「ほしのゆめ」の一部および「きらら397」の一部に替えて作付けすることにより、単品利用できる粘りの強い良食味米として新たな需要の開拓が可能となる。