成績概要書(2005年1月作成)
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課題分類:
研究課題:牛の枝肉形質と抗病性に関与する遺伝子領域の解析
       (牛のDNAマーカー育種技術の開発)
担当部署:道立畜試 家畜生産部 育種科 畜産工学部 代謝生理科・遺伝子工学科
協力分担:畜産技術協会附属動物遺伝研究所、家畜改良センター
予算区分:国補(DNA育種)
研究期間:2000〜2004年度
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1.目的
 黒毛和種のDNAマーカー育種技術を確立するため、枝肉形質に関与する量的形質遺伝子座(QTL)領域を同定する。また小型ピロプラズマ病と乳房炎抵抗性に関するDNAマーカー育種技術を確立するため、両疾病に対する抵抗性形質に関与するQTL領域の同定も行う。

2.方法
1)黒毛和種の枝肉形質に関するQTL領域の同定
 黒毛和種の優良種雄牛を父とする半きょうだい家系(去勢牛)300頭について255個のDNAマーカーの型判定を行い、枝肉形質に関するQTL解析を行った。
2)小型ピロプラズマ病抵抗性形質に関するQTL領域の同定
 黒毛和種とヘレフォードによるバッククロス子牛118頭についてTheileria sergenti(TS)の感染試験を行った。F1雄牛を父とする3家系(sire1〜3)について約440個のDNAマーカーの型判定を行い、抵抗性形質に関するQTL解析を行った。
3)乳房炎抵抗性遺伝子の同定
 6頭の種雄牛の娘牛478頭について454個のDNAマーカーの型判定を行い、初産次の体細胞数に関するQTL解析を行った。また、最も連鎖の強かった領域について候補遺伝子の解析を行い変異を検出した。

3.成果の概要
 1) 枝肉格付成績と画像解析形質に関与するQTLが1,9,13,14,19および21番染色体などに検出された(表1)。このうち9,13,14および21番染色体上のQTLは他の黒毛和種の家系でも検出された領域とほぼ一致し、同じ遺伝子が分離している可能性が示唆された。
 2) BMSNo.(脂肪交雑基準)に関与する19と21番染色体上のQTLのハプロタイプ(Q19とq19およびQ21とq21)はBMSNo.に対して相加的効果を持つことが示唆された(表2)。
 3) ヘレフォードは黒毛和種・F1よりTSに対する抵抗性が低く、F1と黒毛和種との間に抵抗性には差が認められなかったことから抵抗性遺伝子は優性効果を持つことが示された。また、TS抵抗性に関するQTLが8番と18番染色体に検出された(表3)。
 4) 初産次の体細胞数について22番染色体に最も強く連鎖する領域を検出した。この領域の候補遺伝子FEZLの変異によりアミノ酸配列の107番目にGlycine残基が挿入し、Glycine鎖12G型が13G型に変異することが分かった。この変異と初産次の体細胞数との関連が認められたことから、FEZLは乳房炎抵抗性遺伝子の一つと考えられた(図1)。

 黒毛和種の枝肉形質に関与する遺伝子領域を同定し、脂肪交雑基準が2か所の遺伝子領域の影響を受けていることを示した。また小型ピロプラズマ病と乳房炎抵抗性に関与する遺伝子領域を同定し、乳房炎抵抗性遺伝子の一つを明らかにした。

4.成果の活用面と留意点
 1)同定したQTL領域の情報はDNAマーカー育種と原因遺伝子解析のための基礎的情報である。効果検証を経た後、種雄牛やドナー牛の選抜情報として利用することができる。
 2)「ウシの乳房炎抵抗性遺伝子FEZLの遺伝子診断法(特願2004-256487)」について特許申請中である。

5.残された問題とその対応
 1)同定したQTL領域の効果検証 → サンプリングの継続と効果検証の解析
 2)他の黒毛和種家系におけるQTL情報の共有 → 全国の共同研究への継続参加
 3)FEZL遺伝子の効果検証 → ランダムサンプリングによる関連解析の実施