「ばれいしょ新品種候補「北海89号」」(普及奨励事項)
北海道農業研究センター畑作研究部ばれいしょ育種研究室
執筆担当者 高田明子
ばれいしょ「北海89号」は、中早生のジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つチップ加工原料用で、「トヨシロ」同様に秋播き小麦の前作に栽培可能である。翌年2月までの貯蔵に適し、チップカラーが「トヨシロ」より優れる。
1 育成目的および来歴等
(1)育成目的
チップ加工原料用として道内で7,498ha(H15)栽培されている主力品種「トヨシロ」は、貯蔵後のチップカラーが悪く、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持たない欠点がある。「トヨシロ」並の熟期(中早生)で「トヨシロ」よりチップカラーが良く、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ品種の育成を目的とした。
(2) 来歴
早生の「とうや」を母、高でん粉価の「83068C-51」を父とするジャガイモシストセンチュウ抵抗性系統間の交配集団から育成された。
2 特性の概要
(1) 長所および短所
長所 1)ポテトチップカラーが優れる
2)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する
短所 1)休眠期間が中なので、長期貯蔵には適さない。
2)「トヨシロ」よりやや低収である
3)打撲に弱い
(2) 特性
「トヨシロ」と比べて熟性は同じ“中早生”で、茎長は同程度、一個重はやや小さく、収量はやや少なく、でん粉価は同程度である(表1)。いもは“倒卵形”で、目は浅く、目の数は少なく、肉色は“黄白”である(表2)。いもの生理障害の発生は、裂開がまれにみられるが、二次生長はなく、中心空洞はなく、褐色心腐れは“微”である。休眠期間は「トヨシロ」よりやや短い“中”で、打撲には弱い。病害虫抵抗性では、ジャガイモシストセンチュウに抵抗性持つ他、塊茎腐敗には強く、疫病やウイルス病に対する抵抗性はない(表3)。ポテトチップカラーは「トヨシロ」より優れ、翌年2月までの貯蔵に適する(図1)。
3 試験成績
図1 ポテトチップ加工実需者試験成績
(加工適性研究会、H15年北海道芽室産,H16年鹿児島県大隅産)
注)アグトロン値:ポテトチップの白度を示し、値が高いほど白く、チップの色が良い
加温:15℃2週間
実需者コメント:「北海89号」の澱粉価やカラー(焦げる程度)は問題がない。貯蔵後の芽の伸びが
「トヨシロ」より早く、長期貯蔵用としては使用できない。2月までのチップ原料として使用できる。 また、暖地産でも「トヨシロ」並〜以上のでん粉価とカラーが期待でき、有望である。 チップの色合いについては、黄色味がやや強いが許容範囲内である。 |
4 採用理由および普及見込み地帯
(1) 採用理由
「トヨシロ」の欠点を改良した様々な品種が普及途上にあるが、「トヨシロ」並の熟期でシストセンチュウ抵抗性を持つ品種が存在しない。「北海89号」は「トヨシロ」並の熟期であることから、「トヨシロ」に置き換えが可能で、現在「トヨシロ」を秋播き小麦の前作に作付けしている地域では同様に栽培可能である。低温貯蔵には向かないが、早掘り〜貯蔵後を通して「トヨシロ」よりチップカラーが良く、内部異常が少ないことから実需者の評価が高い。また、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つため、道内で年々高まっている抵抗性を持つ品種に置き換えたいという要望に答えることが出来る。
「北海89号」を「トヨシロ」の一部に置き換えることにより、高品質な原料の安定供給が可能となり、国内生産に寄与するものと考える。
(2) 普及見込地帯
北海道の加工原料用ばれいしょ栽培地帯
図2 普及見込み地帯における「北海89号」の「トヨシロ」に対する収量比(%)
収量:規格内収量(農試●、H14-16平均)、中以上いも重(現地▲、H15,16平均)
5 普及指導上の注意事項
(1) 栽植密度に対する反応が大きく、疎植では収量低下の度合いが大きいので避ける(図3)。
(2) 「トヨシロ」より打撲に弱いので、収穫や移送時に打撲を与えないように注意する。
(3) 目数が少ないので、種いもを切断する場合は頂芽の位置に十分注意する。不均等な切断により、茎数の減少、萌芽の不揃いを招き、疎植反応から収量低下に繋がる場合がある。
図3 施肥量および栽植密度による上いも重の変化(平成14-16年の平均値)
注)標肥区:N:P:K:Mg=6:17:10.2:5.1(kg/10a)、多肥区2倍量
密植区:75×24cm(5556株/10a)、標準植:75×30cm(4444株/10a)、
疎植区:75×40cm(3333株/10a),
6 その他
育成従事者氏名:森元幸、小林晃、高田明子、津田省吾、高田憲和、梅村芳樹、中尾敬、吉田勉、木村鉄也、米田勉、
百田洋二、串田篤彦、植原健人